聖なる乙女の××

笠原久

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第2章 聖なる乙女の騎士

第12話 常識をなくした女

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「いい加減、元気を出してください。私とお嬢さまのおっぱい揉ませてあげますから」

「うるせーな! 揉まねぇよ! 誰が揉むか!」

 シスルはテーブルから顔を上げて叫び、そして私を指さした。

「てめーも服脱ごうとしてんじゃねぇよ!」

「生のほうがいいかなって。ほら、デイジーも生が一番好きだし」

「あたしはそういう趣味ねぇんだよ!」

「本当に地球時代の感性を引きずっちゃってるんですねぇ」

 デイジーが興味深そうに言った。

「この世界だと生きづらそうな気もしますが……」

「るせーな! だいたいなんで女同士の関係が当たり前になってんだよ! 男同士はそんなことないのに!」

「そりゃあ女同士、親密な関係になったほうが合理的だからですよ。昨日言ったでしょう? チームを組んで殿方を迎え入れる、と」

 デイジーは人差し指を立てた。

「そのために、まず女同士で恋人のような関係を作って結束を強めるんです。逆に殿方は同性同士で仲良くしない生態になっていますね。なぜかというと――」

「引き離すときにトラブルになるから?」

 リリーが首をかしげながら言った。

「そうです。仲良しこよしの関係を作られても困るんですよ。殿方は、いずれ女同士のグループに迎え入れられるんですから。基本、愛情は全部女のほうに向いてくれないと余計なトラブルになりかねません。妻をないがしろにして、同性の殿方を優先します、なんてことになってはまずいんです」

「また合理化効率化かよ! なんでもかんでもぉ!」

 立ち上がったシスルが吠えるように叫んだ。リリーがシスルを座らせた。落ち着くように言い聞かせる。それからリリーは、コーヒーのカップをシスルに渡した。

「それで、どうしてダメだったんだい? 昨日あんなに息巻いて出て行ったのに」

「そいつら二人のせいだよ!」

 シスルはコーヒーを一気に飲み干すと、空になったカップを乱暴に置いて、私とデイジーを指さした。

「あたしらが校門で話してたのと、一緒に行動してるのを目撃されてたんだ! 噂が広まって、あたしらも完全に『ヤベーやつ』の仲間入りだよ! 話しかけることすら難しくなってたぞ!」

「え? もしかして、私たちって嫌われてるの?」

 ショックだった。

「ビビられてんだよ! 好かれてると思ってたのか!? あんだけやらかしといて!」

「やらかす……?」

 私が首をひねっていると、埒が明かねぇ! とシスルが叫んだ。

 そして、私とデイジーの手を引っ張って外に連れ出す。リリーも慌てて追いかけてきた。階段を降りて校庭まで来ると、シスルは私たちに向き直ってこう言った。

「お前ら、ここで普段の修行をやってみせろ」

「なんで急に?」

「いいから」

 よくわからなかったが、修行すること自体はやぶさかでない。

 シスルとリリーが普段どういう鍛錬をしているのかも興味があった。自分たちのをまず見せてから、二人の修行風景を見物させてもらおう。

「じゃ、デイジー。軽くお願い」

「わかりました」

 デイジーは剣を抜き放つと、素早く私の右腕と左足を切断した。

「さぁ、始めましょうか」

 片足で立ち、左手で剣を抜きながら、私は言った。が、シスルが止めた。

「ちょっと待てや! 何やってんだよ!?」

「何って……修行でしょう?」

「なんでいきなり片手片足斬り飛ばすんだよ!?」

「負傷した状態での戦闘訓練よ。ほら、常に最善の状態で戦えるとは限らないでしょ? それとも、下半身消し飛ばされた状態のほうがよかった? もしくは両手の小指と薬指だけ、ふっ飛ばされた状態とか……」

「そんな訓練するやつ普通いねぇんだよ!」

 最初、言っている意味がわからなかった。

「え……? そ、そうなの?」

「なんで不思議そうな顔してんだよ!? まわりを見てみろ!」

 私はゆっくりと校庭に目を向けた。多くの生徒たちが訓練をしている。

 よくよく観察してみれば、みんな頬をひきつらせていた。私と目が合うと、誰も彼もが顔をそらしてうつむいた。足早に立ち去るものもいる。

「めっちゃビビってるだろうが! そういうとこだよ!」

「そういえば、家族にも止められてたけど……」

「当たり前だろうが!? こんな訓練してるの見て、正気を保ってられる家族とかいるわけねぇだろ! 気が狂ったんかと思うわ!」

「でも、どうせ魔法で治せるし――」

「治せるからって、平気で自分の体ぶっ壊せるやつなんかいねぇよ! とにかくその訓練は禁止だ禁止! そんなんやってたら性別関係なく全員逃げる! ってか、はよ治せや!?」

 言われて、デイジーが治癒魔術を使った。私の腕と足が再生する。
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