笑顔の消えたおまえを

ken

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救出

証拠

秋原は次に、安田翔太の通う高校に行った。高校にはあらかじめ連絡していた為、着いたらすぐに安田翔太の待つ部屋に通された。
2日ぶりに会う安田翔太は、見た目にはっきり分かるほど憔悴していた。眠れぬのか、目の下には隈ができて、不安げにこちらを見上げる瞳は疲れ切っているようだった。
「桜亮は?桜亮は大丈夫ですか?あいつら、病院に来てないですよね?警察は病院、ちゃんと見張ってるんですよね?」
「あいつら?」
「矢幡の家の奴らです。」
「それは、具体的に言うと?」
「矢幡篤太郎とか、征一郎。それか、篤太郎に命令された誰か。篤太郎は金持ちだし、俺たちの生まれた島ではあいつに逆らう人はいないから。あいつが命令したら何でも聞く奴はいっぱいいる。」
「島での生活について、教えてくれる?君は桜亮くんと島で出会ったの?」
「はい。小1か2の時に、母が父と離婚して島に戻って、そこで会いました。同じ小学校で。」
「こちらの調査によると、同じ時期に母親を亡くした。」
「はい。連絡船の事故で。偶然同じ船に乗っていたんです。それから、俺は遠い親戚のおばあさんと住みました。桜亮は本家の親戚に引き取られて。矢幡家はすごい豪邸に住んでいて、島の土地はほとんど矢幡家のもので。店とか旅館もいくつもやってる、とにかく、なんていうか、島では絶対権力者っていうか。
だから、最初は、桜亮、お金持ちになったのかなって思ったんです。でも、なんかそんな感じでもなくて。どんどん元気なくなって、時々怪我してたり、学校も休むようになって。母さん達死ぬ前は、めっちゃ元気なやつで、運動も得意で、なんていうか、すごく活発な奴だったんです。でも、もう外遊びとかしなくなって。ボーッとしてたり、寝てたり、辛そうで。時々泣いてました。」
「小学校の時から?」
「はい。どうしたの?って聞いても教えてくれなかった。隠したがってるみたいだったし、聞くと泣かないように我慢するようになったから、だから聞くのやめたんです。泣くの我慢させたくなかったから。最後に会ったのは、中1の時です。夕方、いつもは学校が終わったらすぐに帰るのに、その日は全然帰ろうとしなくて。帰らなくていいの?って聞いたら、逃げようって言ったんです。もうあの家には帰りたくない、一緒に逃げようって。でも、俺、断っちゃった。その頃、おばあさんがボケかかってきてて、だから1人にできないって思っちゃった。老人ホームに行く話が出てて。それが決まったら逃げようって。そう言ったのに、俺、俺は海に落ちて…。それで、急にこっちの施設に入る事になって。さよならも言えなかった。」
安田翔太は泣きながら話してくれた。
「偶然高校で再開したってことかな?」
「はい。桜亮は昔と全然変わってた。小学校の時は、おれ、転校生で。昔はよく絡まれたり揶揄われたりしてて、そんな時は桜亮が俺を庇ってくれました。桜亮、相手が歳上でも関係なく向かってったんです。でも、もうそんな雰囲気は全然なくて。口がきけなくなってたし、ずっとニコニコ笑って、もう何されてもされるがまま、笑うだけで。」
「高校で?桜亮くんは、高校で何かされてたの?」
「よく揶揄われてました。口がきけなくて、聞かれた事に答える時は紙に書くんですけど、わざと話しかけては桜亮が一生懸命紙に書いてるのを、邪魔したり時間切れだって言って小突いたり。その、書くやつ、落書き帳みたいなのを、隠されたりもしてました。でも、何も言わずに。反撃しないだけじゃなくて、怒りもしなくて、なんかやられるとニコニコ笑って。」
「学校で暴力もふるわれていたのかな?」
「酷い暴力はありませんでした。そんなのやってたら俺が許さない。足引っ掛けられて転ばされたり、押されたりするくらいでした。俺が庇うと嫌そうにするから。桜亮、高校の最初の頃は俺のこと避けてたんです。話しかけたら逃げてっちゃって。」
「どうしてか分かる?」
「最初は、あの時一緒逃げてあげなかったから、怒ってるんだと思いました。もう俺のこと、嫌いになっちゃったのかなって。でも、そうじゃなくて、なんか、もう昔の自分とは違うからって、そう言って。でもそんなの関係ないって俺言ったんです。そしたら少しずつ逃げなくなった。でも、どうして口がきけなくなったのかとか、どうして辛そうなのかとかは、教えてくれなかった。特にこの3ヶ月はどんどん痩せて、学校もよく休むようになって、時々顔とかに怪我してて。聞いても答えてくれなかったから、あいつの後をつけたんです。どこに住んでるかとかも教えてくれなかったから。そしたら、矢幡征太郎と住んでた。時々、学校が終わった後に矢幡征太郎の車でどこかに出かけてて。そんな日の翌日は特に辛そうで。どうしたら良いか分からずに、毎日後をつけて、向かいのコンビニで立ち読みするフリして桜亮のマンションを見張るしかなくて。そんな時に、矢幡亮二に会ったんです。それで…」
「そのあとは、おとつい病院で話してくれた通りだね?」
「はい。」
「矢幡亮二はどうしてそれを君に言ったのだろう?」
「どうして?えーと、どうして…
逃げろって言ってました。矢幡亮二は、最初は3人で住んでたんだけど、征太郎があんまりひどく桜亮に暴力をふるうから、見てられなくて家を出たって言ってて。それで、荷物か何か取りに来た時にばったり俺に会ったって。島では同じ小学校に通ってたから、俺の事知ってて。それで、逃げろって40万円くれました。」
「え?お金を?彼が持ってたの?」
「いや、コンビニでおろして。俺がすぐに桜亮のマンション行こうとしたら、あいつ監禁されてるから、部屋では逃げないよう裸にされて、寝る時は縛られてるって。それで、学校に行った時しか自由になる時ないって。学校で会ったら一緒に逃げろって、お金渡されて。」
「そのお金はどこにあるの?」
「今も持ってます。毎日持ってて、いつでも逃げられるように。それで、あの日、学校に来た桜亮を引っ張って無理矢理病院に連れて行きました。とりあえず、辛そうだったし、怪我してたし。逃げてもアイツらに捕まったら桜亮がもっと酷い事されると思って、病院に行ったら施設の人に引き取ってもらえるかもって、そう思って。お金は今も持ってます。なんかあったらすぐに逃げられるように。」
「なるほど。そのお金、見せてもらっても良い?」
「はい。」
翔太は封筒を秋原に見せた。病院までのタクシー代を引いた393,200円。
秋原はそれをざっと確認すると、難しい顔をした。この金は矢幡亮二のものだろうか?これが万が一矢幡篤太郎の口座から亮二が引き出したものだったら、これは篤太郎にとって使えるカードになってしまう。
「このお金がもし矢幡篤太郎の物だったら、息子とは言え矢幡亮二は窃盗したことになり、その金を君が所持していたとなると共犯が疑われる。」
「な、なんで?俺は!」
「いや、ごめん。責めてる訳でも疑ってる訳でもなくて、これが矢幡篤太郎にとって使えるカードになってしまわないか、それが心配でね。とりあえず、この金は絶対に手をつけないで欲しい。」
「俺、別に悪いけど警察に捕まることなんて何とも思ってないです。桜亮を助ける為だったら、俺、あなただって敵に回しても良い。」
「分かってるよ。でも、矢幡篤太郎のような金と権力のある人間を相手にする時には、慎重にならないといけないって言ってるんだよ。法を犯すという事は、弱い立場になるって事だ。」
「あんたが桜亮の味方だって根拠はないから。」
「勘違いしないで。僕は警察官だ。誰の味方でもない。法を犯した人間を取り締まるのが仕事ってだけ。今のところ、僕は君の証言は信憑性があると考えている。誰かが、16歳の少年に継続的に暴力を振るい、怪我をさせた。それが誰かを突き止め、法のもとに罪を償わせる。犯罪に関わった人間が誰か、その証拠を集めるだけだよ。それが結果的に被害者を救う事になれば、そんな良い事はない。でも、僕たちの目的は救う事ではない。加害者を特定して、起訴する。それが目的だ。」

まるで先輩に言われた事をそのまま言ってるだけじゃないか、秋原は自嘲した。

「分かった。俺も今の所はあんたを信じる事にする。」
安田翔太はそう言うと、部屋を出ていった。



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