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プロローグ
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私が花咲総合病院の売店でアルバイトを始めて、暫くして。
やって来るお客さんの顔も覚え始め、雑談をする余裕も生まれた。おばちゃんは白髪染めをして、昔の私が知っているおばちゃんに近い容姿になった。そして、おばちゃんは私に赤いエプロンを縫ってくれた。大量のアップリケの付いたエプロン。おばちゃんとお揃いだ。売店の仕事は楽しい。身体も丈夫になった私は、売店の定休日以外、毎日、売店で働いた。そして、呆気なく春が終わろうとしていたその日、初めて見る顔のお医者さんが来店した。何というか、こう、綺麗な人だった。
「久し振り、おばちゃん」
「あーら!花塚先生!講習から戻ったの?」
おばちゃんに花塚先生と呼ばれた女性は、その言葉通り、先生……医師なのだろう。本当に綺麗な人で、思わず顔を見てしまう。女性としての魅力も充分ある、凛とした女医さんだった。花塚先生が私を見る。何だかドキドキしてしまって、初めまして、が言えなかった。その代わりに出た言葉は「いらっしゃいませ」。店員としては合格だ。
花塚先生はキュッと結んだ唇を緩め、微かに笑った。何度も言うが、綺麗な人だ。少しハスキーな声で、花塚先生が私に言った。新しく入ったの?と。私は何回か吃りながら、少し前にアルバイトとして入った、一豪です、と名乗った。可愛くない苗字に乙女なんて名前が付いているのが、私の微かなコンプレックスだった。一毫さんと呼ばれるのは好きじゃない。それなら、下の名前も名乗ったらいい。それはそうなのだけど、こういう時にフルネームを名乗るべきか、悩んだのだ。
でも、花塚先生は私に関心を持ってくれたようだった。
「下の名前は?私は花塚 瑠花」
「お、乙女です。一豪、乙女……」
よく、人に名前を尋ねる時は自分から名乗れ、という言葉を聞くけど、それが出来るのは大人だ。おばちゃんが私に花塚先生のことをペラペラと喋り出す。すると、花塚先生は苦笑いをする。そういうことは自分でするから、と。おばちゃんのお節介は変わらずといったところだ。花塚先生は内科医と小児科医を兼任しているそうで、先週から今日の午前中まで遠くの病院で講習会に参加していたのだそうだ。丁度、私と行き違った。普段はよく売店で買い物をする、売店の常連さんらしい。
「おばちゃん、パンケーキある?」
「残念ねぇ、今日は売り切れてるわ」
パンケーキ。私にとっては懐かしい商品だ。普段から売れ行きが良く、朝に入荷してもお昼には品薄になる。今日は売り切れだ。心底、残念そうにする花塚先生の顔を見て、おばちゃんが何かを閃いたようだ。おばちゃんは私に新しい仕事を与えた。パンケーキが入荷したら花塚先生に届けてあげなさいな!そう言って。すると、花塚先生は嬉しそうに微笑んだ。でも、いい、のだろうか。何というか、私には勿体無いというか。そんなことを思う時点で、私にとって花塚先生は「特別」。
昔から、好きになる子は女の子だった。誰にも言ったことが無い、私の秘密。花塚先生は私に、パンケーキ、頼める?と聞いた。私は少し顔が熱くなるのを感じながら、はい、と返事をした。そして、花塚先生はパンケーキの代わりにクッキーを買って、売店を出た。私はその場でへたり込んでしまった。胸がドキドキする。
やって来るお客さんの顔も覚え始め、雑談をする余裕も生まれた。おばちゃんは白髪染めをして、昔の私が知っているおばちゃんに近い容姿になった。そして、おばちゃんは私に赤いエプロンを縫ってくれた。大量のアップリケの付いたエプロン。おばちゃんとお揃いだ。売店の仕事は楽しい。身体も丈夫になった私は、売店の定休日以外、毎日、売店で働いた。そして、呆気なく春が終わろうとしていたその日、初めて見る顔のお医者さんが来店した。何というか、こう、綺麗な人だった。
「久し振り、おばちゃん」
「あーら!花塚先生!講習から戻ったの?」
おばちゃんに花塚先生と呼ばれた女性は、その言葉通り、先生……医師なのだろう。本当に綺麗な人で、思わず顔を見てしまう。女性としての魅力も充分ある、凛とした女医さんだった。花塚先生が私を見る。何だかドキドキしてしまって、初めまして、が言えなかった。その代わりに出た言葉は「いらっしゃいませ」。店員としては合格だ。
花塚先生はキュッと結んだ唇を緩め、微かに笑った。何度も言うが、綺麗な人だ。少しハスキーな声で、花塚先生が私に言った。新しく入ったの?と。私は何回か吃りながら、少し前にアルバイトとして入った、一豪です、と名乗った。可愛くない苗字に乙女なんて名前が付いているのが、私の微かなコンプレックスだった。一毫さんと呼ばれるのは好きじゃない。それなら、下の名前も名乗ったらいい。それはそうなのだけど、こういう時にフルネームを名乗るべきか、悩んだのだ。
でも、花塚先生は私に関心を持ってくれたようだった。
「下の名前は?私は花塚 瑠花」
「お、乙女です。一豪、乙女……」
よく、人に名前を尋ねる時は自分から名乗れ、という言葉を聞くけど、それが出来るのは大人だ。おばちゃんが私に花塚先生のことをペラペラと喋り出す。すると、花塚先生は苦笑いをする。そういうことは自分でするから、と。おばちゃんのお節介は変わらずといったところだ。花塚先生は内科医と小児科医を兼任しているそうで、先週から今日の午前中まで遠くの病院で講習会に参加していたのだそうだ。丁度、私と行き違った。普段はよく売店で買い物をする、売店の常連さんらしい。
「おばちゃん、パンケーキある?」
「残念ねぇ、今日は売り切れてるわ」
パンケーキ。私にとっては懐かしい商品だ。普段から売れ行きが良く、朝に入荷してもお昼には品薄になる。今日は売り切れだ。心底、残念そうにする花塚先生の顔を見て、おばちゃんが何かを閃いたようだ。おばちゃんは私に新しい仕事を与えた。パンケーキが入荷したら花塚先生に届けてあげなさいな!そう言って。すると、花塚先生は嬉しそうに微笑んだ。でも、いい、のだろうか。何というか、私には勿体無いというか。そんなことを思う時点で、私にとって花塚先生は「特別」。
昔から、好きになる子は女の子だった。誰にも言ったことが無い、私の秘密。花塚先生は私に、パンケーキ、頼める?と聞いた。私は少し顔が熱くなるのを感じながら、はい、と返事をした。そして、花塚先生はパンケーキの代わりにクッキーを買って、売店を出た。私はその場でへたり込んでしまった。胸がドキドキする。
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