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(6)事件、起こる③
しおりを挟む「どうした? 何か気付いたのか?」
「今日の昼頃、この人に会いました」
「え?」
三人の視線が一気に彼に集まる。
「どこでだ?」
「買い出しに行った帰りの途中の道です。
会ったと言うより、歩いていてぶつかったんですけど」
思い出しながら答える藤本に、千波が食い付く。
「それ、確かなの?」
「多分」
「場所についてもっと詳しく教えてくれるかしら?」
「ええと、新宿駅近くのショッピングセンターから
西へ10分ほど歩いた所だったと思います」
「どんな格好だった?」
「確か……グレーのパーカーとジーンズ、
それから黒のショルダーバッグを持っていました」
「地味過ぎて人混みに紛れたらまず見つけられない格好だな」
「藤本君、彼とぶつかったって言ってたけど、どういう状況だったの?」
「ちょうど曲がり角がある辺りでこの人が現れました。
すごく急いでいたみたいで、勢いよくぶつかってしまったんです」
「逃げる為に急いでたのか」
「今にして思えば、そうだったのかもしれませんね」
「どこに行ったのか分かる?」
「新宿駅の方向でした。時間は12時の少し手前ぐらいだったと思います」
「分かったわ。その時間帯の駅と駅周辺の防犯カメラを確認してみるわね」
「上手くいけば、そこから蒲生の足取りを掴めるかも知れませんね」
「そうね。すぐにでも取り掛かりましょう」
深井の言葉に千波が頷いた。そして二人はソファから立ち上がる。
その時、藤本が静止を求めた。
「すみません、ちょっと待って下さい」
「どうしたの?」
「これ……」
藤本はカーディガンのポケットから手のひらサイズの箱を取り出した。
青い包装紙でラッピングされた、プレゼントのような箱を。
「これは?」
「蒲生さんの落とし物です」
「え?」
「僕が蒲生さんとぶつかった拍子に彼が落としていったものです。
帰宅する時に交番に届けようと思っていたのですが。
これって捜査の参考になりますか?」
藤本が箱を差し出すと、千波は目を輝かせて受け取った。
「もちろんよ! これ、預からせてもらうわね」
「どうぞ」
千波は受け取った箱を証拠品袋に入れて、丁寧に鞄の中に収めた。
そして神里たちに向かって改めて頭を下げる。
「ではお二人とも、ご協力ありがとうございました。我々は捜査に戻ります」
「ああ、ご苦労さん。頑張れよ」
「はい。ありがとうございます」
もう一度、小さく頭を下げて千波は深井と共に研究室を後にした。
有力な手掛かりを得たその背中は意気揚々としていた。
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