搾り取られる

ken

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オレはさぁ、本当に人助けばっかしてんのよ。
おまえにも散々世話してやってるもんな~。
駐車場の件とか。アレがなかったらおまえ今頃、店もヤバかっただろ?

はー、そうっすね。
マジでありがたかったっすよ。

だろう?
妹の子供もだよ?
妹はさ、ネグレクトってやつ?
ろくすっぽ子育てなんかできやしねぇの。昔から頭がちょっと弱い女だったから、妹は。たぶんありゃ障害者だったんだよ、今で言う。
でも昔はそんなの今みたいになかったでしょ。
頭弱いヤツはただバカなヤツってだけで。
頭弱いわ股は緩いわ、もう最低よ。そんでどこの馬の骨とも知らん男の子供を作って、急に実家に帰ってきたと思ったら年寄りに子供押し付けてとんずらよ?酷いでしょ。
それをさ~、親父とお袋に頼んで育ててもらって。こっちも心配だからしょっちゅう見に行ってさ、ちゃんとやってんのか。
親がいない子供なんて碌なもんじゃないだろ?年寄りに甘やかされて育ったらますますダメになる。
だからちゃんと躾もしてやって。
そいつもそいつでなんかトロいボーッとしたガキで。やっぱり遺伝ってあんのかなぁ。
頭悪いから通信の高校行ったのに結局辞めて。
ずっとニートよ。
でも、お袋が死ぬまでは家に置いてやって面倒見たんだよ。見てないと金の管理も出来ねぇからちゃんと家計簿付けさせて毎月チェックしてね。オレの嫁も節約術教えてやってさ。チラシをチェックして安いところ教えて、節約レシピとかちゃんと教えてやってさ。でも、はい、はいって言うだけで何考えてるか分かったもんじゃねえ。
結局実家も売る事になって、住み込みの働き先まで用意してやったのによ~。
本当、アレは親も親なら子も子だったよ。

ひどいっすね~。
大変ですね~、横山さんも。

本当だよ。
なまじ自営で金があると思ってたかってきたりするヤツ、いるからね。
ガキもさ、お袋死んでも家に居座れると思ったんじゃねえ?本当、図々しいったらねぇよ。何年も家賃も払わずにお袋の年金にたかって生活して。
叩き出してやっても良かったとこを、ちゃんと住み込みの仕事見つけてやって。
ろくに礼も言わねぇ。
本当今時のガキはどうなってんのかねぇ。

そうっすね~



はー、反吐が出る。
何度も何度も繰り返し聞いた話だ。

横山正治。
予約は直前に強引に捩じ込んでくるし、ドタキャンや遅刻は当たり前。店の駐車場を借りている縁で来店するようになったのだが、こっちは賃料払って借りてるだけなのに、貸してやっているという態度で厚かましく、はっきり言って田舎のお山の大将丸出しでダサい。ダサい事この上ない。
でも、ここらの土地をいくつか所有している地主で、怪しげな人材派遣会社をしているこの男は、敵に回すと面倒臭そうで、切れない。

田舎で美容師をやってると時折こういう客が来る。でも、東京で自分が店を持てたか、と言われると、それは全く無理な話だったと答えざるを得ない。10年いた代官山の美容室で、自分はどう頑張っても5番手以上にはなれなかった。家賃が100万以上するような土地で、利益を上げられる腕も商才もない。親からもらった金と銀行のローンを足して実家の床屋を建て替えたこの店は、この辺りではオシャレな美容室だ。それでもこういう田舎者丸出しの客も来る。クーポンで割引しないといけなかったり、下世話な週刊誌を何冊も置かないといけなかったり。妥協にはもう慣れた。それでもここは自分の城だ。東京で5番手で終わるより、ずっと良かったはずだ。それを自分が守っていかないといけない。だから
「あんた、そのガキに親の介護押し付けて、用無しになったら追い出したんだろ?住み込みの仕事探してやったって言うけど、場末のキャバクラのボーイだろ?」
佐幸淳はそう言いたいのをグッと飲み込んだ。

昔、一度だけその子の髪を切ってやった事があった。東京から帰って来たばかりの時で、まだ店をやる決心が付かず、時々親の床屋で働く以外はブラブラしていた淳は、パチンコ帰りにたまたま通りかかった公園で、その子を見かけた。
中学生か高校生くらいのその子は、公園のベンチに座って髪の毛を切っていた。鏡も見ずに、工作用のハサミみたいなので一房一房髪を切り、膝に乗せたビニール袋に入れていた。当然髪はギザギザの段違いに切られて、無惨な髪型だった。でもその子はそんな事は気にせず一心不乱に髪を切っていた。
遠目に見てもキレイな男の子だった。勿体ないな、そう思った。
声をかけるとその子は、公園で髪を切っていた事を咎められると思ったのか、ビクリと肩を震わせ怯えたような目で
「すみません。」
と言った。
「謝んなくて良いよ。うち床屋だから、切ってあげるよ。」
というと、首をブンブンと横に振ってお金を持ってないからと断った。
「いいよ、お金。練習台になって。もうすぐ、美容室オープンしようと思ってるからさ。」
でも…と遠慮するその子を、半ば強引に店に連れて行って髪を切った。細くて真っ直ぐな、キレイな黒髪をしていた。
切り終わって鏡を見せると
「ありがとうございます。」
とはにかんだように小さく微笑んだ。
ありがとうございます。お金無くてごめんなさい。と何度も何度も頭を下げて帰っていくその子を見送りながら、この町で美容室をやるのも悪くないかもな、と思った。

客の男がいつも声高に罵る「バカでアバズレな妹に押し付けられた躾のなってないクソガキ」が、その時の男の子だと知ったのは、それからずいぶんしてからだった。たまたま行ったスーパーで、その男に怒鳴りつけられている男の子を目撃したからだ。彼は伸び切った髪で、両手にぎっしりと詰まったスーパーの袋を下げて、黙って項垂れて怒鳴られていた。

怒鳴られる事に、慣れているようだった。
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