聖なる乙女の××

笠原久

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第2章 聖なる乙女の騎士

第18話 漫画版とキャラが違いすぎる面々

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「最初の頃は、確かに悪役令嬢っぽい感じではあったな。テストの成績とか課外授業の魔物退治とかで張り合ってきて……最終的に決闘するんだよな、二対二で。んで激戦の末に負けちまって、『それでこそわたくしのライバルですわァー!』とか涙目で言い出す」

「聞いてると、微妙にポンコツ臭がするのは気のせいかしら?」

 デイジーが私から距離をとった。油断のない足運びで、私との間合いを計っている。

「そりゃメインキャラだしな。嫌味なだけのキャラクターじゃねぇよ。どっちかっつーと愛嬌のある人物だぜ? 事あるごとにリリーをライバル視しては世話を焼いたり……『お前、実はリリーのことめっちゃ好きだろ?』って読者に言われる程度には」

 シスルは苦笑いを浮かべ、それから私に目を向けた。

「今のデイジー大好きなお前とは似ても似つかねぇな」

「ふぅん? 漫画の私はリリー大好きだったのね。デイジーは?」

 私は突きをかわした。

「一歩うしろで状況を楽しむクールキャラだな。何かとリリーに突っかかってるお嬢さまを見て、楽しそうにしてたぞ」

「シスル自身は?」

 私はお返しの突きをデイジーにかました。

「あたしはもっとおとなしい系のキャラだ。言葉遣いも女の子っぽくて」

「あなたが一番キャラ違ってない? 現実との落差がすごい」

 シスルは恥ずかしそうにしっぽを揺らし、顔をそらした。

「うるせーな。あたしだってこれでも最初は、漫画のシスルみてぇな『おしとやかな女の子』を目指したんだぜ? けど、うちの一族荒っぽいんだよなぁ……。母ちゃんも姉ちゃんも、近所のガキどもも、みんな山賊みてぇな口調だし」

 シスルは深々とため息をついた。

「まぁとにかくだ。このあと合宿篇、学祭篇、仇討ち篇ってつづくんだよ。最終的にエリュトロン・メラン倒して、前にテメェがけなしたエンディングで終了だ」

「いきなり雑になったわね」

 デイジーが猛攻をかましてきた。勢いは素晴らしい。だが、一撃一撃が粗い。太刀筋が単調で、動きも読みやすかった。

 シスルが、もっとフェイント入れたほうがいいぞ、とアドバイスした。それから私にむかって、

「こっから先はエリュトロン・メラン関係だからな。ぶっちゃけ現実とは関係ないんじゃねぇの? 合宿篇だと、あたしら四人で魔物退治やサバイバル訓練するんだよ。登山中、魔物の大群に襲われて、それがエリュトロン・メランに操られた連中」

 シスルは思い出すように言った。

「ほんで山ん中の妖精の里が危ないから助けてくれ……って言われて防衛戦やって、そこで初めてリリーがエリュトロン・メランと遭遇するんだよな、確か」

 そこまで言って、シスルは苦い顔をした。

「ただこれ実は分身体で、本体は無事っていうオチ。学祭篇でもウェデリアと一緒に出てくるんだけど、やっぱ分身体で本体じゃねぇんだわ」

「確か死んじゃうんだっけ? ウェデリアちゃん」

 デイジーが高く飛び上がり、空中から斬りつけてきた。

「死ぬぞ。赤黒い魔獣に親父さんを殺されて、復讐しようとしたけど返り討ちに遭う。そんで操られて武闘会に出場して……ああ、そういや準決勝でお前に勝ってるぞ、ウェデリア」

「あ、武闘会って漫画にもあるんだ」

 私は円を描くように、降りそそぐデイジーの突きをかわす。

「『学園』だと、踊るほうの舞踏会とか、ミスコンとか、研究発表会とかもあったわよ」

「そういうのもあったぜ。ただ、メインは武闘会だな。あたしら四人全員が参加して、んでリリーが決勝でウェデリアと戦って勝って、去り際に呼び出し食らうんだよ。確か『学園の外れにある廃屋で待つ』って言われて、行ってみたらウェデリアとエリュトロン・メランの分身が一緒にいて、襲われるって流れ」

「そこでウェデリアちゃん死ぬの?」

 私は少しばかり跳び上がって、ちょんとデイジーの頭を小突いた。あう、とデイジーはひるむ。私は風魔法で体を浮かし、空中で木剣を振り始めた。

「死ぬ。回想で赤黒い魔獣に復讐しようとして失敗して……っていう経緯がわかる。でも最後にはエリュトロン・メランの支配から抜け出すんだ。で、リリーをかばって致命傷を受けて、あとを託して死ぬ」

「でも、この世界では生きてるのよね?」

「たぶんなー」

 どこか上の空でシスルは答えた。デイジーが、私の剣を必死にさばきながら、喘ぎ喘ぎ言った。

「なんだか、私が、知っている、エリュトロン……メランより、多芸、っぽい、ですね……? 分身とか、できなかった、はず、なんですが……」

 デイジーの様子を見て、リリーが言った。

「ちょっと休憩を入れようか」

「もう?」

 と言いながら、私は地上に降り立った。
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