18 / 103
第1章 聖なる乙女の学園
第16話 神竜の王都観光
しおりを挟む
ラオカは一週間ほど王都に滞在した。
彼女の逗留先は我が家になった。というより、ラオカが私たちと一緒にいることを望んだため、必然的にフリティラリア家の屋敷で過ごすことになったのだ。
屋敷の人間は緊張した面持ちだった。やはりドラゴン、それも伝説の神竜が相手となると、普段どおりに振る舞うのは難しいらしい。
もっとも、ラオカは私たちにべったりだったから、屋敷の人間との接触は少なかったが。
彼女は王都を観光し、物珍しげにカフェやレストランや劇場、公園、図書館、美術館、闘技場などを見物した。
ラオカが帰るまでの一週間、私たちは修行を休み、ひたすら王都を案内した。
一日目はフリティラリア家の屋敷に泊まったが、二日目からはホテルを利用した。同じ宿ではなく、毎日宿泊先を変えた。
当人いわく、興味がある、とのことだった。
安宿から高級ホテルまで、彼女は帰るまでに六つの宿を制覇した。
二日目と三日目は王都有数の高級ホテルに泊まった。見晴らしのいいスイートルームだ。ラオカは窓から王都の町並みを一望し、興味深そうに広い部屋を見回した。
やわらかいソファやベッドにさわったり、座ったり、寝転がったりした。
ひとしきり部屋を堪能すると、ラオカはホテル内にあるプールでひと泳ぎした。それから一階にあるカフェに行ってお茶と軽食を楽しみ、最上階のバーに行って酒を飲んだ。
食事はすべてホテル内のレストラン、あるいはルームサービスで食べた。それ以外の時間は劇場に行って、流行りの舞台や音楽を楽しんでいた。
四日目と五日目は安宿に泊まった。さすがに大部屋で雑魚寝をするような宿ではないが、昨日までの高級ホテルとは似ても似つかない宿だ。
部屋はせまく、粗末なベッドが置かれてあるだけだった。テーブルやイスすらなく、まさに寝るためだけの部屋だ。棚もない。荷物は床に置けと言わんばかりだった。
ラオカは気にしていないらしく、むしろ窮屈な部屋を面白がっている様子だった。洗ってはあるが、だいぶくたびれたシーツや毛布を愉快そうにさわって、ほほをくっつけていた。
実はラオカが安宿に泊まりたがっていると知って、王宮からわざわざ宰相が出向いてきていた。だが、ラオカの様子を見てため息をつき、彼は私に向かってこう言った。
「余計な心配だったようです。お騒がせして申しわけありませんでした」
周囲の注目を集めた件について、だった。
一国の宰相が来るというので、安宿には野次馬が集まっていた。
もっとも、私やデイジーの姿を見ると、彼らはそそくさと立ち去ったので、今はどこにも喧騒はない。静かなものだった。
「ラオカミツハさまに関しては、あなた方に一任いたします。費用は王宮が負担しますゆえ、できるだけ望みどおりに」
それだけ言うと、彼は護衛の騎士(私たちを取り調べた、例の女ふたり)を引き連れて帰っていった。ラオカは宰相のことはいっさい気にかけず、図書館に行きたいと言った。
連れて行くと、彼女は本棚でできた壁に興奮していた。壁一面に本が並べられ、さらに部屋を仕切るかのように本棚が立ち並んでいる。
ラオカは何冊か手に取ると、すぐさまテーブルに本を置いた。イスに座って一日中、本を読みふけった。食事は近場のカフェやレストランを利用した。
夜は安宿で寝たが、それ以外はずっと図書館にこもりきりだった。
アルファ王国や世界の通史を書いた本から、魔法の概説書、有名な古典文学から最近の人気作まで、ラオカは実に楽しそうに読んでいた。
六日目と七日目はそれなりの宿を選んだ。一泊二食付きで、大浴場がある宿だ。温泉ではないが、魔法で擬似的に温泉と同じ効果のある湯を作ったホテルだ。
ラオカは目当ての大浴場に入った。楽しそうに体を洗い、湯船に浸かって気持ちよさそうな声を上げていた。
ひとしきり風呂を堪能したら、今度は公園をのんびりと散歩し、美術館に立ち寄って絵画や彫刻を見た。昼食を取ってから闘技場に行き、剣闘士たちの戦いぶりを見物した。
たまに観客席からの乱入者がいて、盛り上がる。
「お主らは行かんのか?」
ラオカが茶化すように言った。
彼女の逗留先は我が家になった。というより、ラオカが私たちと一緒にいることを望んだため、必然的にフリティラリア家の屋敷で過ごすことになったのだ。
屋敷の人間は緊張した面持ちだった。やはりドラゴン、それも伝説の神竜が相手となると、普段どおりに振る舞うのは難しいらしい。
もっとも、ラオカは私たちにべったりだったから、屋敷の人間との接触は少なかったが。
彼女は王都を観光し、物珍しげにカフェやレストランや劇場、公園、図書館、美術館、闘技場などを見物した。
ラオカが帰るまでの一週間、私たちは修行を休み、ひたすら王都を案内した。
一日目はフリティラリア家の屋敷に泊まったが、二日目からはホテルを利用した。同じ宿ではなく、毎日宿泊先を変えた。
当人いわく、興味がある、とのことだった。
安宿から高級ホテルまで、彼女は帰るまでに六つの宿を制覇した。
二日目と三日目は王都有数の高級ホテルに泊まった。見晴らしのいいスイートルームだ。ラオカは窓から王都の町並みを一望し、興味深そうに広い部屋を見回した。
やわらかいソファやベッドにさわったり、座ったり、寝転がったりした。
ひとしきり部屋を堪能すると、ラオカはホテル内にあるプールでひと泳ぎした。それから一階にあるカフェに行ってお茶と軽食を楽しみ、最上階のバーに行って酒を飲んだ。
食事はすべてホテル内のレストラン、あるいはルームサービスで食べた。それ以外の時間は劇場に行って、流行りの舞台や音楽を楽しんでいた。
四日目と五日目は安宿に泊まった。さすがに大部屋で雑魚寝をするような宿ではないが、昨日までの高級ホテルとは似ても似つかない宿だ。
部屋はせまく、粗末なベッドが置かれてあるだけだった。テーブルやイスすらなく、まさに寝るためだけの部屋だ。棚もない。荷物は床に置けと言わんばかりだった。
ラオカは気にしていないらしく、むしろ窮屈な部屋を面白がっている様子だった。洗ってはあるが、だいぶくたびれたシーツや毛布を愉快そうにさわって、ほほをくっつけていた。
実はラオカが安宿に泊まりたがっていると知って、王宮からわざわざ宰相が出向いてきていた。だが、ラオカの様子を見てため息をつき、彼は私に向かってこう言った。
「余計な心配だったようです。お騒がせして申しわけありませんでした」
周囲の注目を集めた件について、だった。
一国の宰相が来るというので、安宿には野次馬が集まっていた。
もっとも、私やデイジーの姿を見ると、彼らはそそくさと立ち去ったので、今はどこにも喧騒はない。静かなものだった。
「ラオカミツハさまに関しては、あなた方に一任いたします。費用は王宮が負担しますゆえ、できるだけ望みどおりに」
それだけ言うと、彼は護衛の騎士(私たちを取り調べた、例の女ふたり)を引き連れて帰っていった。ラオカは宰相のことはいっさい気にかけず、図書館に行きたいと言った。
連れて行くと、彼女は本棚でできた壁に興奮していた。壁一面に本が並べられ、さらに部屋を仕切るかのように本棚が立ち並んでいる。
ラオカは何冊か手に取ると、すぐさまテーブルに本を置いた。イスに座って一日中、本を読みふけった。食事は近場のカフェやレストランを利用した。
夜は安宿で寝たが、それ以外はずっと図書館にこもりきりだった。
アルファ王国や世界の通史を書いた本から、魔法の概説書、有名な古典文学から最近の人気作まで、ラオカは実に楽しそうに読んでいた。
六日目と七日目はそれなりの宿を選んだ。一泊二食付きで、大浴場がある宿だ。温泉ではないが、魔法で擬似的に温泉と同じ効果のある湯を作ったホテルだ。
ラオカは目当ての大浴場に入った。楽しそうに体を洗い、湯船に浸かって気持ちよさそうな声を上げていた。
ひとしきり風呂を堪能したら、今度は公園をのんびりと散歩し、美術館に立ち寄って絵画や彫刻を見た。昼食を取ってから闘技場に行き、剣闘士たちの戦いぶりを見物した。
たまに観客席からの乱入者がいて、盛り上がる。
「お主らは行かんのか?」
ラオカが茶化すように言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる