笑顔の消えたおまえを

ken

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決意

最期

桜亮はそれから、少しずつ現実の世界に戻ってきた。窓に貼られた翔太の絵を見て、それから翔太自身を見つめた。その顔には一切の表情がなかったが、それでも翔太には、桜亮が安心して微笑んでいるのが分かった。

桜亮の精神はゆっくり回復していった。時折、小さく掠れるようにではあったが、ほんの少しだけでも話す事もできるようになった。しかし、それに比例して、桜亮の肉体はHIVウイルスに蝕まれていった。桜亮は徐々に痩せていった。
それでも桜亮は翔太を見つめ続けた。それだけが桜亮の生きている意味だった。
桜亮がその病院に入院して15年の月日が流れた。桜亮の命の灯火はもう、いつ消えてもおかしくなかった。

「…しょ、しょ…うた……」
「ん?桜亮?なに?」
「…いき…た…い……う…み…」
桜亮は震える指で窓に貼られた翔太の絵を指差した。
「かあ…さ…」
「分かった。分かったよ。行こうね。」

翔太は泣きながら桜亮を抱きしめた。
消えそうなほど痩せて、もう何も残っていない程に奪い尽くされた桜亮の身体を、翔太は優しくさすり、抱きしめた。悲しみが翔太の胸を引き裂いた。文字通り、引き裂かれる痛みだった。
悲しくて、気がおかしくなりそうなのを歯を食いしばって堪えた。

「分かったよ。桜亮。一緒にいこう。」


翔太は桜亮の最期の願いを叶えてあげた。最期の夜、翔太は桜亮を抱きしめて眠った。真夜中に、翔太は泣きながら桜亮を毛布で包んでそっと抱きかかえて、車に乗り込んだ。

「亮二…悪いな。ありがとう。」
「ああ、こちらこそありがとう。これで許されるとは思ってないけど、でも…」
「ああ、分かってる。」

1時間半ほどの車中、桜亮は翔太に身体を預けて目を瞑った。

亮二の手配した船で、2人は島に渡った。

「亮二、ありがとう。」
「うん、ここで待ってるから。好きなだけいていいよ。どれだけでも待ってるから。」
「……ああ。………亮二、すまない。」
「なにが?」
「いや、何でもない。またあとで。」

翔太は桜亮を抱いて、いつも2人で遊んだ海岸に向かった。そこには一艘の小さなボートが用意されていた。
最期、夜の故郷の海を桜亮に見せてあげたい。
そう翔太に言われて亮二が全て手配したのだ。でも翔太は亮二に嘘をついていた。


翔太は毛布に包んだまま、桜亮を船に乗せ、自分も乗り込んだ。

「桜亮。俺、桜亮と出会えて本当に良かったよ。桜亮の事、こんなに愛せて幸せだった。桜亮。ずっと一緒にいような。もう絶対離れないからな。」

月が照らす海に、翔太の声と、キコキコとオールを漕ぐ音だけが響いた。



朝になって日が昇り、それから太陽が真上に来るまで、亮二は港で待った。
それでも2人は戻らず、亮二は必死で船で2人を探したが、空のボートが一艘浮かぶだけで2人の姿はどこにもなかった。


2人の遺体が海から上がったのはそれから2日後の事だった。

桜亮と翔太は一枚の毛布に包まり、互いの手を紐で結んでいた。死因は溺死ではなく、血中から致死性の薬物が検出された。




感想 1

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みんなの感想(1件)

mm
2025.01.01 mm

kenさんの書く文章が好きです…!
どうにか幸せになってほしい…更新楽しみにしてます!

2025.01.03 ken

ありがとうございます!!

解除

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