聖なる乙女の××

笠原久

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第1章 聖なる乙女の学園

第17話 神竜の帰還

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「修行になりませんもの」

 と私は答えた。剣闘士たちの戦いは「見世物」としての要素が強かった。派手な立ち回りや魔術を売りにしていて、真剣勝負はあまりない。

 例外は、乱入者とやり合うときくらいだろう。

 もちろん剣闘士たちは鍛えているから、そうそう負けることはないが、だからといって不敗を誇るほど強いわけでもなかった。

「騎士や冒険者になれない人たちですからね、剣闘士は」

 デイジーが補足した。

「ふむ……。腕に覚えのあるものなら国に取り立てられるか、あるいは魔物や魔獣退治で稼ぐかしているか」

「今でも未開の地を冒険しようとする人たちはいますよ。大半の冒険者は、退治屋か傭兵やってますけどね」

 デイジーの言葉に、ふふっ、とラオカは口許を指先で隠して笑った。

「それは仕方あるまい。世界は有限なのだからな。未踏領域はどんどんせまくなっていくし、未開の地も時とともに開拓されてしまう。冒険者が昔のように冒険できる場所は少なかろう」

「ラオカさまの知る冒険者はちゃんと冒険をしていたのですね」

「我の子供の頃は、それこそ未開の地ばかりだったからな。長じてからも未踏の場所は多くあった。そもそも国と国のあいだが離れていて、旅をするだけでも人にとっては結構な冒険だったぞ? 少ないながらも魔物や魔獣だっていたのだからな」

 ラオカはなつかしむように語った。

「昔は冒険者もしっかり冒険していたが……今となっては無理であろうよ。しかも魔石だったか? 昔はきれいな石で、一部の好事家がほしがるだけの代物だったのが、ずいぶんと色々開発したものだ。それに魔物や魔獣が大繁殖した今となっては、そちらの討伐が主流になるのは時代の流れだろう」

 そういえば、とラオカは私たちに目を向けた。

「お主らは冒険者ではないのか? 魔物や魔獣討伐など嬉々としてやっていそうだが」

「討伐はやっていますけれど、冒険者登録はしていません」

 私の答えに、ラオカはいぶかしげな顔をした。

「とすると、魔石はどうしているのだ? 公爵家が直接売っているのか? 魔石売買は冒険者ギルドの独占事業だと歴史の本には書いてあったが」

「未登録でも、ギルドに魔石を売ることはできますから。ただ、ほかの人や商会に売ることはできません。違法なので」

 なにせ魔石の利用法を研究し、開発してきたのは冒険者ギルドなのだ。

 もともと魔石は討伐証明でしかなかった。だが、せっかく手に入れた戦利品なのだ。なにかしら有効活用はしたい。大昔のギルドはそう考えて、ずっと研究を続けてきた。

 そうして開発されたのが、現代日本にもあるような製品の数々だ。

 当初、ギルドは冒険者たちの寄り合い所、互助組織でしかなかった。しかも統一された組織ではなく、世界各地にばらばらに存在していた。

 だが研究や技術、資本目当ての買収と合併が繰り返され、世界最大の超巨大企業へと成長した。しかも長年の魔石研究がついに実を結び、莫大な富を得て、すさまじい影響力を持つようになった。

「自衛のためにも、魔獣や魔物を討伐することそのものは問題ありません。ただ、手に入れた魔石は必ず冒険者ギルドに売却する決まりです」

「すべては金の力の為せる技か」

 ラオカはくすくすと笑った。

「冒険者にならないかと誘われたことはないのか? お主らの腕前ならば、引く手あまただと思うが」

「やり始めた頃は誘われました。ただ、私とデイジーが十歳になる頃には不思議と声がかからなくなりましたね。たぶん、誰も本気だとは思っていなかったんでしょう。これでも一応、公爵令嬢と子爵令嬢ですからね」

 はじめて魔物討伐をしたのは、七歳のときだ。

 中伝を授かり、意気揚々と魔物討伐におもむいたのだ。あの頃は、粗野だが気のいい冒険者たちに頭を撫でられ、将来有望な子供たちだと、もてはやされたものだ。

「お主ら自身は興味がなかったのか?」

「冒険者は魔王討伐に協力することが多いので」

「そこだけは本当にブレないな」

 ラオカは呆れた様子で笑った。闘技場を出ると、私たちは王都をぶらぶらと歩き回った。そういえば町を見ていなかったと言って、ラオカは楽しげに散歩していた。

 翌日も同じように王都を歩いた。せまい路地や街灯の立ち並ぶ大通りなど、ラオカにとって人の町並みは珍しく映るらしい。実に楽しそうだった。

 八日目にラオカは花園に戻った。私とデイジーも同行した。リバ山があった周辺は、特に被害が大きかったと聞いている。

 宰相からは、王国総出で復興作業を行なっているから問題ない、と言われてはいた。だが、やはり気になった。
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