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クリーナー
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ユーキと出会ったのは割と最近。
初めて出会った時、ユーキはひどく泣いていた。トイレの便器を磨きながら泣いていて、泣き過ぎてほとんど磨けていなかった。頭はびしょびしょに濡れていて、顔に擦り傷があって、まあ見事にかわいそうな男の子だった。この子泣くと頭からも涙が出るの?ってちょっとびっくりしたけれど、そんなわけはない。
あのクソガキにトイレブラシで頭を便器の中に押し付けられたまま水を流されたからびしょびしょに濡れていたんだって知ったのは、それから何度もやられてるのを見たから。最近はトイレ掃除はほぼ私の担当になってたから、この間やられたのは私。クソむかついたけれど、まあやられたのが私で良かった。ユーキはそれやられると恐怖からか抵抗してもがくから、余計に強く押さえつけられて、息もうまくつげずにもろ鼻に水を入れられてしまって、さらに恐怖に陥ってパニックになるから。それからショックで泣きじゃくって、掃除も手につかなくなる。だから最近はトイレ掃除は最初から私がやる。
基本、私は掃除が好き。だからクリーナー。掃除って、手順通りにやるとちゃんと完了するところが良い。いかに合理的にやるか、段取りを組むのはゲームのよう。掃除なら何時間やっても苦にならない。時々あのキチガイババアとクソガキがいちゃもんを付けてきて、暴力を振ってきたり嫌がらせしたり、キンキンと耳障りな声で怒鳴り散らしたりするのが超ウザいけれど。それがなかったらこんなに楽しい仕事はない。だから本当は全部掃除やってあげても良いんだけれど、ナースが、なるべく長い時間ユーキはユーキでいた方が良いっていうから。だから交代は、トイレ掃除と、どうしてもユーキができなくなった時だけ。
最近はお風呂掃除も交代する事が多い。
私は水回りの掃除ってけっこう好きなんだけれど、ユーキはいろいろやられてるせいか水が苦手。それに最近、アイツらはユーキをお風呂に連れてきてしばく。だから、ユーキはお風呂は罰の場所って認識しちゃってて、お風呂に入るだけで震え出す事もある。もっと早くペインと交代すれば良いのに、ユーキはなかなかペインと交代したがらない。
私は、私たちはとても良いチームだと思ってる。ユーキとペイン、ナースと私、それから新入りのグッドボーイ。グッドボーイとユーキはとてもよく似ていて、実を言うと私は時々区別がついていない。ナースは全部把握してる。ナースは私たちのリーダー。
今日はたっぷり掃除ができて、私はけっこう機嫌が良い。ナースからはもう少し用心しないとって叱られるけど、私は掃除をしてるとついつい没頭してしまって、だめ。鼻歌歌いそうにすらなる。一応、あのキチガイ親子が今どこにいるかは把握してるんだけど、アイツらが外出してる時なんかはもう天国。本当につくづく、これって私の天職だと思う。昨日の夜は土曜日なのに珍しく夜ご飯にありつけたらしく、今日は身体も調子が良い。
今朝はとりあえず、ユーキの苦手な水回りから始めて、次にアイツらが特にうるさい玄関周り。タイルは毎日ユーキが雑巾掛けしているのですぐに済んだけれど、下駄箱の中身を全部出して拭きあげるのに意外と時間がかかった。今は靴磨き中。
本当にマジで自分でやれっつーの、クソババアども。
家中の掃除機はかけ終わったし、台所のシンクの掃除も終わった。洗い物も完璧。これが終わったら、階段と台所の床の雑巾掛け。アイツらが帰る前に終わらせたい。
本当は上り框に腰掛けて磨きたいけれど、いつあのクソババアどもが帰ってくるか分からないから、たたきに直接座り込んでやる。足が冷たいし、ちょっと痛い。昔ユーキが上り框に腰掛けて靴を磨かされてたら、あのクソガキが「ドレイの分際でそんなとこに座ってんじゃね~たたきで正座してやれ」って言い出して、ボコボコにされたらしい。頭おかしいんだろうな、たぶん。以来ユーキはクソ真面目にたたきで正座して靴を磨く。私は正座まではしないけれど、あっちに腰掛けるのはやめておく。今はペインを休ませないといけないから、特に慎重になるようにってナースからキツく言われているから。
ナースの見立てでは、ペインはあと1週間は眠らせておかないといけないらしい。でも、それでその分ユーキがやられたら、一緒なんじゃないの?私たち、身体はひとつしかないんだから、って言ったけれど、ナースによると全く一緒ではないらしい。とはいえ、身体がひとつしかないのは事実。だから私たちは協力して、ペインはもちろん、なるべくユーキもやられないように努力する。
金曜日、あのクソガキが学校の友達を3人連れてきて、4人でユーキを甚振り始めた。マジで、クソにはクソ見事にクソの友達ができるんだな。感心した。ユーキは罰の時のようにパンツ1枚に服を脱がされて、傷だらけの身体を、特にユーキが一番見せたくないドレイの文字の火傷を、散々嘲られた。それから、ユーキの身体の傷を的に、アイツらはダーツをやり始めた。傷ついた部分に針を刺されるんだから、相当痛かったと思う。でもユーキは耐えた。ユーキはペインと交代するのを嫌がるから、ペインはなかなか出ていけなかった。ダーツに飽きてアイツらがプレステをやり出しても、ユーキは部屋から出る事を許されず、部屋の隅で立たされててた。ユーキは一生懸命抑えようとしてたけれど、震えが止められなかった。身体からは血が出ていた。
アイツらはプレステでシューティングゲームをし始めて、大音響で流される銃の音にユーキはますます震え出した。そのうち1人のクソガキが、ゲームで何か失敗する度にユーキを殴りつけて、ユーキはいつ殴られるか分からない恐怖からほとんどパニックになっていた。
ユーキ!もう限界だよ、出して!
ペインが叫んで、ユーキはようやく意識を手放した。
ペインは全く震えず、まっすぐ前を見て立った。さすがペイン。でもそれが気に入らなかったのか、それとも単純にゲームに飽きたのか、奴らの暴力はどんどん加速した。ペインすら立っていられないほど殴られて、蹲るペインに、奴らは目隠しをした。なんにせよ、碌でもない事が始まるのは目に見えていた。目隠しをしたペインを奴らは立たせようとしたけれど、ペインは四つ這いになったまま動けず、奴らは立たせるのを諦めた。
「ゲームに入れてやるよ、ドレイ」
クソガキが言って、ベルトやらゴムホースやら竹定規やらハンガーやら、要はいつもユーキやペインが罰と称して叩かれる道具を集めてきた。
「何で叩かれたか当てるクーイズ!」
ガキどもは何が楽しいのかゲラゲラと笑っていた。胸糞悪い光景を、私はそれ以上見てられなかった。
「ナース、私が出て行って、アイツらを掃除するってのはどう?」
「想像するとかなり胸がすくけど、でもダメ。ユーキを、死なせも、犯罪者にもしない。その為に私たちはいるのよ。」
結局、ユーキとペインは合計して2時間半以上、甚振られた。
クソのクソ仲間が帰っていって、ペインがボロ雑巾のように部屋の外に蹴り出された時には、もうクソババアが帰ってきていて、アイツは文字通りボロボロにされて動く事もできないペインを一目見て鬱陶しそうに蹴り付け、一言。
「起き上がって仕事しろよ」
いつもならすぐに起き上がるペインも、その日ばかりは震えるばかりで動けなかった。背中は酷い有様だった。全体に真っ赤で、皮膚が裂けて幾筋も血が流れ、まるで割れた西瓜のようだった。首筋や腕、脚も、痣の無い部分がないくらいに痛めつけられていて、ペインは絞り出すような声で懇願した。
「今日は仕事は無理です。このまま学校に行ったら、傷がバレます。週末だけ、いや、今日だけ休ませて下さい。お願いします。この傷がバレたら、高校にも話がいっちゃうかも知れないから。お願いします。」
「は?お前が?ドレイの分際で私を脅すつもり?」
「違います!違います!ごめんなさい。迷惑をかけないためにはそれしかないから。明日にはちゃんと仕事します。ごめんなさい。でも、僕、学校で目をつけられてるし。このまま学校行ったり、何日も休んだりしたら、たぶん教師は通報します。」
「埋め合わせはしてもらうからね。」
「はい。必ずします。ありがとうございます。」
ペインは歯を食いしばって上体を起こし、床に頭を擦り付けるようにしてお礼を言い続けた。まるで、クソババアがとてつもない親切な事をしてくれたかのように。
さすがに息子がやり過ぎた事に気付き、ババアは土曜日も休ませてくれた。ナースが土下座して頼み込んで、痛み止めの市販薬と誰かが飲み忘れて古くなった抗生物質の飲み薬をもらった。痛みで眠れなかったペインは、土曜日の朝にそれを飲んでようやく眠った。土曜日の夜にはおにぎりが1つもらえた。金曜日、夜通しペインにお話を語ってたユーキも、今はペインと一緒に眠っている。私たちはみんな土曜日一日中寝て、日曜日の朝、私が起きてきて今は掃除をしている。
どういう仕組みかはわからないけれど、私たちは同じ身体を使っているのに、私はあまり苦痛を感じない。息を吸うと少し脇腹が痛いし、お腹が空くと身体に力が入らないけれど、激しい痛みは感じないし、疲れや空腹もぼんやりとしか分からない。それはたぶんナースとグッドボーイも同じ。でも、身体は1つだから、それほど苦痛を感じていないのに突然倒れてしまう事もある。そうならないように、ナースが上手に管理している。もう寝ないとダメとか、これ以上痛めつけられるとペインも壊れる、とか。
私たちは感情も分担している。私は悲しいという気持ちは分からないし、恐怖もほとんど感じない。そのかわり、私が感じるのは怒り。ナースが止めなかったら、私はたぶんあのキチガイ親子を殺している。私は心底アイツらを憎んでいるし、学校の教師も生徒も、ユーキを苦しめるものはみんな死ねば良いと思ってる。
ユーキは逆に、あまり怒りを感じない。怒りや憎しみより、悲しみと恐怖が強くて、それからペインに対する罪悪感とか、アイツらに自尊心をぐちゃぐちゃに踏み潰されたせいとかで、強い自罰感情がある。だからアイツらの暴力をやられるままに受け入れちゃってる。追い詰められたらユーキは、アイツらを殺すよりもきっと、自分を殺してしまう。
ナースはユーキを守る事だけを考えている。いつも冷静で、感情を見せる事はほぼないけれど、心の奥底には強い怒りと悲しみがある。それは分かる。
ナースとグッドボーイはどちらもとても賢いけれど、グッドボーイはナースよりももう少し感情的だ。小学生らしい感情を一番持っているのがグッドボーイ。グッドボーイは素晴らしく勉強ができるけれど、その他の面では少し子供っぽい。ナースに褒められたくて仕方がないのがバレバレ。褒められないと拗ねるし、学校でも本当は友達を作りたいと思ってる。学校ではナースに言われてしぶしぶユーキのキャラを壊さないようにしているけれど。ユーキはそんな明るいグッドボーイに憧れてる。2人は良い友達だ。ユーキは学校ではほとんど心を閉ざして、お話しを収集する事に集中してるけれど、グッドボーイはクラスメイトを観察して心の中で揶揄ったりして遊んでいる。グッドボーイのするクラスメイトの悪口は、はっきり言って最高。ユーキすら吹き出してしまう。
ペインは。ペインが1番分からない。どんなに痛めつけられても、ペインは絶対に泣かないし、ほとんど表情を変えない。ペインの心は現実ではなく、物語の中にしか存在していないかのようだ。ペインはユーキのために率先して痛めつけられに行く。ナースもペインの事だけは止められない。でも、ユーキからお話を聞いている時のペインは、どんなに身体が傷ついていても、とても安らかな顔をしている。
私たちは最高のチーム。でも、私は時々思う。ペインは痛めつけられるためだけに存在しているのだろうか?じゃあ私は?私は何のために存在しているのだろう。
初めて出会った時、ユーキはひどく泣いていた。トイレの便器を磨きながら泣いていて、泣き過ぎてほとんど磨けていなかった。頭はびしょびしょに濡れていて、顔に擦り傷があって、まあ見事にかわいそうな男の子だった。この子泣くと頭からも涙が出るの?ってちょっとびっくりしたけれど、そんなわけはない。
あのクソガキにトイレブラシで頭を便器の中に押し付けられたまま水を流されたからびしょびしょに濡れていたんだって知ったのは、それから何度もやられてるのを見たから。最近はトイレ掃除はほぼ私の担当になってたから、この間やられたのは私。クソむかついたけれど、まあやられたのが私で良かった。ユーキはそれやられると恐怖からか抵抗してもがくから、余計に強く押さえつけられて、息もうまくつげずにもろ鼻に水を入れられてしまって、さらに恐怖に陥ってパニックになるから。それからショックで泣きじゃくって、掃除も手につかなくなる。だから最近はトイレ掃除は最初から私がやる。
基本、私は掃除が好き。だからクリーナー。掃除って、手順通りにやるとちゃんと完了するところが良い。いかに合理的にやるか、段取りを組むのはゲームのよう。掃除なら何時間やっても苦にならない。時々あのキチガイババアとクソガキがいちゃもんを付けてきて、暴力を振ってきたり嫌がらせしたり、キンキンと耳障りな声で怒鳴り散らしたりするのが超ウザいけれど。それがなかったらこんなに楽しい仕事はない。だから本当は全部掃除やってあげても良いんだけれど、ナースが、なるべく長い時間ユーキはユーキでいた方が良いっていうから。だから交代は、トイレ掃除と、どうしてもユーキができなくなった時だけ。
最近はお風呂掃除も交代する事が多い。
私は水回りの掃除ってけっこう好きなんだけれど、ユーキはいろいろやられてるせいか水が苦手。それに最近、アイツらはユーキをお風呂に連れてきてしばく。だから、ユーキはお風呂は罰の場所って認識しちゃってて、お風呂に入るだけで震え出す事もある。もっと早くペインと交代すれば良いのに、ユーキはなかなかペインと交代したがらない。
私は、私たちはとても良いチームだと思ってる。ユーキとペイン、ナースと私、それから新入りのグッドボーイ。グッドボーイとユーキはとてもよく似ていて、実を言うと私は時々区別がついていない。ナースは全部把握してる。ナースは私たちのリーダー。
今日はたっぷり掃除ができて、私はけっこう機嫌が良い。ナースからはもう少し用心しないとって叱られるけど、私は掃除をしてるとついつい没頭してしまって、だめ。鼻歌歌いそうにすらなる。一応、あのキチガイ親子が今どこにいるかは把握してるんだけど、アイツらが外出してる時なんかはもう天国。本当につくづく、これって私の天職だと思う。昨日の夜は土曜日なのに珍しく夜ご飯にありつけたらしく、今日は身体も調子が良い。
今朝はとりあえず、ユーキの苦手な水回りから始めて、次にアイツらが特にうるさい玄関周り。タイルは毎日ユーキが雑巾掛けしているのですぐに済んだけれど、下駄箱の中身を全部出して拭きあげるのに意外と時間がかかった。今は靴磨き中。
本当にマジで自分でやれっつーの、クソババアども。
家中の掃除機はかけ終わったし、台所のシンクの掃除も終わった。洗い物も完璧。これが終わったら、階段と台所の床の雑巾掛け。アイツらが帰る前に終わらせたい。
本当は上り框に腰掛けて磨きたいけれど、いつあのクソババアどもが帰ってくるか分からないから、たたきに直接座り込んでやる。足が冷たいし、ちょっと痛い。昔ユーキが上り框に腰掛けて靴を磨かされてたら、あのクソガキが「ドレイの分際でそんなとこに座ってんじゃね~たたきで正座してやれ」って言い出して、ボコボコにされたらしい。頭おかしいんだろうな、たぶん。以来ユーキはクソ真面目にたたきで正座して靴を磨く。私は正座まではしないけれど、あっちに腰掛けるのはやめておく。今はペインを休ませないといけないから、特に慎重になるようにってナースからキツく言われているから。
ナースの見立てでは、ペインはあと1週間は眠らせておかないといけないらしい。でも、それでその分ユーキがやられたら、一緒なんじゃないの?私たち、身体はひとつしかないんだから、って言ったけれど、ナースによると全く一緒ではないらしい。とはいえ、身体がひとつしかないのは事実。だから私たちは協力して、ペインはもちろん、なるべくユーキもやられないように努力する。
金曜日、あのクソガキが学校の友達を3人連れてきて、4人でユーキを甚振り始めた。マジで、クソにはクソ見事にクソの友達ができるんだな。感心した。ユーキは罰の時のようにパンツ1枚に服を脱がされて、傷だらけの身体を、特にユーキが一番見せたくないドレイの文字の火傷を、散々嘲られた。それから、ユーキの身体の傷を的に、アイツらはダーツをやり始めた。傷ついた部分に針を刺されるんだから、相当痛かったと思う。でもユーキは耐えた。ユーキはペインと交代するのを嫌がるから、ペインはなかなか出ていけなかった。ダーツに飽きてアイツらがプレステをやり出しても、ユーキは部屋から出る事を許されず、部屋の隅で立たされててた。ユーキは一生懸命抑えようとしてたけれど、震えが止められなかった。身体からは血が出ていた。
アイツらはプレステでシューティングゲームをし始めて、大音響で流される銃の音にユーキはますます震え出した。そのうち1人のクソガキが、ゲームで何か失敗する度にユーキを殴りつけて、ユーキはいつ殴られるか分からない恐怖からほとんどパニックになっていた。
ユーキ!もう限界だよ、出して!
ペインが叫んで、ユーキはようやく意識を手放した。
ペインは全く震えず、まっすぐ前を見て立った。さすがペイン。でもそれが気に入らなかったのか、それとも単純にゲームに飽きたのか、奴らの暴力はどんどん加速した。ペインすら立っていられないほど殴られて、蹲るペインに、奴らは目隠しをした。なんにせよ、碌でもない事が始まるのは目に見えていた。目隠しをしたペインを奴らは立たせようとしたけれど、ペインは四つ這いになったまま動けず、奴らは立たせるのを諦めた。
「ゲームに入れてやるよ、ドレイ」
クソガキが言って、ベルトやらゴムホースやら竹定規やらハンガーやら、要はいつもユーキやペインが罰と称して叩かれる道具を集めてきた。
「何で叩かれたか当てるクーイズ!」
ガキどもは何が楽しいのかゲラゲラと笑っていた。胸糞悪い光景を、私はそれ以上見てられなかった。
「ナース、私が出て行って、アイツらを掃除するってのはどう?」
「想像するとかなり胸がすくけど、でもダメ。ユーキを、死なせも、犯罪者にもしない。その為に私たちはいるのよ。」
結局、ユーキとペインは合計して2時間半以上、甚振られた。
クソのクソ仲間が帰っていって、ペインがボロ雑巾のように部屋の外に蹴り出された時には、もうクソババアが帰ってきていて、アイツは文字通りボロボロにされて動く事もできないペインを一目見て鬱陶しそうに蹴り付け、一言。
「起き上がって仕事しろよ」
いつもならすぐに起き上がるペインも、その日ばかりは震えるばかりで動けなかった。背中は酷い有様だった。全体に真っ赤で、皮膚が裂けて幾筋も血が流れ、まるで割れた西瓜のようだった。首筋や腕、脚も、痣の無い部分がないくらいに痛めつけられていて、ペインは絞り出すような声で懇願した。
「今日は仕事は無理です。このまま学校に行ったら、傷がバレます。週末だけ、いや、今日だけ休ませて下さい。お願いします。この傷がバレたら、高校にも話がいっちゃうかも知れないから。お願いします。」
「は?お前が?ドレイの分際で私を脅すつもり?」
「違います!違います!ごめんなさい。迷惑をかけないためにはそれしかないから。明日にはちゃんと仕事します。ごめんなさい。でも、僕、学校で目をつけられてるし。このまま学校行ったり、何日も休んだりしたら、たぶん教師は通報します。」
「埋め合わせはしてもらうからね。」
「はい。必ずします。ありがとうございます。」
ペインは歯を食いしばって上体を起こし、床に頭を擦り付けるようにしてお礼を言い続けた。まるで、クソババアがとてつもない親切な事をしてくれたかのように。
さすがに息子がやり過ぎた事に気付き、ババアは土曜日も休ませてくれた。ナースが土下座して頼み込んで、痛み止めの市販薬と誰かが飲み忘れて古くなった抗生物質の飲み薬をもらった。痛みで眠れなかったペインは、土曜日の朝にそれを飲んでようやく眠った。土曜日の夜にはおにぎりが1つもらえた。金曜日、夜通しペインにお話を語ってたユーキも、今はペインと一緒に眠っている。私たちはみんな土曜日一日中寝て、日曜日の朝、私が起きてきて今は掃除をしている。
どういう仕組みかはわからないけれど、私たちは同じ身体を使っているのに、私はあまり苦痛を感じない。息を吸うと少し脇腹が痛いし、お腹が空くと身体に力が入らないけれど、激しい痛みは感じないし、疲れや空腹もぼんやりとしか分からない。それはたぶんナースとグッドボーイも同じ。でも、身体は1つだから、それほど苦痛を感じていないのに突然倒れてしまう事もある。そうならないように、ナースが上手に管理している。もう寝ないとダメとか、これ以上痛めつけられるとペインも壊れる、とか。
私たちは感情も分担している。私は悲しいという気持ちは分からないし、恐怖もほとんど感じない。そのかわり、私が感じるのは怒り。ナースが止めなかったら、私はたぶんあのキチガイ親子を殺している。私は心底アイツらを憎んでいるし、学校の教師も生徒も、ユーキを苦しめるものはみんな死ねば良いと思ってる。
ユーキは逆に、あまり怒りを感じない。怒りや憎しみより、悲しみと恐怖が強くて、それからペインに対する罪悪感とか、アイツらに自尊心をぐちゃぐちゃに踏み潰されたせいとかで、強い自罰感情がある。だからアイツらの暴力をやられるままに受け入れちゃってる。追い詰められたらユーキは、アイツらを殺すよりもきっと、自分を殺してしまう。
ナースはユーキを守る事だけを考えている。いつも冷静で、感情を見せる事はほぼないけれど、心の奥底には強い怒りと悲しみがある。それは分かる。
ナースとグッドボーイはどちらもとても賢いけれど、グッドボーイはナースよりももう少し感情的だ。小学生らしい感情を一番持っているのがグッドボーイ。グッドボーイは素晴らしく勉強ができるけれど、その他の面では少し子供っぽい。ナースに褒められたくて仕方がないのがバレバレ。褒められないと拗ねるし、学校でも本当は友達を作りたいと思ってる。学校ではナースに言われてしぶしぶユーキのキャラを壊さないようにしているけれど。ユーキはそんな明るいグッドボーイに憧れてる。2人は良い友達だ。ユーキは学校ではほとんど心を閉ざして、お話しを収集する事に集中してるけれど、グッドボーイはクラスメイトを観察して心の中で揶揄ったりして遊んでいる。グッドボーイのするクラスメイトの悪口は、はっきり言って最高。ユーキすら吹き出してしまう。
ペインは。ペインが1番分からない。どんなに痛めつけられても、ペインは絶対に泣かないし、ほとんど表情を変えない。ペインの心は現実ではなく、物語の中にしか存在していないかのようだ。ペインはユーキのために率先して痛めつけられに行く。ナースもペインの事だけは止められない。でも、ユーキからお話を聞いている時のペインは、どんなに身体が傷ついていても、とても安らかな顔をしている。
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