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第3章 聖なる乙女の英雄
第23話 竜の虐殺(殺したが死んでいない)
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「一思いにやってしまったせいで、いまいち脅威が伝わらなかったようだな」
ラオカが言った。それから彼女は高空を見上げた。
「上の奴らは納得したと思うが……」
「どうしたらいいんです?」
うーむ、とラオカはうなった。
「上の奴ら……ちょっと皆殺しにしてみるか? わかりやすく、魔法禁止で」
「魔法使わないと飛べないんですが」
「では飛行魔法だけ。あとは剣で斬りまくれば……」
と言ってから、ラオカは混乱する目の前の竜を見た。
「あやつも納得するのではないか?」
「そうですかね?」
私は怪しんだ。ラオカは意味ありげな笑みで、シスルとリリーに目を向けた。シスルは面倒臭そうに手としっぽを振った。
「ここまでやったら、最後までやっちまっていいんじゃねぇの?」
「つまり……割とヤバいことやってるってことよね?」
私は深刻に言った。
「最初の時点でヤバいことやってるから安心しろ」
最初? と私は眉根を寄せた。
「闇の大魔術を使った時点でアレだから。もうやっちまえよ。つーかこういう場合、普通は竜の助力を得て――っていうが定番の展開のはずなんだけどなぁ」
もうコレ絶対無理だろ……とシスルは嘆きと面倒くささが入り混じったような口調で言うのだった。私は釈然としない思いにかられながらも、
「わかったわ。じゃ、とりあえず……」
と答え、弾丸のように上空へ跳躍した。
まずは一振り。
抜剣して手近にいた二体の竜を斬りつけた。剣から放たれた衝撃波で、竜の体が真っ二つになる。思いのほか、ドラゴンの皮膚はやわらかいようだ。
そういえば以前、ドラゴン肉がどうこうと言われたことがあった。この分だと肉質もやわらかく、とてもおいしいのではないか。
私は空中を飛翔した。おおよそ、竜たちは半径一キロの範囲に散らばっていた。私は空中を蹴るように飛び、剣を振りまわした。刃が振るわれるたびに竜の肉が裂け、頭や胴体が吹き飛び、地に落ちていく。
斬られているあいだ、竜たちは悲鳴を上げなかった。
味方がやられたと、自覚する暇さえなかったようだ。彼らが絶叫を上げるのは、すべての竜が斬り伏せられ、デイジーによって回復したあとだ。
墜落していく状況を見て、ようやく自分たちの身に起きたことを理解したらしい。
最初の絶叫は下から聞こえた。およそ一キロほど下方に、ラオカたちがいる。叫び声を上げているのは、闇魔術でやられた最初の竜だ。
彼女は口と目を大きく開けながら、全滅した仲間たちを見ていた。
デイジーの治癒魔法が飛び、落下しながら竜たちは再生する。元通りに復元されるが、すぐさま体勢を立て直すことはできないらしい。
最初の竜と違い、そのまま山脈に墜落してしまった。轟音と地響きが何度も鳴り響く。
私はゆっくりと降りて、ラオカの隣に来た。最初の竜は、愕然とした表情で私を見ていた。少しずつ空中で後じさった。
長老より前にいたのが、どんどん後ろに行ってしまい、高度も落ちていく。
「ちょっと刺激が強すぎたか?」
ラオカが珍しく、にやにや笑いながら言った。長老はため息をついた。
「人から逃げるようになるぞ。誇り高き竜が」
「こやつらは特別だ。それに、身のほどをわきまえぬといずれ殺されるぞ? 調子に乗ったドラゴンが人に討伐されるなど、珍しい話でもあるまい」
長老は大きく息をついただけで答えなかった。彼はくるりと背を向けると、去っていった。去り際に、まるで独り言のようにつぶやいた。
「行きなさい。君たちの邪魔をする竜は、もういない……」
最初の竜も長老について行った。
いや、正確には長老よりも早く、山脈に戻って巨樹の陰へと消えていった。墜落した数々の竜も姿を消した。水を打ったように山脈は静まり返った。
生き物はすべて、じっと身をひそめるかのように隠れている。
「脅かしすぎたか」
ラオカはぼやくように言うと、デイジーたちを乗せたまま反転した。
「いいんですか、放っておいて?」
私が訊くと、ラオカは自嘲するように笑んだ。
「仕方あるまい。もともと仲がよかったわけでもなし……とりあえず、このまま聖王国の聖都オミクロンまで行くか」
「あ、ちょっと待ってくれ」
シスルが手を上げた。
「その前に、隠れ里ニューに行きてぇんだけど」
「ああ、ウェデリアの父親が生きてるか、確かめるんですね?」
デイジーの言葉に、シスルはうなずいた。
「やっぱ気になっちゃってさ。ダメか?」
私とラオカは顔を見合わせた。
「我は別に構わんが……どこにあるのだ?」
「南ですよ」
デイジーが答えた。
「大陸南東部にあるんです」
「では、そちらに寄り道してから聖地へ向かうか」
「聖剣を取りに行く必要、あるんですか?」
私はラオカの背に戻りながら訊いた。
「一応、聖王国の連中に話を通しておいたほうがよかろう。聖剣は――まぁ、お主たちの好きにすればよい。あってもなくても一緒だ」
私たちは魔族の隠れ里ニューに向かった。
ラオカが言った。それから彼女は高空を見上げた。
「上の奴らは納得したと思うが……」
「どうしたらいいんです?」
うーむ、とラオカはうなった。
「上の奴ら……ちょっと皆殺しにしてみるか? わかりやすく、魔法禁止で」
「魔法使わないと飛べないんですが」
「では飛行魔法だけ。あとは剣で斬りまくれば……」
と言ってから、ラオカは混乱する目の前の竜を見た。
「あやつも納得するのではないか?」
「そうですかね?」
私は怪しんだ。ラオカは意味ありげな笑みで、シスルとリリーに目を向けた。シスルは面倒臭そうに手としっぽを振った。
「ここまでやったら、最後までやっちまっていいんじゃねぇの?」
「つまり……割とヤバいことやってるってことよね?」
私は深刻に言った。
「最初の時点でヤバいことやってるから安心しろ」
最初? と私は眉根を寄せた。
「闇の大魔術を使った時点でアレだから。もうやっちまえよ。つーかこういう場合、普通は竜の助力を得て――っていうが定番の展開のはずなんだけどなぁ」
もうコレ絶対無理だろ……とシスルは嘆きと面倒くささが入り混じったような口調で言うのだった。私は釈然としない思いにかられながらも、
「わかったわ。じゃ、とりあえず……」
と答え、弾丸のように上空へ跳躍した。
まずは一振り。
抜剣して手近にいた二体の竜を斬りつけた。剣から放たれた衝撃波で、竜の体が真っ二つになる。思いのほか、ドラゴンの皮膚はやわらかいようだ。
そういえば以前、ドラゴン肉がどうこうと言われたことがあった。この分だと肉質もやわらかく、とてもおいしいのではないか。
私は空中を飛翔した。おおよそ、竜たちは半径一キロの範囲に散らばっていた。私は空中を蹴るように飛び、剣を振りまわした。刃が振るわれるたびに竜の肉が裂け、頭や胴体が吹き飛び、地に落ちていく。
斬られているあいだ、竜たちは悲鳴を上げなかった。
味方がやられたと、自覚する暇さえなかったようだ。彼らが絶叫を上げるのは、すべての竜が斬り伏せられ、デイジーによって回復したあとだ。
墜落していく状況を見て、ようやく自分たちの身に起きたことを理解したらしい。
最初の絶叫は下から聞こえた。およそ一キロほど下方に、ラオカたちがいる。叫び声を上げているのは、闇魔術でやられた最初の竜だ。
彼女は口と目を大きく開けながら、全滅した仲間たちを見ていた。
デイジーの治癒魔法が飛び、落下しながら竜たちは再生する。元通りに復元されるが、すぐさま体勢を立て直すことはできないらしい。
最初の竜と違い、そのまま山脈に墜落してしまった。轟音と地響きが何度も鳴り響く。
私はゆっくりと降りて、ラオカの隣に来た。最初の竜は、愕然とした表情で私を見ていた。少しずつ空中で後じさった。
長老より前にいたのが、どんどん後ろに行ってしまい、高度も落ちていく。
「ちょっと刺激が強すぎたか?」
ラオカが珍しく、にやにや笑いながら言った。長老はため息をついた。
「人から逃げるようになるぞ。誇り高き竜が」
「こやつらは特別だ。それに、身のほどをわきまえぬといずれ殺されるぞ? 調子に乗ったドラゴンが人に討伐されるなど、珍しい話でもあるまい」
長老は大きく息をついただけで答えなかった。彼はくるりと背を向けると、去っていった。去り際に、まるで独り言のようにつぶやいた。
「行きなさい。君たちの邪魔をする竜は、もういない……」
最初の竜も長老について行った。
いや、正確には長老よりも早く、山脈に戻って巨樹の陰へと消えていった。墜落した数々の竜も姿を消した。水を打ったように山脈は静まり返った。
生き物はすべて、じっと身をひそめるかのように隠れている。
「脅かしすぎたか」
ラオカはぼやくように言うと、デイジーたちを乗せたまま反転した。
「いいんですか、放っておいて?」
私が訊くと、ラオカは自嘲するように笑んだ。
「仕方あるまい。もともと仲がよかったわけでもなし……とりあえず、このまま聖王国の聖都オミクロンまで行くか」
「あ、ちょっと待ってくれ」
シスルが手を上げた。
「その前に、隠れ里ニューに行きてぇんだけど」
「ああ、ウェデリアの父親が生きてるか、確かめるんですね?」
デイジーの言葉に、シスルはうなずいた。
「やっぱ気になっちゃってさ。ダメか?」
私とラオカは顔を見合わせた。
「我は別に構わんが……どこにあるのだ?」
「南ですよ」
デイジーが答えた。
「大陸南東部にあるんです」
「では、そちらに寄り道してから聖地へ向かうか」
「聖剣を取りに行く必要、あるんですか?」
私はラオカの背に戻りながら訊いた。
「一応、聖王国の連中に話を通しておいたほうがよかろう。聖剣は――まぁ、お主たちの好きにすればよい。あってもなくても一緒だ」
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