笑顔の消えたおまえを

ken

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救出

判明

日に日に窶れていく桜亮が心配で、翔太は飲み物や弁当を桜亮に分けた。施設でもらえる小遣いを使って、アイスや肉まんを買ってきたりもした。桜亮はもう逃げたりせず、翔太が渡す食べ物を黙って食べた。何を聞いても答えなかったけれど、黙って翔太の隣にいた。休み時間は誰もいない音楽室に潜り込み、2人で弁当を食べ、食べ終わると桜亮は翔太の肩に頭を預けて静かに眠った。島でよくそうしていたように。翔太の前では桜亮は、微笑まなかった。ひたすら無表情で、時折何かに耐えるように眉を顰めて目を瞑っていた。

桜亮が何に苦しんでいるのか、翔太は知りたかった。そして助けたかった。学校の帰りに翔太は桜亮の後をつけて、桜亮が矢幡征太郎と一緒にマンションに住んでいるのを突き止めた。

「もう、あの家には帰りたくない!」

泣きそうな顔でそう言っていた桜亮が目に浮かんだ。桜亮は、あの家から逃げられたのではなかったのか?島を出てもなお、桜亮は矢幡の家に囚われているのか?

マンションはオートロックで入れなかったので、翔太は何日も桜亮のマンションの前で見張った。桜亮は時折、征太郎の車で一緒にどこかに行く。車の助手席に乗せられた桜亮は、表情のない目で空を見つめていた。

どこに行くのだろう。
矢幡征太郎が桜亮を苦しめているのか?

翔太は何も分からないまま、悶々とした日々を送っていた。答えを翔太にもたらしたのは、偶然出会った矢幡亮二だった。

その日、桜亮がまた征太郎の車に乗せられてどこかに行くのを見届けて、翔太は仕方なく帰ることにして駅までの道を歩いていた。
「おまえ、桜亮と仲の良かった…」
向こうから歩いてきた高校の制服姿の男が不意に話しかけてきた。桜亮と聞いて驚いて顔を上げると、矢幡亮二がいた。

「矢幡亮二!?」
思わず問いかけるがそれには答えず、亮二は再び問いかけた。
「おまえ、名前なんだっけ?桜亮と仲良かった…しょ、翔太?あ、翔太だ。その制服…おまえも第一工業なのか?」
「ああ、そうだけど?」
「何でここにいる?桜亮に会いにきたのか?」
「あんたも桜亮と一緒に住んでるのか?」
「会えたのか?桜亮に。」
「こっちの質問に答えろよ!」
「ああ、今はあそこには住んでねぇよ。ちょっと物を取りに来ただけだ。あいつら、いないだろ、今。」
「何で知ってる?桜亮とあんたの兄貴はどこに行ったんだよ!?」

亮二はじっと翔太を見て、それからふっと笑った。

「おまえ、何にも知らないんだな。」
「な、なにを??教えろよ!」
「桜亮は元気か?学校一緒なんだろ?」
「げ、元気じゃないからこうして!」

しまった、と思った時にはもう遅かった。
「こうして?」
「……」
「おまえ、何でここ知ってる?あいつがお前に言うはずないよな。」
「……」
「ふん、後をつけたのか?」
「…な!そ、そんな……わ、悪いかよ!?」
「悪くないよ、別に。で、桜亮の様子は?だいぶやられてる感じ?それともアイツの癇癪も少しはおさまった?」
「アイツって?あんたの兄貴?」
「ああ。あの変態ヤローの事だよ。」
「へ、変態?どういうことだ?」
「お前、本当に何も知らないんだな。まあ、無理もないか。桜亮がお前に言えるはずないか。口もきけなくなってるしな。」
「なんだと?お前らのせいじゃないのか!?お前ら、桜亮に何してるんだよ!?言えよ!!」

「まあ落ち着けよ。ここじゃ何だから、駅前のマクドナルドまで行こう。俺もお前に話したい事があるし。全部教えてやるよ。」
そう言って亮二はさっさと歩き出した。


駅前のマクドナルドは騒ぐ高校生で溢れかえっていたが、亮二の話を聞き終えた翔太の耳には何も聞こえていなかった。
喉がカラカラに乾いて、9月というのに寒くて寒くて震え出しそうだった。

「ここ数年は暴力は酷くなかったんだけど。あの日、3ヶ月前くらいかな。6月のさ、ある日。桜亮は約束の時間までに帰ってこなかった。電話にも出なかったし、メッセージにも返信しなかった。あの日は、父親がらみで、宴席があったから、桜亮をそこに連れて行って…
それで、そこで矢幡家の後継者として父親は兄貴をみんなに紹介するはずだった。だから、兄貴は相当怒った。父親にも何か言われたんだろうね。そっから兄貴は毎日のように桜亮を甚振るようになって。暴力がまた始まって、どんどん酷くなった。俺は見てられなくなって、逃げ出したってわけ。」
「お前!お前ら!クズじゃないか!よくも!よくも桜亮を!」
亮二は冷たい目で窓の外を見つめながら言った。
「そうだよ。クズだよ、俺は。あの家は狂ってるからね。俺も狂ってんの。あの親父の遺伝子が入ってんだから、クズで薄汚い変態なの。俺の初めてのSEX、中学2年になったばっかの時に、桜亮をね、無理矢理。」
フンッと自嘲した亮二に、翔太は我を忘れた。

「てめー!」

翔太はもう我慢できず、亮二の胸ぐらを掴んで殴りつけた。周りが大騒ぎする中で、亮二だけは醒めた目で黙って殴られ続けた。

「俺を殴ったってもう桜亮は救われないんだよ。お前さ、そんなにあいつが大切なら、何であいつを独りにした?何で今、あいつを連れて逃げないんだよ?桜亮はもう、そのうち壊れるよ。もう壊れてるのかも。」
亮二は泣きながら殴る翔太を突き放すと、真っ直ぐ翔太の目を見て言った。
「早く!早くあいつを連れてどこか遠くに行けよ!頼むよ!今、今この瞬間も、桜亮は親父か兄貴の連れてきた男達に輪姦されてんだよ。俺はね、何回も何回もそういうの、見せられたんだ。兄貴に連れられて、桜亮のいる小屋を覗いた。嫌だ、帰ろうって言っても、一緒に覗かなかったら俺に親父と同じ事するって兄貴に言われて!
なあ、自分の親父が、隅から隅まで反吐の出るような変態って知った時の俺の気持ち、お前に分かる?親父はね、ギャーギャー泣き喚くたった10歳の子供を、血が出ても構わず犯してたんだよ。桜亮は、泣いて嫌がってた。いつもいつも、叫んで、のたうち回って、やめて、やめてって。でも、親父は、使用人に殴らせるんだよ、桜亮が泣くと。泣けば泣くほど殴られて、酷い事をされて、桜亮はそのうち泣かなくなった。それでも親父は桜亮を殴りつけて、拷問した。桜亮が、何されてもにっこりと笑うようになるまで、ずっと桜亮を痛めつけた。そのうち桜亮は、にっこり笑って自分から身体を差し出すようになったよ。1年もかからなかったよ、男達に何人も取り囲まれて、媚びるような笑みを浮かべて、何されても嫌がらず、泣きもせず、ニコニコ笑うようになるまで。」
よく見ると、亮二は泣いていた。
「なあ、頼むよ。俺は…
俺は今でも悪夢に見るんだ。桜亮は、亮二様、どうぞ。どうぞ犯してくださいって言わされて、俺は、あいつを…」

翔太はもう亮二を殴る事ができなかった。亮二を地面に突き放すと、翔太はマンションに向かった。

何としても、自分がどうなっても、今晩、桜亮を連れて逃げる。どこまでも、逃げる。


走る翔太を、亮二が追ってきた。
「なんだよ?まだなんかあんのか?」
「おまえ、バカ?」
「何だって??」
「あいつは、学校以外自由なんてないんだよ。家に着いたら、裸にされて、ここ数ヶ月は寝る時は鎖で縛られてんだよ。出てこれるわけねーじゃん。今日は帰ってくるか分からないし。逃げるんなら作戦立てて、賢く行動しないとだめ。学校に行った時が唯一のチャンスだから。」
「……」
「待ってろ、金、持ってけ。」
そう言うと亮二はコンビニに入った。
そして、コンビニのATMで40万円をおろして、翔太に渡した。

「これが誤魔化せる限界の金額。大事に使って。」

翔太は黙ってその金を受け取った。
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