捨て猫ちゃんとおっさん。

桜屋敷 櫻子

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衣食住、そして、愛。

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 お湯が沸き、おっさんのコーヒーと一緒に自分用のココアも淹れる。こうしてまたココアを飲めるとは思っていなかったので、淹れる度に心の底から感動する。でも、あたしはココアの粉末の袋に書かれている「あすかの!」という文字が気になっていた。あたしはおっさんが有名作家であるということくらいしかおっさんのことを知らない。



 家族はいるのだろうか。家庭を持っていてもおかしくない年齢だとは思う。……たぶん。おっさんがココアを飲むようには思えないし、このココアの存在は謎めく一方。このココアは誰が飲んでいたのか。「あすか」という子だろうか。あたしが考え込んでいると、頭に軽い衝撃。振り返るとそこにはおっさんがいた。





 「コーヒー、冷める」



 「あ、ごめん。ココアの謎を解いてた」



 「ココアの謎?」





 あたしはココアの袋に書いてある「あすかの!」という文字を指差した。おっさんが、あぁそれか、と気まずそうな顔をする。





 「そのココア、貰いもんなんだよ。熱烈なファンからの、な。消えかけてるけど、はづきせんせいは、って書いてあるだろ」



 「……ほんとだ」





 確かに、よく見るとココアの袋には「はづきせんせいは」という消えかけた文字が残っていた。「はづきせんせいはあすかの!」か。なんだ、娘さんのとかじゃないんだ。それにしても、ひらがなしか書けないような幼い子も読者に取り込んでいるとはおっさんは一体、どんな本を書いているのか。冷めゆくコーヒーのカップを手にして、おっさんはあたしに背を向けた。そして、歩き出そうとしてその足を止めた。軽く振り向いたその顔はさっきよりも気まずそうなものだった。





 「……絵本の原作やった時の貰いもんだから」



 「え?」



 「そのココアだよ。それに、幼女に惚れられたくて絵本の仕事を受けたわけじゃないから。あと、ココアの封を開けたの俺の担当編集者だから」





 早口でそう言うと、おっさんは早足でキッチンを去って行った。え、もしかして、あたしがロリコンかどうか聞いたの気にしてる?素直に、誠実な人だ、そう思った。あたしもココアを手におっさんを追いかける。あたしはおっさんの仕事部屋への出入りを許されていたから、部屋まで付いていった。
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