67 / 103
第3章 聖なる乙女の英雄
第17話 降伏した敵は殺さない理知的な怪物たち
しおりを挟む
私たちは森の奥に逆戻りした。
そこに建設途中の拠点があって、通信機器もあるという。途中、散開していた魔王軍の魔獣や魔物、それに魔族を回収した。私たちに降伏したという話を聞くと、納得がいかないと一部の魔族や魔獣がごねた。
グリズリー似の魔獣が説得しようとするが、なかなか話がまとまらない。
デイジーが、斬ったほうが早いんじゃないですか? と言ったので、私は反対する魔族や魔獣を一網打尽にした。剣で体を真っ二つに裂き、デイジーが回復する。
反対していた者たちはおとなしくなった。全員、魔王軍を離反すると宣言し、今後は決して人間に危害を加えないと誓った。
私たちはそのまま未完成の拠点に行った。森の一部が切り開かれ、砦が作られていた。完成していないという話だったが、石組みの立派な建物だった。堀と壁もあった。
有事の際は、この壁と堀に沿って結界が展開され、敵の侵入を阻むのだろう。
私たちは通信室に案内された。通信魔法は漢字も使えるはずだった。が、メーちゃんことメーヴィスの通信には、漢字がいっさい使われていなかった。
なにせ内容がこれだ。
――――――――――
まおうぐんやめます めーびす
ついしん かてないからしんりゃくやめたほうがいいよ
――――――――――
「こんな内容でいいのか? 辞表だろ?」
「いえ、これは、さすがに……」
シスルの言葉に、グリズリー似の魔獣は困惑の声を上げるのだった。
「とりあえず、もう送っちまったんで……俺が詳しい報告書を」
「その腕でキーボード打てんのか?」
シスルはいぶかしげに訊いた。魔獣は猿に似た魔物に目を向けた。
「口述筆記です」
というわけで、送られたのが次の内容だ。彼はわざわざ通信文書を私たちに見せてきて、これで問題ないかと律儀にたずねてきたのだった。
――――――――――
挟撃作戦失敗および部隊消滅の報告
艶麗《えんれい》歴五年四月二十六日、プロートス大陸ガンマ帝国南部のピラード大樹海にて、四天王筆頭メーヴィス直属部隊の隊長グラントリーが記す。
本日午前十一時すぎ、魔王討伐の任を受けたアルファ王国の貴族プリムローズ・フリティラリア率いる一党と交戦。部隊は全滅した。
建設途中の砦は占拠され、四天王筆頭のメーヴィスは精神に異常をきたしている。任務の続行は不可能。部隊も事実上の消滅となった。
プリムローズ・フリティラリアの一党に時間停止は通用しない。
また、プリムローズは直属部隊の精鋭二十二名を一太刀で皆殺しにしている。一党のメンバー、デイジー・ロータスは死者蘇生を行なうほどの魔力を有す。
我々は完全に戦意を失った。この戦争は負ける。
プロートス大陸に拠点を築き、そこから聖王国を挟撃する作戦は実行不可能である。砦は破壊される。
新たに部隊を送りこむ前に、プリムローズたちは魔王城へ到着するだろう。
早急に講和し、戦争を終わらせねば手遅れになる。早期終戦を願う。
――――――――――
私たちは砦を破壊した。
私は闇の大魔術を使おうとしたのだが、周辺の被害を考えろとシスルに言われたので、上級魔術に変更した。
足りるかな、と私は不安だったのだが、一発で崩壊した。
思ったより、もろかったようだ。壁のほうも蹴りや拳で適当に壊して、残骸は堀に投げ捨てた。さすがに堀を埋めるだけの量はなかったが、別にいいだろう。
処理を済ませると、私たちは総計で一〇〇を超える魔族、魔獣、魔物を率いて森を出ることになった。
「連れて行くのか?」
シスルは怪訝な顔をしたが、
「行き先は同じだし、別に一緒でもいいんじゃない?」
と私は気楽に言った――が、ここで一つ問題が発生した。私たちは新聞につけ狙われている。魔族や魔獣、魔物を率いてガンマ帝国を移動したら、何を書かれるかわからない。
私たちの目的地は、魔族の隠れ里イプシロンだ。つまり、ここから七〇〇〇キロも北上せねばならない。やっぱり同道するのはまずい……? と迷っていたら、見えなければいいのでは? とデイジーが提案した。
かつてリリーやシスルに見破られた、あの隠密魔法の簡易版だ。
姿を見えなくするだけで、音や匂いまでは消せない。だが、新聞記者やガンマ帝国の人間をごまかすくらいなら、これで十分だろう。
そこに建設途中の拠点があって、通信機器もあるという。途中、散開していた魔王軍の魔獣や魔物、それに魔族を回収した。私たちに降伏したという話を聞くと、納得がいかないと一部の魔族や魔獣がごねた。
グリズリー似の魔獣が説得しようとするが、なかなか話がまとまらない。
デイジーが、斬ったほうが早いんじゃないですか? と言ったので、私は反対する魔族や魔獣を一網打尽にした。剣で体を真っ二つに裂き、デイジーが回復する。
反対していた者たちはおとなしくなった。全員、魔王軍を離反すると宣言し、今後は決して人間に危害を加えないと誓った。
私たちはそのまま未完成の拠点に行った。森の一部が切り開かれ、砦が作られていた。完成していないという話だったが、石組みの立派な建物だった。堀と壁もあった。
有事の際は、この壁と堀に沿って結界が展開され、敵の侵入を阻むのだろう。
私たちは通信室に案内された。通信魔法は漢字も使えるはずだった。が、メーちゃんことメーヴィスの通信には、漢字がいっさい使われていなかった。
なにせ内容がこれだ。
――――――――――
まおうぐんやめます めーびす
ついしん かてないからしんりゃくやめたほうがいいよ
――――――――――
「こんな内容でいいのか? 辞表だろ?」
「いえ、これは、さすがに……」
シスルの言葉に、グリズリー似の魔獣は困惑の声を上げるのだった。
「とりあえず、もう送っちまったんで……俺が詳しい報告書を」
「その腕でキーボード打てんのか?」
シスルはいぶかしげに訊いた。魔獣は猿に似た魔物に目を向けた。
「口述筆記です」
というわけで、送られたのが次の内容だ。彼はわざわざ通信文書を私たちに見せてきて、これで問題ないかと律儀にたずねてきたのだった。
――――――――――
挟撃作戦失敗および部隊消滅の報告
艶麗《えんれい》歴五年四月二十六日、プロートス大陸ガンマ帝国南部のピラード大樹海にて、四天王筆頭メーヴィス直属部隊の隊長グラントリーが記す。
本日午前十一時すぎ、魔王討伐の任を受けたアルファ王国の貴族プリムローズ・フリティラリア率いる一党と交戦。部隊は全滅した。
建設途中の砦は占拠され、四天王筆頭のメーヴィスは精神に異常をきたしている。任務の続行は不可能。部隊も事実上の消滅となった。
プリムローズ・フリティラリアの一党に時間停止は通用しない。
また、プリムローズは直属部隊の精鋭二十二名を一太刀で皆殺しにしている。一党のメンバー、デイジー・ロータスは死者蘇生を行なうほどの魔力を有す。
我々は完全に戦意を失った。この戦争は負ける。
プロートス大陸に拠点を築き、そこから聖王国を挟撃する作戦は実行不可能である。砦は破壊される。
新たに部隊を送りこむ前に、プリムローズたちは魔王城へ到着するだろう。
早急に講和し、戦争を終わらせねば手遅れになる。早期終戦を願う。
――――――――――
私たちは砦を破壊した。
私は闇の大魔術を使おうとしたのだが、周辺の被害を考えろとシスルに言われたので、上級魔術に変更した。
足りるかな、と私は不安だったのだが、一発で崩壊した。
思ったより、もろかったようだ。壁のほうも蹴りや拳で適当に壊して、残骸は堀に投げ捨てた。さすがに堀を埋めるだけの量はなかったが、別にいいだろう。
処理を済ませると、私たちは総計で一〇〇を超える魔族、魔獣、魔物を率いて森を出ることになった。
「連れて行くのか?」
シスルは怪訝な顔をしたが、
「行き先は同じだし、別に一緒でもいいんじゃない?」
と私は気楽に言った――が、ここで一つ問題が発生した。私たちは新聞につけ狙われている。魔族や魔獣、魔物を率いてガンマ帝国を移動したら、何を書かれるかわからない。
私たちの目的地は、魔族の隠れ里イプシロンだ。つまり、ここから七〇〇〇キロも北上せねばならない。やっぱり同道するのはまずい……? と迷っていたら、見えなければいいのでは? とデイジーが提案した。
かつてリリーやシスルに見破られた、あの隠密魔法の簡易版だ。
姿を見えなくするだけで、音や匂いまでは消せない。だが、新聞記者やガンマ帝国の人間をごまかすくらいなら、これで十分だろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる