いないはずの子供

ken

文字の大きさ
13 / 35

13

しおりを挟む
13歳になり成長期を迎えた彼を、おじ様は次第に疎むようになった。最初、身長が伸び始めた。おじ様はそれをひどく嫌い、しょっちゅう身長を測らせては前より伸びたと責めて、鞭で彼を打ちすえた。厳しい食事制限が科されて、彼は常に空腹に苦しむようになった。その当然の結果として彼が痩せて骨ばると、おじ様は余計に彼を疎んで虐げた。
「醜い奴隷はゴミだ!」
そう言われて、彼は自分はゴミになったのだと思った。

それまで彼に与えられていた部屋は取り上げられて、窓のない納戸で毛布一枚を渡されて床に直に寝るよう言われた。どこにも連れて行ってもらえなくなり、おじ様が勉強を教えてくれる事はなくなった。それでもしばらくは時折荒々しく犯されたが、彼が精通したと知るともう、おじ様は彼に対する性的関心を完全に失った。ストレス解消でサンドバッグにされる時だけ呼び付けられて、鞭で打たれたりスタンガンを押し付けられたりした。
彼は混乱し、心がどんどん壊れていった。犯される事は気持ち悪くて苦しかったのに、それでも性的関心を向けられる事がなくなると自分の存在が否定されたように感じ、そしてそんな風に感じる自分を恥じた。
心の痛みはそのまま肉体の痛みになって表れた。折檻される事も増えて実際に怪我が多くなっただけではなく、急に、蹲って動けなくなるほど胸が痛んだり、息ができなくなったりした。ある夜、身体中が痙攣して止まらなくなって、彼はおじ様に助けを求めた。
「助けて…助けてください……
止められない。どうしたら…あ、ああ…」
歯を食いしばって激しく痙攣する彼をおじ様は汚い物を見るような目で見下ろすと、いきなりその全身を無茶苦茶に鞭で打った。今までは打たれなかった顔にも、容赦なく鞭が振り下ろされた。
「ひぃ…!ひ~!」
突然の事に悲鳴を堪えられず、痛みで気を失って、痙攣は止まった。それ以来、痙攣の発作が出ると彼は泣きながらおじ様のところへ這いずって、鞭で打ってくださいと懇願した。彼の身体はますますボロボロになって、ますます汚くなった。

14歳になると、おじ様は他の男たちを連れてきて彼の身体を売った。週に何人もの男達に犯され弄ばれて、彼は次第に何も感じなくなっていった。今ここにいるのは自分じゃない。自分自身は物語の世界の中にしか存在しない。そう思う事で壊れていく心を何とか守ろうとした。彼は残してもらえた数少ない本を何度も何度も繰り返し読んだ。
時折、彼は1人で声を殺して何時間も泣いた。涙は悲しみをほんの少し流してくれる。彼は経験上そう理解していた。
泣きながら、死を願った。
「おじ様、お願いします。殺してください。」
そう懇願する彼を、相変わらず冷たい目が見下ろした。

彼の願いは聞き届けられず、殺してもらえる事はなかった。
15歳になった日の翌日、彼は少年達を集めた違法な風俗店に売り払われた。連れて行かれる車の中で、彼はまた街を見上げた。久しぶりの外だった。もう、どうにでもなれば良い。僕はもう、いないはずの子じゃなくて、いない子だ。そう思った。
消えてしまえれば良いのに。
そう思いながら、高いビルに囲まれた空を眺めた。

店に着くと、彼は裸にされて隅々まで点検された。家畜を品評するような無遠慮な視線と弄られる手にも、彼は何も感じなかった。
「汚いな、傷だらけじゃないか。高くは買えないぞ。」
「ああ、構わないよ。もうこれには興味がないから。地雷客相手にちょうど良いじゃないか?」
「本当に酷いヤツだな。」
自分の身体について交わされる下劣な会話にも、彼は何も感じなかった。
サトシという源氏名を与えられたその日の夜から、彼は客を取らされた。
そして、それから5年間、毎日休みなく客を取らされた。身体の傷のせいで、時々酷く手荒な客を回される事もあった。彼は何も考えずに股を開き、言われるままに喉の奥に男達の性器を受け入れ精液を飲み込んだ。
痛みも苦しさも気持ち悪さも、どこか遠い感覚で、まるで自分の事ではないような感じだった。

そのうち、彼は売専ボーイとして人気が出た。傷はあったがそれでもなお白くきめ細かい肌は美しく、かえって傷がその白さを際立たせた。どこか無表情で人形めいた顔立ちがミステリアスな雰囲気を醸し出した。そしてとことん従順で無口で大人しい性格に、嗜虐心を煽られたり庇護心をくすぐられたりした男達は、彼を何度も指名した。
そのため店は彼が壊れないよう注意するようになった。1日6、7人取らされていた客は2、3人に減らされ、乱暴に犯される事はあってもあまりに酷い暴力が振るわれる事はないよう守られるようになった。

19歳になった頃、1人の客が彼を気に入って毎週のように指名した。その客は優しく、SEXも丁寧で穏やかだった。
実家が大きな病院を経営しているという大学生の彼は、潤沢な仕送りを彼に注ぎ込んだ。「ねえ、サトシ。何かプレゼントしたいな。何が良い?何か欲しい物、ある?」
「何にも要らないです。来て頂けるだけで嬉しいです。」
教えられた通りにそう答えても、その客は引き下がらなかった。
「何が好きなの?趣味とか、ないの?」
「…ほ、本を読むのが、好きです。」
小さな声で俯きがちに答える彼は、本人は知らずとも歳の割にずっと幼く見えて、客を喜ばせる。
それ以来、その客は毎回本を買ってプレゼントしてくれるようになった。
「あ、あの… 買ってもらってばかりだと悪いから、図書館で借りてきて頂くってのは、だめですか?」
昔おじ様に連れて行ってもらった図書館を思い出してそう遠慮がちに言う彼は、客には健気に映った。
「サトシは良い子だね。」
そう言われて頭を撫でられると、彼の心はほんの少し感覚を取り戻した。忘れていた愛情を求める心がゆっくりと戻ってきた。
同じ本ばかり読んでいた彼は、新しい本を持ってきてくれるその客を心待ちにするようになり、そのうちに客が持って来る本だけでなく、その男そのものを心待ちにするようになった。男の囁く甘い言葉は麻薬のように彼の心を溶かして、彼は、自分をこの世界から遠い場所に逃避させる事で守っていたものを、簡単に明け渡してしまった。

「20歳になったら、どうするの?あっちのお店に移るの?」
ある日その男に尋ねられて、彼は驚いた。
彼は、自分の正確な誕生日は知らなかったが、おじ様と呼んでいた男の家に連れて来られた日に、お前の誕生日は今日だ、今日9歳になったのだと言われた。おじ様に気に入られていた12歳過ぎまではその日を誕生日として祝ってもらっていた彼は、もうすぐ自分が20歳になると知っていた。
「え?知らないの?ここには二十歳までしかいられないんだよ。ここはそういうお店だから。その後はここを出て自分で仕事を見つけるか、系列のお店で働くか。みんなそうしてるよ?」
驚いて黙り込む彼に客の男が言った。

それは知らなかった。誰からもそんな事は教えてもらっていない。この店ではボーイ同士が親しく話す事は禁止されていたため、店のマネージャーに言われる事意外、彼は何も知らなかった。彼以外はそんなルールは守っていなかったが、彼はルールと言われた事は全て守っていた。大人から言われた命令に背くという選択肢は彼にはなかったのだ。
何も知らされていない彼に、客の男は甘い言葉を囁いた。

「僕の家で一緒に住もうよ。可愛がってあげるよ。サトシと2人で毎日イチャイチャして過ごすの、素敵でしょ?サトシ、可愛いからさ、大切にしてあげるよ。恋人になろ?」

彼は、その男の甘い言葉を信じた。
久しぶりに、ほんのりと胸が温かくなった。恋人、と言われた事は初めてだった。国語辞典を読む事でほとんどの言葉を覚えた彼は、恋人、というのが実際にどんなものなのか、想像するしかなかったが、店の大事な商品、よりもずっと良いものに違いない。
もちろん、奴隷より、ゴミより。
自分がそんなものになれるとは、思いもしなかった。恋人になったら、自分も外で自由に歩いたりできるのだろうか。時々休憩室で見るテレビの中の人達のような生活ができるのだろうか。もう、体が中から引き裂かれるような痛みや、内臓が押し潰されるような苦しさや、肛門とその奥が燃えるようにヒリヒリとする痛みに耐える日々は過ごさなくても良いのだろうか。喉に叩きつけられる性器を涙をこぼしながら咥えるような事は、もう、しないで済むのだろうか。

いないはずの人間である自分も、恋人になれるのだろうか。

彼は、二十歳になるまでの数ヶ月、不安と希望に胸をドキドキさせて過ごした。
毎週来るその客の甘い言葉だけに縋って。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...