笑顔の消えたおまえを

ken

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救出

恋慕

【桜亮、会えないから手紙を書いた。面会謝絶なのは、もしかしたらあいつらが桜亮を脅しに来ないようにしてるのかも知れない。だから会いたいけど我慢する事にした。
桜亮。俺は亮二のやつからあいつらがお前に酷いことをずっとしてきたってのを聞いた。お前がどんどん元気がなくなって、怪我してるみたいなのを、オレはどうする事もできずに見てて、辛かった。島にいた時も、高校で再会してからも、ずっとずっとどうにかしたかった。だからお前の後をつけて、お前のマンションのそばで亮二に会った。お前は、オレに知られたくなかったんだと思うから、勝手に聞いて本当に悪かった。でも、それでもオレは知りたかったし、助けたい。むかし、お前がずっとオレを助けてくれたみたいに、今度はオレがお前を助ける。決めたんだ。
ずっとずっと、あの時お前と一緒に逃げてたらって。ずっと後悔してた。今度こそ、お前をあいつらから絶対に守るから。だから信じて。警察に全部話して、あいつらを捕まえてもらう。それで、お前は怪我が治ったら、施設に行くんだと思う。オレと同じ施設に行くのは無理かも知れない。でも、オレは絶対にお前を1人にしない。高校で毎日会えるし、高校を卒業したらオレは働くから、そしたら一緒に住もう。ずっと2人で生きていこう。桜亮、お前が好きだ。苦しんでるお前も、笑わないお前も、それでもずっと好きで、一生ずっと大好きだ。いつか絶対に幸せにしてやる。本当の笑顔を取り戻してやる。だから、待ってて。
桜亮、桜亮も頑張って、アイツらから逃げて!それで、オレのこと待ってて。】

桜亮は涙と鼻水でグチャグチャになりながら、その手紙を何度も何度も読んだ。何度読んでも、悲しいのか嬉しいのか分からない涙が溢れて、久しぶりに息をつけなくなる程泣いた。
一番知られたくない事を、翔太に知られた。翔太にだけは知られたくなかった。その悲しみの涙なのか。
でも、それでもなお、翔太は俺のことを好きだと言ってくれた。胸が高鳴るほど、手が震えるほど、嬉しかった。

でも、どうしたら良いのか、桜亮には分からなかった。あの人達から逃げる事なんて、できるとは思えない。それなのに、そんな失敗すると分かってる事に、翔太を巻き込みたくはない。
今なら、翔太は俺ときっぱり関わりを絶って、真っ当な、翔太にふさわしいキラキラした人生を歩いていける。
それに、万が一逃げ切れたとしても、俺は汚れきっている。翔太と暮らすのなんて、とてもじゃない。横に並んで歩くのだって、烏滸がましい。
俺は、病気で、俺といたら万が一にもそれがうつってしまわないとも限らない。絶対に絶対に、それはダメだ。

ああ、それでも。
それでも、翔太とほんの少しの時間でも、何も心配せずに共に過ごしたい。翔太に、ほんの少しでも良いから触れたい。触れられたい。声が聞きたい。

希望と絶望。願望と諦め。
翔太の顔を思い浮かべ、彼が好きと言ってくれた声や、一緒に暮らそうと書いてくれた手紙を思い浮かべ、胸が高鳴るような甘い歓喜に包まれ、そしてすぐに、汚れきってもう薄汚い人形に成り下がった自分への嫌悪感や、もう逃げ切れないのだという恐怖に叩き落とされる。

相反する感情と思考に引き裂かれ、桜亮はもう疲れ切って、意識を手放した。いつものように何も考えず、ただただ翔太との幼い日々の思い出の中に逃避した。あの家に連れて行かれてから、気が狂いそうになるほどの恐怖と苦痛の中で、その思い出の風景だけが、桜亮を何とか正気に繋ぎ止めていた。

翔太が好きだ。

もう悲しみにも苦痛にも、恐怖にさえ悦んでいるかのように微笑む桜亮にとって、その気持ちだけが、確かな自分の感情だった。


桜亮は海で泳いでいた。

キラキラと日差しが水面を通して海底に反射する。水の中は静かで、暖かくて心地よい。桜亮は目を凝らして海底の小石を見つめていた。艶々した、滑らかな感触の、きれいな色の小石があったらすぐに拾って、手に持ちきれなくなったら浜辺で絵を描く翔太のところに走る。
「翔太!!これは?この石、好き?」
「わあ、キレイ!きれいな色だね、桜亮。ありがとう。好きだよ、この石。」
「翔太のコレクションに入れてね。」
あまり泳ぐのが好きではない翔太のために、水の中のきれいな石を拾ってはせっせと翔太に渡す桜亮は、その石より翔太が描いた石の絵の方がずっとキレイなのに、と思った。翔太の横に座り、翔太の描く海を眺めると、桜亮はいつも胸の真ん中がキューっとなっていつまでも見ていたくなる。
「そんなに見られると、描きづらい…」
ボソッと翔太が呟き、桜亮は仕方なくまた海に入る。
海の中に潜って、くるりと腹を上にして水越しに太陽の光を眺めたり、小さな魚や小石や海藻をゆらゆらと透ける日差しが照らす様を眺めると、これを翔太にも見せて、翔太にこの風景を描いてもらいたいと思う。それで桜亮はまた翔太のところに戻って、一緒に海に入ろうと強請るのだ。
「俺が絶対離れないから大丈夫。足付かないとこには行かないし、溺れそうになったら絶対に俺が助けてやるから。お願い。水ん中、翔太に描いて欲しいの。」
「うわ、分かった。絶対離れないでね。」
「うん、絶対離れない!手、繋いでてやるから。」
「うん。」
そうやって桜亮はいつも翔太の手を引いて、翔太は少しずつ泳げるようになった。


「桜亮くん。気が付いた?」
声の方に目を向けると、白衣を着た知らない男の人が立っていた。声を聞いた事があるような気はする。

またやってしまった。

この数年桜亮は時々、男達に身体を嬲られている時にまで解離するようになってしまっていた。苦痛を逃すために翔太の事を考えていると、不意に意識が飛んでしまう。
そんな時は酷く折檻されることが多く、桜亮は反射的に浮かんだ微笑みを顔に張り付かせ、すぐにベッドから降りて土下座の態勢を取った。その拍子にカシャンッと大きな音を立てて金属の棒のようなものが倒れた。腕にピリッと微かな痛みが走り、管のようなものが外れて血がポツリと袖口についた。

服を着ている?
何をされていたのだろう。
この棒に縛られるのだろうか。
すぐに服を脱いだ方が良いのか。

パニックになる頭を何とか宥めて身体を縮こまらせてとにかく床に小さく蹲っていると、慌てたように白衣の男が抱き起こしてきた。
「桜亮くん、ごめんなさい。驚かせてしまったね。立って。立てる?」

抱き起こされてベッドに腰掛けさせられた。男は金属の棒のようなものを起こすとベッドヘッドの辺りにあるボタンを探し出して押した。
身体が震えるのを何とか抑えようと、両腕で身体を抱き締めるように竦むと、男が桜亮の足元にひざまづいて目線を合わせて言った。
「桜亮くん、ここは病院です。桜亮くん、大丈夫だからね。何も怖いことはないよ。大丈夫。僕が分かりますか?主治医の神宮寺です。」
神宮寺…
聞いた事がある。
征太郎の暴力が激しくなった頃から、桜亮は時々、記憶がふいに欠落するようになった。

しゅじい、とは何だっただろう。
聞いた事がある。
神宮寺という名前と、この声にも聞き覚えがある。
足元にしゃがみ込むその男の顔をぼんやりと眺めていると、記憶が徐々に蘇ってきた。
あ、そうだ。ここは病院だった。
翔太が連れてきてくれたんだ。
桜亮は枕の下の翔太の手紙を思い浮かべた。この人はお医者さんだった。

やってしまった。
再び桜亮は思い、俯いて震えを堪えた。

「ごめん、ごめんね。驚かせてしまったね。」
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