【本編完結/番外編追加】真・誓いの指輪〜彼のことは家族として……そして、人生の伴侶として愛することを心に決めました〜

山乃山子

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10、良い先生?②

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放課後。
今日も楓は担任の中岡の下で補習授業を受けていた。

「うんうん、そうだ。それで良い」
「は、はい」

着実に課題をこなす楓に、中岡が満足げに笑う。
そして彼の努力を労うようにポンポンと軽く肩を叩いた。
こうやって体に触れられるのは何度目だろうか。
頭を撫でられたり、肩に手を置かれたり、腕に触られたり……
彼なりの親しみ表現なんだろうと思ってはいるが、
楓は少しばかり居心地の悪さを覚えていた。

(気を遣ってくれてるんだろうから、悪く思っちゃ駄目だ)

そうやって自分を戒める。
しかし、他人に安易に触られると、どうしても事件のことが頭によぎってしまう。
浦坂実によって拉致されて暴行を受けていた時の記憶が。

(蒼真くんが言っていたことを気にしてるのかも)

今朝、友人の蒼真から聞かされた中岡の過去。
反抗的な生徒に対して手を上げたことがあるらしいとの噂話。
暴力に対して重いトラウマを抱えている楓は、神経質にならざるを得なかった。

「藤咲?」
「えっ……」

ぼんやりとしていたところ、頬に冷たい感触が当てられる。
中岡に手を当てられていたのだ。
そのことに気付き、楓は思わず目を見開く。

「どうした? 顔色が悪いな」
「そ、そうですか?」

中岡は険しい顔の中に心配の色を帯びていた。

「体調が悪いようなら、今日はここまでにしておこうか」
「はい。すみません」
「謝ることじゃない」
「でも、僕の為にわざわざ時間を作ってもらってるのに」
「気にするな。教師として当然のことだ」
「ありがとうございます」

体に触れられることへの違和感が拭えないが、それでも中岡への感謝の気持ちが湧き上がる。
それと同時に申し訳ない気持ちも。

(やっぱり、あれはただの噂だよね。
 こんなに良くしてくれてるのに、穿った目で見て悪かったなぁ)

罪悪感からか、目を伏せてしまう。

「じゃあ、気を付けて帰るように……と言いたいところだが」
「?」
「まともに帰れるか? 体が辛いようなら私の車で家まで送るが」
「いいえ、大丈夫です。そこまで先生に迷惑はかけられませんから」
「そうか。まあ良い。助けが必要ならいつでも言いなさい」
「はい。ありがとうございます」

少し残念そうに顔を曇らせて、中岡は教室を出て行った。
一人になった途端、楓は大きく息をつく。
体から力が抜ける思いを自覚して、それまで自分が緊張していたことを知る。
心拍数も上がっていた。
こうなると、何もないのに全身が不安感でいっぱいになってしまう。
精神を安定させる薬を飲みたいところだが、副作用として酩酊状態になってしまう。
だから、ここで飲むことはできない。

「はあ……はあ……」

鼓動と不安感を落ち着かせようと呼吸を整える。
そんな中、楓は服の中に隠していたネックレスを取り出した。
鎖にかけられている指輪を握り締める。
“お守り”として康介から貰い受けた指輪だった。

(大丈夫。大丈夫。これがあるから大丈夫)

指輪を握り締めると康介に守られているような気分になるのだ。
やがて心拍数も呼吸も落ち着きを取り戻してゆく。

「よし、もう帰ろう」

まだ完全に落ち着いたわけではなかったが、楓は立ち上がって教室を出ることにした。
今日こそは康介よりも先に帰って、ちゃんと「お帰りなさい」を言いたい。
その思いが、彼に少しばかり無理をさせた。
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