33 / 103
第2章 聖なる乙女の騎士
第13話 常識を代償に得た力
しおりを挟む
「くっつけるんじゃなくて生やすのかよ!?」
「え? これもおかしいの?」
私は切断された足から靴と靴下を取り外そうとしていた。シスルは頭を抱えている。猫の耳を押さえ、しっぽが苛立ちを示すようにゆらゆらと激しく動いていた。
「もうこいつらヤダー! なにひとつ常識が通じないぃー!」
「常識を代償に、手に入れた力ですからね」
デイジーが自慢げに胸を張って言った。大きな乳房が揺れる。
「うっせーな! ってか、お前はわかってんだろ!? なんかこいつは!」
とシスルは靴下を履く私を指さした。
「天然っぽい! けど、お前は面白半分にわかっててやってる感じがする! 大好きなお嬢さまに合わせてるだけっぽい気配がする!」
「失礼ですね、私とお嬢さまは同類ですよ?」
「そんなセリフが出る時点で! ある程度自分を冷静に見てんじゃねぇの!? くそぁ!」
ひとしきり叫んでから、シスルは大きく肩で息をついた。
「とにかく周りに合わせろ! 周りに! 普通の訓練をしようぜ!? もうコレ以上の強さはいらねぇだろ!? お前ら、何と戦うつもりだよ!?」
「私は戦わないわ。絶対に逃げる!」
靴を履いた私は断言した。
「じゃあ、なんでこんな強くなってんのぉ!? 護身術レベルだったら、それこそ初伝と下級魔術とった時点で十分すぎるだろうが! 中伝とか中級魔術でも過剰なのに、皆伝とか大魔術まで会得しやがって! やることなすこと全部ズレてんじゃねぇか! お前ほんとは戦いたくて戦いたくてたまらないんだろ!?」
「中伝なんて誰でもとれるじゃない。それじゃさすがに――」
シスルが信じられないものを見る目で私を見た。猫の耳が驚きを示すようにピンと立っている。
「お前それマジで言ってんの?」
「だって、武術の師範に『中伝をとるのに、初伝と合わせて十六年から二十年かかる』って言われたから。違うの?」
「それは! ある程度の! 才能があるやつの話だろうが!」
シスルは私の胸ぐらをつかんで揺すぶった。
「努力が通じるのは初伝まで! 中伝とれるやつなんて一割もいねぇよ! 数十人に一人とかのレベルだよ! つーか中伝がそんなお手軽なもんなら、あんなきれいにお前の手足ぶった斬れるわけねぇだろ!? お前そこに転がってる――!」
と切断された私の右腕と左足をシスルは指さした。
「自分の手足の切断面をよく見てみろ! こんななめらかに斬れるかってんだよ! つーかお前の防御突破できる時点で、こいつ明らかに中伝レベルじゃねぇけど! どう見ても奥伝っつーか、パワーだけなら皆伝クラス……!」
「そうなんだ……」
「ってかな! この学校の卒業要件が! なんらかの武術、学識、社交、魔術の中伝相当を二つ、または上級魔術や武術の奥伝を一つ会得ってなってるだろうが! そんな簡単なら条件にならねぇ!」
「ご、ごめんなさい……。てっきり婚活メインなのかと……」
ゲーム(『学園』のほう)と違って、王立学園は条件さえ満たせばいつでも卒業できる。三年以内に条件を満たせないと退学になってしまうが、条件そのものは簡単だ。
だから、ちょっとおかしい、と内心で思ってはいたのだ。
私やデイジー、それにリリーやシスルなど、入学前から卒業資格を得てしまっている。だから、私はこう考えた――ここは異性との出会いの場なのだと。
三年間で、お互いに結婚相手を見つけましょうね、できなくても女は相手探しのチームを組みましょうね、という意味なのだと。
「入学者の名簿を見ても、みんなすぐに卒業できそうだったから……」
「まぁ確かに男目当てのやつも多そうだけどな。でも、この学園って入るのも大変だからな? もともと優秀なやつしか入れない学園で、より高度な技を身につけたいと考えているやつ向けの場所だぜ、ここは」
「でも、それだったら奥伝や上級魔術を必須条件にしたらよくない?」
「それだと退学者だらけになるだろうが! お前ほんとにわかってんの!? 上級魔術だ奥伝だなんて、数万人に一人とかの規模だろうが! しかも普通は二、三年で身につけられねぇから!」
「そうなの? 私やデイジーは二、三年で……」
「お前らを基準にすんなや!」
「でもシスルやリリーだって……!」
と私が唇を尖らせると、シスルは地団駄を踏んだ。
「あたしやリリーも、一〇〇〇年に一人の天才少女って言われてんだよ! お前らが『人類史上最強の怪物』とか『魔神の生まれ変わり』とか恐れられてるから全ッ然目立たないだけで!」
「なんでそんなに差がついてるの?」
デイジーは違うが、三人とも武術の皆伝持ちだ。魔術にしたって、シスル以外は大魔術が使える。年齢も同じなのだから、差があるとは思えなかった。
「実績と無茶苦茶な風評のせいに決まってんだろ!? 伝説の神竜とバトルして、天変地異起こしたり、手足ぶった斬るような苛烈な訓練やったり……! そりゃ『こいつらやべぇな』ってなるわ! だいたい同じランクの魔術でも、魔力とか練度とかで威力が全然違うだろうが! 差があるんだよ! ちゃんと!」
「シスル、そのくらいに」
見かねた様子のリリーが口をはさんだ。
「彼女たちも悪気があったわけじゃないんだ」
「だから問題なんだろ!? 悪いことしてるって意識がねぇからダメなんだよ! 絶対に反省できねぇじゃねぇか!」
「いや、まぁ、うん……」
リリーは目をそらしながら、歯切れ悪く答えた。が、すぐに前を向いて、
「と、とにかく! これからは、ふたりにも普通の訓練をしてもらうということで!」
「わかったわ。負傷させての訓練はしないことにする」
私は宣言した。さすがにチームの仲間に迷惑をかけるわけにはいかない。
「え? これもおかしいの?」
私は切断された足から靴と靴下を取り外そうとしていた。シスルは頭を抱えている。猫の耳を押さえ、しっぽが苛立ちを示すようにゆらゆらと激しく動いていた。
「もうこいつらヤダー! なにひとつ常識が通じないぃー!」
「常識を代償に、手に入れた力ですからね」
デイジーが自慢げに胸を張って言った。大きな乳房が揺れる。
「うっせーな! ってか、お前はわかってんだろ!? なんかこいつは!」
とシスルは靴下を履く私を指さした。
「天然っぽい! けど、お前は面白半分にわかっててやってる感じがする! 大好きなお嬢さまに合わせてるだけっぽい気配がする!」
「失礼ですね、私とお嬢さまは同類ですよ?」
「そんなセリフが出る時点で! ある程度自分を冷静に見てんじゃねぇの!? くそぁ!」
ひとしきり叫んでから、シスルは大きく肩で息をついた。
「とにかく周りに合わせろ! 周りに! 普通の訓練をしようぜ!? もうコレ以上の強さはいらねぇだろ!? お前ら、何と戦うつもりだよ!?」
「私は戦わないわ。絶対に逃げる!」
靴を履いた私は断言した。
「じゃあ、なんでこんな強くなってんのぉ!? 護身術レベルだったら、それこそ初伝と下級魔術とった時点で十分すぎるだろうが! 中伝とか中級魔術でも過剰なのに、皆伝とか大魔術まで会得しやがって! やることなすこと全部ズレてんじゃねぇか! お前ほんとは戦いたくて戦いたくてたまらないんだろ!?」
「中伝なんて誰でもとれるじゃない。それじゃさすがに――」
シスルが信じられないものを見る目で私を見た。猫の耳が驚きを示すようにピンと立っている。
「お前それマジで言ってんの?」
「だって、武術の師範に『中伝をとるのに、初伝と合わせて十六年から二十年かかる』って言われたから。違うの?」
「それは! ある程度の! 才能があるやつの話だろうが!」
シスルは私の胸ぐらをつかんで揺すぶった。
「努力が通じるのは初伝まで! 中伝とれるやつなんて一割もいねぇよ! 数十人に一人とかのレベルだよ! つーか中伝がそんなお手軽なもんなら、あんなきれいにお前の手足ぶった斬れるわけねぇだろ!? お前そこに転がってる――!」
と切断された私の右腕と左足をシスルは指さした。
「自分の手足の切断面をよく見てみろ! こんななめらかに斬れるかってんだよ! つーかお前の防御突破できる時点で、こいつ明らかに中伝レベルじゃねぇけど! どう見ても奥伝っつーか、パワーだけなら皆伝クラス……!」
「そうなんだ……」
「ってかな! この学校の卒業要件が! なんらかの武術、学識、社交、魔術の中伝相当を二つ、または上級魔術や武術の奥伝を一つ会得ってなってるだろうが! そんな簡単なら条件にならねぇ!」
「ご、ごめんなさい……。てっきり婚活メインなのかと……」
ゲーム(『学園』のほう)と違って、王立学園は条件さえ満たせばいつでも卒業できる。三年以内に条件を満たせないと退学になってしまうが、条件そのものは簡単だ。
だから、ちょっとおかしい、と内心で思ってはいたのだ。
私やデイジー、それにリリーやシスルなど、入学前から卒業資格を得てしまっている。だから、私はこう考えた――ここは異性との出会いの場なのだと。
三年間で、お互いに結婚相手を見つけましょうね、できなくても女は相手探しのチームを組みましょうね、という意味なのだと。
「入学者の名簿を見ても、みんなすぐに卒業できそうだったから……」
「まぁ確かに男目当てのやつも多そうだけどな。でも、この学園って入るのも大変だからな? もともと優秀なやつしか入れない学園で、より高度な技を身につけたいと考えているやつ向けの場所だぜ、ここは」
「でも、それだったら奥伝や上級魔術を必須条件にしたらよくない?」
「それだと退学者だらけになるだろうが! お前ほんとにわかってんの!? 上級魔術だ奥伝だなんて、数万人に一人とかの規模だろうが! しかも普通は二、三年で身につけられねぇから!」
「そうなの? 私やデイジーは二、三年で……」
「お前らを基準にすんなや!」
「でもシスルやリリーだって……!」
と私が唇を尖らせると、シスルは地団駄を踏んだ。
「あたしやリリーも、一〇〇〇年に一人の天才少女って言われてんだよ! お前らが『人類史上最強の怪物』とか『魔神の生まれ変わり』とか恐れられてるから全ッ然目立たないだけで!」
「なんでそんなに差がついてるの?」
デイジーは違うが、三人とも武術の皆伝持ちだ。魔術にしたって、シスル以外は大魔術が使える。年齢も同じなのだから、差があるとは思えなかった。
「実績と無茶苦茶な風評のせいに決まってんだろ!? 伝説の神竜とバトルして、天変地異起こしたり、手足ぶった斬るような苛烈な訓練やったり……! そりゃ『こいつらやべぇな』ってなるわ! だいたい同じランクの魔術でも、魔力とか練度とかで威力が全然違うだろうが! 差があるんだよ! ちゃんと!」
「シスル、そのくらいに」
見かねた様子のリリーが口をはさんだ。
「彼女たちも悪気があったわけじゃないんだ」
「だから問題なんだろ!? 悪いことしてるって意識がねぇからダメなんだよ! 絶対に反省できねぇじゃねぇか!」
「いや、まぁ、うん……」
リリーは目をそらしながら、歯切れ悪く答えた。が、すぐに前を向いて、
「と、とにかく! これからは、ふたりにも普通の訓練をしてもらうということで!」
「わかったわ。負傷させての訓練はしないことにする」
私は宣言した。さすがにチームの仲間に迷惑をかけるわけにはいかない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる