8 / 35
8
しおりを挟む
お兄さんに会ったのは、去年の秋くらいです。
翔太は母親に見守られて、警察官と話した。
たまたま河川敷に行ったら、白い可愛い仔猫がいて、翔太の足元でくるくると飛び跳ねて遊んでいた。可愛くて思わず撫でていたら、お兄さんがコンビニの袋を持って現れた。
驚いて少し怖くなって、でもお兄さんも同じくらい怖がってるように見えて、それでなんか逆に安心した。
「お兄さんの猫?遊んで良い?」
そう聞いたら、お兄さんはオドオドした調子で
「う、うん。ぼ、ぼくのっていうか…
シロちゃんです。名前。可愛いでしょう。喉の下のとこ、撫でられるのが好きです。」
と言った。小さな声だった。
それからお兄さんは、コンビニの袋から缶詰の餌を出して、僕に渡してくれた。
「食べさせてあげて下さい。」
最初のうちは僕たちはあまり喋らなかった。お兄さんは無口で、大人の人なのかまだ子供なのか分からなかったけれど、シロを撫でる僕をみて嬉しそうに笑っていた。それから僕に、お腹空いた?って聞いて、空いてないって言ったら、なぜか恥ずかしそうに僕に尋ねてきた。
「あ、あの、僕、ちょっとお腹空いちゃって。ご飯食べて良いですか?」
「うん。」
「おにぎり、2つあるんです。1個食べませんか?」
「うーん、じゃあもらう。」
お兄さんは嬉しそうに僕におにぎりを選ばせてくれた。2人でおにぎりを食べて、それから僕にチョコレートをくれた。
お兄さんはいつも僕を子供扱いせず、大人が大人に話すみたいな話し方で僕に話してくれた。
「ね、あの、その服って、小学校の運動の時に着るお洋服ですよね?」
僕の着ていた体操服を見て、お兄さんがまた小さな声で言った。
「うん。」
「小学校行ってるんですね。すごい。ランドセル持って行きますか?」
「うん。」
「黒い?ピカピカのですか?」
「うーん、黒いけど、ピカピカじゃないよ、もう。」
「ふーん、すごいです!」
お兄さんは学校の子達と違って、小さな小さな声で喋った。
それから、僕は2日に一回は河川敷に行ってお兄さんとお喋りした。お兄さんは自分はあまり話さなくて、僕の話を聞きたがった。小学校の話を聞かせてっていつも言った。僕は、愚痴を言うみたいな気持ちでお兄さんに小学校の生活を話したけど、お兄さんは目をキラキラさせて楽しそうに僕の話を聞いてくれた。そんな風に僕の話を聞いてくれる人は初めてだった。お兄さんに話すと、大嫌いな小学校のいろんな部分が、ほんの少しマシに思えた。
お兄さんは小学校のいろんなところの細かい様子を聞きたがった。
「あの、運動場ってすごく広いんですよね。走ってどの位?何分くらいですか?」
とか
「机って、みんな1人1つずつもらえるんですか?」
とか。
「翔太君はすごいです。翔太君は僕の憧れです。」
いつもお兄さんは言ってくれた。
お兄さんがランドセルを見たがったから、僕はよく学校帰りにお兄さんのところに寄った。
「…ご、ごめん、ごめんなさい。あの、ちょっとだけ、ほんのちょっと触って良いですか?ランドセル、触ってみたかったんです。」
「え、良いけど。お兄さんは小学生の時ランドセルじゃなかったの?」
「あ、あ…はい。僕は…僕は、良い子じゃなかったからもらえなかったんです、ランドセル。」
お兄さんは悲しそうに俯いた。
「全然触って良いよ。何なら背負ってみたら?」
僕が言ったらお兄さんはすごく嬉しそうにした。
背負って、何度も何度も肩の紐を撫でて、それから何度もありがとうございますって言った。
時々、ママが作って置いてくれる夜ご飯とか、休みの日のランチとかをお弁当にしてお兄さんと食べた。お兄さんは、カップラーメンを食べさせてくれた。ママはカップラーメンを食べさせてくれないから、僕はそれがすごく嬉しくて、よくお兄さんとお昼ご飯を取り替えっこした。
2人で食べると何でもすごく美味しかった。
ある時は、マクドナルドのハンバーガーを食べさせてくれた。それがお兄さんの1番の大好物なんだって。ママはそういうのは食べさせてくれないって言ったら、翔太君のママの作るご飯も美味しいから、だからママは翔太君にママのご飯を食べて欲しいんですって言った。
僕たちはお喋りしない時は一緒にそれぞれ本を読んだ。お兄さんはいつも同じ本を何度も読んでいて、時々僕が学校の図書館で借りた本を貸してあげるととても喜んだ。
「お兄さんに、何か嫌な事をされた事はないですか?」
「嫌なこと?」
「例えば、身体を触られたり。」
「身体を?なんで?
嫌なことされた事はないです。お兄さんはいつも優しくて、丁寧語で話して、本を読むのが好きで、恥ずかしそうに小さな声で話した。一回も嫌な気持ちになった事はないです!」
「そうですか。じゃあ良かった。いろいろとお話ししてくれてありがとうございました。4月のあの日のことも、もう一度話してもらえますか?」
「はい。」
翔太は松部に話した事をもう一度繰り返した。
男達は4人いて、みんなでお兄さんに何かしていた。何をしてたのかは分からない。近くに寄らないでと言われたし、すぐに逃げちゃったから。
写真で見覚えのある男の顔を2人は指さしたが、他の男の顔はハッキリとは見ていなかった。怖くて、見られなかった。
翔太は心底後悔していた。
あれから、すぐに母親か父親にその日にあった事を言っていたら。そうしたらお兄さんは怪我をしなかったのかも知れない。
親に心配をかけたくなかったし、それに、すぐにまたお兄さんに会えると思っていた。親に話して、河川敷に行くのを禁止されるのが怖かった。
でも。
そのせいでお兄さんは…
翔太は悲しさに胸が詰まった。
翔太は母親に見守られて、警察官と話した。
たまたま河川敷に行ったら、白い可愛い仔猫がいて、翔太の足元でくるくると飛び跳ねて遊んでいた。可愛くて思わず撫でていたら、お兄さんがコンビニの袋を持って現れた。
驚いて少し怖くなって、でもお兄さんも同じくらい怖がってるように見えて、それでなんか逆に安心した。
「お兄さんの猫?遊んで良い?」
そう聞いたら、お兄さんはオドオドした調子で
「う、うん。ぼ、ぼくのっていうか…
シロちゃんです。名前。可愛いでしょう。喉の下のとこ、撫でられるのが好きです。」
と言った。小さな声だった。
それからお兄さんは、コンビニの袋から缶詰の餌を出して、僕に渡してくれた。
「食べさせてあげて下さい。」
最初のうちは僕たちはあまり喋らなかった。お兄さんは無口で、大人の人なのかまだ子供なのか分からなかったけれど、シロを撫でる僕をみて嬉しそうに笑っていた。それから僕に、お腹空いた?って聞いて、空いてないって言ったら、なぜか恥ずかしそうに僕に尋ねてきた。
「あ、あの、僕、ちょっとお腹空いちゃって。ご飯食べて良いですか?」
「うん。」
「おにぎり、2つあるんです。1個食べませんか?」
「うーん、じゃあもらう。」
お兄さんは嬉しそうに僕におにぎりを選ばせてくれた。2人でおにぎりを食べて、それから僕にチョコレートをくれた。
お兄さんはいつも僕を子供扱いせず、大人が大人に話すみたいな話し方で僕に話してくれた。
「ね、あの、その服って、小学校の運動の時に着るお洋服ですよね?」
僕の着ていた体操服を見て、お兄さんがまた小さな声で言った。
「うん。」
「小学校行ってるんですね。すごい。ランドセル持って行きますか?」
「うん。」
「黒い?ピカピカのですか?」
「うーん、黒いけど、ピカピカじゃないよ、もう。」
「ふーん、すごいです!」
お兄さんは学校の子達と違って、小さな小さな声で喋った。
それから、僕は2日に一回は河川敷に行ってお兄さんとお喋りした。お兄さんは自分はあまり話さなくて、僕の話を聞きたがった。小学校の話を聞かせてっていつも言った。僕は、愚痴を言うみたいな気持ちでお兄さんに小学校の生活を話したけど、お兄さんは目をキラキラさせて楽しそうに僕の話を聞いてくれた。そんな風に僕の話を聞いてくれる人は初めてだった。お兄さんに話すと、大嫌いな小学校のいろんな部分が、ほんの少しマシに思えた。
お兄さんは小学校のいろんなところの細かい様子を聞きたがった。
「あの、運動場ってすごく広いんですよね。走ってどの位?何分くらいですか?」
とか
「机って、みんな1人1つずつもらえるんですか?」
とか。
「翔太君はすごいです。翔太君は僕の憧れです。」
いつもお兄さんは言ってくれた。
お兄さんがランドセルを見たがったから、僕はよく学校帰りにお兄さんのところに寄った。
「…ご、ごめん、ごめんなさい。あの、ちょっとだけ、ほんのちょっと触って良いですか?ランドセル、触ってみたかったんです。」
「え、良いけど。お兄さんは小学生の時ランドセルじゃなかったの?」
「あ、あ…はい。僕は…僕は、良い子じゃなかったからもらえなかったんです、ランドセル。」
お兄さんは悲しそうに俯いた。
「全然触って良いよ。何なら背負ってみたら?」
僕が言ったらお兄さんはすごく嬉しそうにした。
背負って、何度も何度も肩の紐を撫でて、それから何度もありがとうございますって言った。
時々、ママが作って置いてくれる夜ご飯とか、休みの日のランチとかをお弁当にしてお兄さんと食べた。お兄さんは、カップラーメンを食べさせてくれた。ママはカップラーメンを食べさせてくれないから、僕はそれがすごく嬉しくて、よくお兄さんとお昼ご飯を取り替えっこした。
2人で食べると何でもすごく美味しかった。
ある時は、マクドナルドのハンバーガーを食べさせてくれた。それがお兄さんの1番の大好物なんだって。ママはそういうのは食べさせてくれないって言ったら、翔太君のママの作るご飯も美味しいから、だからママは翔太君にママのご飯を食べて欲しいんですって言った。
僕たちはお喋りしない時は一緒にそれぞれ本を読んだ。お兄さんはいつも同じ本を何度も読んでいて、時々僕が学校の図書館で借りた本を貸してあげるととても喜んだ。
「お兄さんに、何か嫌な事をされた事はないですか?」
「嫌なこと?」
「例えば、身体を触られたり。」
「身体を?なんで?
嫌なことされた事はないです。お兄さんはいつも優しくて、丁寧語で話して、本を読むのが好きで、恥ずかしそうに小さな声で話した。一回も嫌な気持ちになった事はないです!」
「そうですか。じゃあ良かった。いろいろとお話ししてくれてありがとうございました。4月のあの日のことも、もう一度話してもらえますか?」
「はい。」
翔太は松部に話した事をもう一度繰り返した。
男達は4人いて、みんなでお兄さんに何かしていた。何をしてたのかは分からない。近くに寄らないでと言われたし、すぐに逃げちゃったから。
写真で見覚えのある男の顔を2人は指さしたが、他の男の顔はハッキリとは見ていなかった。怖くて、見られなかった。
翔太は心底後悔していた。
あれから、すぐに母親か父親にその日にあった事を言っていたら。そうしたらお兄さんは怪我をしなかったのかも知れない。
親に心配をかけたくなかったし、それに、すぐにまたお兄さんに会えると思っていた。親に話して、河川敷に行くのを禁止されるのが怖かった。
でも。
そのせいでお兄さんは…
翔太は悲しさに胸が詰まった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる