いないはずの子供

ken

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「よお、透ちゃん。おまえ、また最近部屋に戻って来たんだな。ママのおっぱいしゃぶるのも飽きたのか?そうだよな、おまえ、しゃぶるよりしゃぶってもらう方が好きだもんなぁ。なあ、シロのやつ、またちょっと昨日無理しちゃったんだよ。おまえも部屋にいたろ?聞こえてた?どうせ聞き耳立てて独りでシコってたんだろ?どうよ?また可愛がってあげてよ、シロちゃん。この間みたいにさ。じゃないとあいつ、今晩も客取んないといけなくなるぜ。」
「分かった。何時だ?また10万で6時間だな?」
「何言ってんの?アレはサービスって言ったろ?いつまでも舐めた事言ってんじゃねえぞ。朝までで13万だ。」
「…分かった。」
「5時に来い。」
「分かった。」


この会話が決定打となり、逮捕状が出た。
5時、佐竹透が部屋に入り、見張りの男と被害者の3人になった事を確認して、まず別の班が尾行していた部屋の借主の男を逮捕した。一緒にいた連れの男も任意同行を求めたが、拒否された。しかし、彼が見張りの男に連絡をする間を与えず、佐竹透の部屋に待機していた刑事が家宅捜索令状を持って、制服警官とマンションの大家と共に彼らの部屋に入った。

ベッドには、シロと呼ばれていた男の子がいた。
酷く痩せて、身体には多数の外傷があった。
手は手錠で拘束されて、手錠がベッドヘッドの柵に取り付けられていた。足にも手錠が嵌められて、足首は左右に大きく開かれた状態で天井から吊るされた鎖に固定されていた。全裸で、性器も肛門も曝け出した屈辱的な姿勢を強要されていた。肛門からの出血が骨の浮いた背中に流れていた。彼は突然の警察官の登場に怯えて震えていた。

「手錠の鍵はどこだ!!」
刑事の1人が見張りの男の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。
「早く出せ!!!」
その男は鍵を持っておらず、在処も分からなかった。結局警官達はニッパーで鎖を切断しなければいけなかった。透は思わず上着を脱いで彼の下半身にかけた。警官が作業している間ずっと、少年は震えながら声を出さずに泣いていた。

「お名前は?」
「いつからここにいますか?」
少年はどんな質問にも答えなかった。ただ震えながら、静かに涙を流していた。

彼は拘束具を外されるとすぐに救急搬送された。
身体中に傷があったが、特に肛門がひどく傷つけられていて、出血していた。直腸も傷つけられていて、搬送先の病院で、人工肛門が取り付けられた。
少年は酷い栄養失調で、身体中の傷が炎症を起こしていた。複数の性感染症にも罹患していた。
恐怖のためか激しく震え出したり錯乱状態に陥ったりする彼を、医師は3日間、鎮静剤を打って眠らせた。その間、警察は彼の身元調査に務めたが、少年の身元は分からなかった。ただ、見た目よりも年齢が上かも知れないと、医師は言った。

加害者の中の誰も、彼の本当の名前を知らなかった。シロと呼ばれていたその少年は、河川敷で段ボールで作った家、家とも呼べない小屋で暮らしていたという。空き缶を集めて売ったり、ゴミを漁ったり、立ちんぼのような事もしていたという。ホームレス達は彼の存在を知っていたが、名前は知らなかった。彼は日に焼けない体質なのかホームレスにしては色が白く、シロと呼ばれていた。皆、彼が時々身体を売っているのは知っていたようだが、決まった場所や決まった客が付いている訳ではなかったらしい。街の風俗街や飲み屋街に聞き込みしたところ、ゲイバーや怪しげな風俗店で彼の事を知っている者がちらほらいた。彼は2年ほど前に突然この街に現れて、街角で立ちんぼをしていたという。最初の頃は未成年じゃないかと皆んなが噂したが、本人は20歳だと言ったらしい。口数が少ない大人しい子で、以前は隣りの県の大きな街にいたと言う。あまり自分の事は話したがらなかったが、その暮らしの割にはスレたところがなくて素直で、言葉遣いも丁寧だったから近隣のゲイバーの従業員がみな可愛がっていた。客を紹介したり、寝る場所を確保できなかった時は店の隅で寝かせてあげたりした。
でも、彼の何かが嗜虐心をくすぐるのか、なぜか時折暴力的な男に付き纏わられる事があって、ここ半年はそういう男の1人から逃げて繁華街には近寄らなかったらしい。
「シロちゃん、何かされたの?殺されてないわよね?あの子、良い子過ぎて危なかったのよ。」
ゲイバーのママが心配した。

3日後、彼は目を覚ました。看護師が彼にここがどこか分かるかと尋ねると、小さく首を横に振った。
「ここは病院です。あなたの怪我を治療しています。もう安心してください。あなたに悪いことをしていた人達は警察に逮捕されました。ここは安全です。安心して、ゆっくり休んでくださいね。」
看護師がそう言うと、彼は微かに頷いた。
その後も彼は度々錯乱しパニック発作に襲われたが、その度に女性看護師が宥めると、次第に落ち着きを取り戻した。

彼は当初、言葉が喋れないのかと思われていた。強いストレスや精神的なショックで言葉が話せなくなる。そういう事はあり得ると医師も考えた。
しかし1週間以上過ぎたある日、点滴を替えに来た看護師が、夕日が綺麗なのに気づいて声をかけた。
「夕日、きれいですよ。カーテン開けましょうね。ほら、空がピンクと紫ですごくきれいでしょう。」
そう言うと
「…あ、ぁ…ありが…と…ございます。きれい…」
そう消えいるような声で返事をした。
返事が返ってくるとは思っていなかった看護師は驚き、そしてとても喜んだ。
「お話、できるんですね。何でも言って下さいね。少しでも快適になるようお手伝いしますから。」

「なかばやし…なかばやししょうたです。」
「え?」
「なまえ、なかばやし、しょうたです…」

看護師は驚き、そしてすぐに師長に報告し、師長は警察にすぐ連絡した。彼の供述が本当だとしたら、20数年前に隣りの県で出産した中林という女性が、彼の母親である可能性がある。警察はその線で調べたが何も情報は得られなかった。




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