その心理学者、事件を追う/恨む人

山乃山子

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(7)教授と助手、話し合う[1]

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 静かになった部屋の中で、藤本はコーヒーカップを片付ける。
 僅かに残っていたコーヒーを飲み干して、神里は空のカップを藤本に手渡した。
 そしてニヤリと笑って話しかける。

「お手柄だったな」
「何がですか?」
「警察に有力な情報をくれてやったじゃねえか」
「偶然ですよ。たまたま、あの人とあのタイミングで出くわしただけで
 僕自身は何もしてませんよ」
「じゃあ、あの時お前さんに買い出しに行くよう命じた俺の手柄だな」
「なんですか、それは」

 自分に都合の良いトンデモ理論を繰り出す神里に、藤本は呆れながら苦笑する。
 かと思うと、急に顔から表情を消した。そして神里に問いかける。

「先生」
「何だ?」
「蒲生温人って人のことですけど……本当に彼が犯人だと思いますか?」
「何が言いたい?」
「僕の印象としては、あの人が殺人犯とは思えないんです」
「ふむ。実際に会って話した印象はどうだったんだ?」
「やたらオドオドしてて、必要以上に何度も謝っていて、
 とにかく気が弱い……うーん、もっと言えば
 臆病な性格のせいで損をするタイプの人だと思いました」
「なるほど。確かに、俺も奴の顔を見た時に似たようなことを思った。
 まあ、あれは悪人のツラじゃねえよなあ」
「じゃあ……」
「だが、人間性と犯罪行為は必ずしも一致しない。
 お前さんもよく分かっているだろう?」
「う……」
「犯行現場に奴の指紋があったのは事実だ。現在逃亡中であることもな。
 蒲生温人が被害者を殺してそのまま逃げた、
 と警察がそう考えるのは当然のことだ。そこに奴の人間性は関係ない」
「確かに、おっしゃる通りです」
「まあ、いずれ警察が奴を見つけ出す。
 それから本人に聞いてみるしかないな。現場で何があったのか、を」
「そうですね」

 神里の言葉に藤本は頷く。
 大きくて深い息を吐いて、神里は天井を見上げた。

「あーあ、すっかり酔いが醒めちまったなあ。
 せっかく今夜は良い気分だったってのに」

 ソファの背もたれにもたれ掛かり、ぼやく。
 そんな神里に藤本が声を掛けた。

「もう一杯だけ、ウイスキーでも飲みますか? 氷、入れてきますよ」
「そうだなあ……飲み直すか」

 そう言うと神里はソファから勢いよく立ち上がった。

「おい藤本、さっさとこの辺を片付けて出かける支度をしろ」
「え?」
「今から街に繰り出して飲み直すんだよ。お前さんも付き合え」
「え? えーと、用事があるので僕は遠慮させて頂きま……」
「俺の奢りだぞ?」
「行きます」

 即答する藤本に、神里はニンマリと笑う。

「よーし、決まりだな。じゃあさっさと準備しろ。制限時間は5分だ」
「短いです」
「5分もあったら充分だろうが。ほら、急げ急げ」
「はいはい」

 神里に急かされながら藤本はテーブルの上を片付ける。
 程なくして二人は研究室を後にした。
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