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第3章 聖なる乙女の英雄
第21話 竜の巣での話し合い
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メソン大陸の玄関口は、メソン大陸の北にある港町イオータだ。
しかし、ラオカはここを無視した。
ゲームどおりなら、イオータからカッパ、ラムダ、ミュー、ニューを経てクシーへ到着するところだが、ラオカのおかげで直接竜の巣へおもむくことができた。
巨大な山脈に、巨大な樹木が寄生するようにいくつも生えている。
樹高は何百メートルもあるだろう。大きな根っこが大地を割るようにあちこちに伸びている。木々の角度はばらばらだった。斜めにかしいでいる巨樹もあれば、まっすぐな大樹もある。
樹木の枝葉が傘のように大きく広がっていて、その下で、羽を休めるようにくつろぐ竜の姿が見えた。遠くからやってくるラオカを見て、竜たちは立ち上がり飛翔した。ゆっくりと近づいてくる。
「長老に会いたい」
ラオカは空中で静止するとそう言った。竜たちは素早く視線を交わしあった。
どうするか迷っている様子だ。まだ若いらしく、体長はおおよそ二十五メートル程度だろう。鱗の色は赤かったり青かったり黄色かったり多種多様だ。
竜たちが決断する前に、別の竜がやってきた。大きさはわからない。人の姿をしていたからだ。白い髪をした壮年の男で、衣服も白かった。
彼の姿を見ると、竜たちは恐縮した様子で頭を垂れた。
「下がっていなさい」
彼は落ち着いた口調で言った。竜たちは元の場所に帰っていったが、私たちを興味深げにちらちらと見ている。小声で何事かしゃべっている。
ただ、遠いので何を話しているのかまではわからなかった。
「このタイミングでやって来るとはな……。ラオカミツハよ、何の用だ? 今さら我々に協力しようというわけでもあるまい」
「紹介だ、長老。以前に言っただろう?」
ラオカは首を動かして、背にいる私たちを示した。長老はうなった。
「例の、プリムローズ・フリティラリアとデイジー・ロータスか……。もう二人、増えているようだが」
「仲間のリリー・リリウムとシスル・ナスターシャムだ。プリムほどではないが、こやつらも手練れよ」
長老は私たちを一瞥した。
「我々に何を求める?」
「こやつらの邪魔をするな、という話だ。魔王はプリムたちで討伐する。お主たちは黙って見ていればよい」
「ラオカさま、実はその件で少々問題が」
とデイジーが口をはさみ、メーちゃんとの諍いで知った情報を語った。
「なんだ、魔王討伐せんのか? 女王直々の命令なのであろう?」
「それはそうなんですけれど――」
実はあのあと、マットソン商会を通じてアルファ王国に事態を告げてあるのだ。どういう結論を出すつもりか、まだ私たちは聞いていない。
だが、魔王を討伐しない方向で動きたい、という意向は伝えてある。
「今のところは女王陛下の英断待ちですね」
「お主らの意向を無視したらどうするつもりだ?」
「それは……」
デイジーが私に目を向けた。
「そのときになったら考えましょう」
「相変わらず出たとこ勝負だな、お前らは……」
シスルの言葉に、私は唇を尖らせた。
「何よ、じゃあ妙案があるっていうの?」
「ないけどさ……いや、別にいいんじゃねぇの? あたしだって文句があるわけじゃねぇよ。実際、どうするつもりかなんてわかんねぇんだし、今から心配してもな」
「魔王ではなく、魔王軍を止める方向で動くわけか」
私たちがうなずくと、ラオカは顔を長老に向けた。
「そういうわけだ。少し訂正しよう。魔王軍はこやつらが地上から追い払う。だから黙ってその様子を見ているがいい」
「生憎だが、私の一存では――」
そのとき、翼をはためかせる激しい音とともに、大きな竜が高空から舞い降りてきた。見れば、私たちがいる場所のはるか上空に、何十という竜が集まってきていた。
降下してきたのは、体長が五〇メートルに達する個体だ。長老の隣で翼をはためかせ、私たちを鋭い目でにらみつけている。
「また貴様か、ラオカミツハ。魔王を恐れた臆病者め」
吐き捨てるように竜は言った。だが、ラオカは楽しそうに笑って、
「しばらくぶりだな」
「誰ですか?」
私が訊くと、ラオカは竜に目を向けながら言った。
「『人の力など不要! 誇り高きドラゴンは誰の手も借りん!』などと偉そうなことを言っておいて、未だに魔王を倒せていない哀れな女だ」
「あ、メスなんですね」
デイジーの言葉に、ラオカは一瞬目を丸くしてから、本当におかしそうに大笑いした。
しかし、ラオカはここを無視した。
ゲームどおりなら、イオータからカッパ、ラムダ、ミュー、ニューを経てクシーへ到着するところだが、ラオカのおかげで直接竜の巣へおもむくことができた。
巨大な山脈に、巨大な樹木が寄生するようにいくつも生えている。
樹高は何百メートルもあるだろう。大きな根っこが大地を割るようにあちこちに伸びている。木々の角度はばらばらだった。斜めにかしいでいる巨樹もあれば、まっすぐな大樹もある。
樹木の枝葉が傘のように大きく広がっていて、その下で、羽を休めるようにくつろぐ竜の姿が見えた。遠くからやってくるラオカを見て、竜たちは立ち上がり飛翔した。ゆっくりと近づいてくる。
「長老に会いたい」
ラオカは空中で静止するとそう言った。竜たちは素早く視線を交わしあった。
どうするか迷っている様子だ。まだ若いらしく、体長はおおよそ二十五メートル程度だろう。鱗の色は赤かったり青かったり黄色かったり多種多様だ。
竜たちが決断する前に、別の竜がやってきた。大きさはわからない。人の姿をしていたからだ。白い髪をした壮年の男で、衣服も白かった。
彼の姿を見ると、竜たちは恐縮した様子で頭を垂れた。
「下がっていなさい」
彼は落ち着いた口調で言った。竜たちは元の場所に帰っていったが、私たちを興味深げにちらちらと見ている。小声で何事かしゃべっている。
ただ、遠いので何を話しているのかまではわからなかった。
「このタイミングでやって来るとはな……。ラオカミツハよ、何の用だ? 今さら我々に協力しようというわけでもあるまい」
「紹介だ、長老。以前に言っただろう?」
ラオカは首を動かして、背にいる私たちを示した。長老はうなった。
「例の、プリムローズ・フリティラリアとデイジー・ロータスか……。もう二人、増えているようだが」
「仲間のリリー・リリウムとシスル・ナスターシャムだ。プリムほどではないが、こやつらも手練れよ」
長老は私たちを一瞥した。
「我々に何を求める?」
「こやつらの邪魔をするな、という話だ。魔王はプリムたちで討伐する。お主たちは黙って見ていればよい」
「ラオカさま、実はその件で少々問題が」
とデイジーが口をはさみ、メーちゃんとの諍いで知った情報を語った。
「なんだ、魔王討伐せんのか? 女王直々の命令なのであろう?」
「それはそうなんですけれど――」
実はあのあと、マットソン商会を通じてアルファ王国に事態を告げてあるのだ。どういう結論を出すつもりか、まだ私たちは聞いていない。
だが、魔王を討伐しない方向で動きたい、という意向は伝えてある。
「今のところは女王陛下の英断待ちですね」
「お主らの意向を無視したらどうするつもりだ?」
「それは……」
デイジーが私に目を向けた。
「そのときになったら考えましょう」
「相変わらず出たとこ勝負だな、お前らは……」
シスルの言葉に、私は唇を尖らせた。
「何よ、じゃあ妙案があるっていうの?」
「ないけどさ……いや、別にいいんじゃねぇの? あたしだって文句があるわけじゃねぇよ。実際、どうするつもりかなんてわかんねぇんだし、今から心配してもな」
「魔王ではなく、魔王軍を止める方向で動くわけか」
私たちがうなずくと、ラオカは顔を長老に向けた。
「そういうわけだ。少し訂正しよう。魔王軍はこやつらが地上から追い払う。だから黙ってその様子を見ているがいい」
「生憎だが、私の一存では――」
そのとき、翼をはためかせる激しい音とともに、大きな竜が高空から舞い降りてきた。見れば、私たちがいる場所のはるか上空に、何十という竜が集まってきていた。
降下してきたのは、体長が五〇メートルに達する個体だ。長老の隣で翼をはためかせ、私たちを鋭い目でにらみつけている。
「また貴様か、ラオカミツハ。魔王を恐れた臆病者め」
吐き捨てるように竜は言った。だが、ラオカは楽しそうに笑って、
「しばらくぶりだな」
「誰ですか?」
私が訊くと、ラオカは竜に目を向けながら言った。
「『人の力など不要! 誇り高きドラゴンは誰の手も借りん!』などと偉そうなことを言っておいて、未だに魔王を倒せていない哀れな女だ」
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