保健室の秘め事

桜屋敷 櫻子

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保健室の先生

 カラカラカラ。先生が保健室の扉を開けて、中へと入る。あれ、留守のプレートはそのまま?忘れてるのかな?





 「あの、先生。留守のプレート、」



 「そのままでいいんです、僕は今、ここにいないことにしていますので。ベッドは空いていますから、どうぞ勝手に休んでいってください」





 ……はい?なんという、堂々としたサボり、そして、クール過ぎる対応……。でも、私はどうしても、このヒロそっくりの先生とお近付きになりたい!





 「失礼します……」





 私がドキドキしながら保健室の中に入ると、先生はすぐさま扉を閉めて、鍵を掛けた。先生はどうしても、仕事をサボりたいらしい。





 「あの、ベッド、」



 「だから、勝手に使ってください。いない人間に話し掛けないでください」





 私は、ベッドの上、資料かなにかの山があって寝られないんですけど、って言おうとしたんだけど。まぁ、なんか眠気も気分の悪さも飛んでいっちゃったし、座るだけでもいいか。

 私は紙の山でシーツがくしゃくしゃになったベッドに座ると、デスクの前に座る先生の横顔を見つめた。やっぱり、すごく整った顔。二次元の世界にしかいないようなイケメンだ。

 私は思わず、綺麗、と呟いてしまった。その呟きに反応したのか、先生の顔がゆっくりと私の方を向く。先生は、すごく嫌そうな顔をしていた。





 「……寝ないんですか」



 「寝られないんです、これ、積んであって」



 「適当に退けていいですよ、もう用済みの資料ですので」





 適当にって言われても、整頓するのも大変な量のこの紙をどこへ退けろと。私が先生の顔と紙の山を交互に見ていると、はぁ、と溜め息を吐いて、先生が立ち上がった。





 「適当に退けていい、と言ったでしょう」



 そう言いながら先生が私に近付いてくると、ふわっとした石鹸の香りが私の鼻をくすぐった。私よりいい香りがするんじゃないだろうか、この先生。





 「なにを、見ているんですか」





 私が石鹸の香りに酔って、ぽーっと先生の顔を見つめていると、先生に睨まれた。いけない、お近付きになりたいのに、このままじゃ嫌われてしまいそうだ。

 先生はガサガサと紙の山を片付ける、私のすぐ近くで。……どうしよう、心臓がドキドキする。なにか言わなきゃいけない気がするけど、なにを言ったら先生は嫌な顔をしないでくれるんだろう。





 「あの、先生、上の名前はなんて言うんですか、」





 私が少し小声でそう尋ねると、先生は手を止めて、私の方を見た。不思議そうな顔。初めて、嫌そうじゃない顔を見た。





 「下の名前は知っているのに、上の名前は知らないんですか?変な子ですね。今井、ですよ」





 いや、私は別に、先生の下の名前を知っていたわけじゃないんですけど。いまいせんせい。今井先生、か。心の中で先生の名前を繰り返す。





 「君は?」



 「へ?」





 そう尋ねられて、一瞬、なんのことかわからなかった。





 「名前、ですよ」





 短くそう言われて、あぁ、そうか、と理解した。





 「佐藤、です。佐藤、雛」





 そう答えた私の声は、ちょっと震えていた。嬉しくて震えたのだ、この、生徒に興味なんかなさそうな今井先生が、私の名前を知ろうとしてくれたことが。自然と、頬が緩んだ。
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