保健室の秘め事

桜屋敷 櫻子

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秘密の放課後

 私が高校に入学してから二週間が経つけど、二週間前、そう、今井先生と出会う前は、まさかこんな高校生活を送ることになるとは思っていなかった。



 私が予定していた高校生活は「慣れない高校生活に戸惑いつつも新しい友達に囲まれてお昼休みと放課後はワイワイガヤガヤ!ガールズトークに花を咲かせちゃったり!!」みたいな、ごく普通のものだった。

 予定とは全然違うものになっている、私の高校生活。でも、これは、私が好きで選んだ毎日だ。私は、ショートケーキにフォークを突き刺しながら、今井先生の顔を盗み見た。ちらり。しかし、ばっちり目が合ってしまって、慌てて視線をショートケーキに戻した。

 ドキドキ、ドキドキ。うるさいぞ、心臓!もう二週間も経つんだから、いい加減、慣れてよ!私は平静を装って、ショートケーキを一口分取って口に入れた。……こんな状態でも、ショートケーキの味は蕩けるように美味しいとわかるのだから、今井先生の腕はすごい。機会があったら、パティシエへの転職を勧めたい。



 

 「どうですか?味は」



 「美味しいです、お店のケーキみたい……」



 「それは良かった。あぁ、口の端に生クリームが。取ってあげましょうか?」



 「い、いえ、大丈夫です、自分で、」



 「遠慮しないでください。ほら、取れましたよ」

 



 入学式のあの日、運命的な出会いを果たした私と今井先生は、今ではそれなりに親しい仲になっていた。口の端に付いた生クリームを指で取ってもらうとか、こんな甘いやり取りをするくらいには。けど、私には一つ、疑問に思っていることがある。

 毎日のように、というか、毎日、私に紅茶とケーキを出してくれる今井先生。今井先生は、どうして私にだけ優しいんだろう?最近知ったんだけど、今井先生はサボり魔な上、生徒に冷たい「嫌いな先生ナンバーワン」に輝いてしまっているらしい。



 サボり魔なのは、私が一番……か、どうかはわからないけど、よく知っている。今井先生は私が来ている間、絶対に保健室の扉を開けない。生徒が来ても、他の先生が来ても、居留守を使ってやり過ごす。それは、お昼休みであっても放課後であっても一緒で、よくクビにならないな、と思ってしまうほどだった。





 「考え事ですか?」



 「……あの、今井先生に質問があるんですけど」



 「質問、ですか。なんでしょう?」





 この際だから、聞いてしまおう。どうして、私が今井先生の「特別」なのか。





 「えっと、今井先生、どうして私にだけ優しいんですか?」



 「あぁ、そのことですか。いつ聞いてくれるのかなーと思っていました」





 ニコニコ。今井先生の表情が明るく、柔らかくなる。やっぱり、今井先生は笑うとちょっと可愛い。じゃなくて、本当にどうしてなんだろう?

 私が答えを待っていると、今井先生がスッと私の顔に手を伸ばしてきた。デスクの前に座る今井先生と、デスクの脇に座る私との距離は、そんなに遠くない。今井先生の長くて細い指が、私の顎を撫でた。思わず、びくっと反応してしまって、恥ずかしくなる。
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