聖なる乙女の××

笠原久

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第4章 聖なる乙女の覇者

第11話 しれっと死者蘇生の秘術を身につけたデイジー

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「今だからはっきり言いますけど、私、ホントは魔王討伐だって行きたくなかったんですからね! なんか断れない雰囲気に呑まれて、思わずうなずいちゃいましたけど、本当は学園でまったり過ごしたかったんですからね!」

「わかっているさ。だから今は、無理に前線に出ろとは言わないだろう? 私に任せてくれたまえ。必ず君を世界の王に据えてみせよう!」

「別に私、なりたくないですけどね! マーガレットさまがどうしても、って頼むからサインしちゃっただけで!」

 私が拗ねたように言うと、閣下は楽しげに笑った。

「今さら後悔しても遅い。世界を掌握するにはわかりやすいシンボルが必要なのだ! 恨むなら、自らの圧倒的な才覚と、それを目覚めさせた不断の努力を呪うことだな! 君が才能に溺れた怠け者なら、おそらくこうはなっていなかっただろう!」

「ほんと、私の行動って全部裏目に出てますね」

 私は肩を落とした。

 ふと四天王の一人が、意外そうな顔をしていることに気づいた。彼女は私と閣下を何度も見比べて、きょとんとしている。閣下が薄く笑んだ。

「だから言っただろう? 過剰に恐れる必要はないと。さて、いい加減、願いを言ったらどうかね?」

 私は怪訝に思って訊いた。

「なにかあるんですか?」

 四天王の彼女は、緊張した面持ちで姿勢を正した。

「そ、その……成果を出せていないのに、おこがましいと思われるかもしれませんが、復活の秘術を施していただきたく……」

「なにそれ?」

「蘇生だよ」

 閣下はにこやかに微笑んだ。

「いつもやっているだろう? 思いのほか魔王軍の兵士たちがやられてしまってね。それにせっかくだから敵兵も生き返らせてほしいんだ。敵討ちだなんだで揉めるのは面倒だからね」

「それは私じゃなくて、デイジー案件じゃないですか」

「そうだな。そしてデイジーの主は君だ、プリム陛下。彼女はおそらく、君の頼みでなければ動かない」

 デイジーがぼやくように言った。

「死者蘇生ですか……。アレは死ぬ前に治してるだけだから、無理な気がしますが」

「そ、そんな……!」

 四天王の女は悲嘆に暮れた様子だ。私は小さく息をついた。

「肉体の再生はともかく、どこかへ消えた魂を追跡して呼び戻すことってできるの?」

 デイジーを見ると、彼女は首をかしげた。

「やったことないからわからないですね。とりあえず、ゆかりの品でもあれば……」

「試してみましょうか」

 こうして、デイジーは死者蘇生の秘術を身につけた。

「なんでさらっと成功させてんだよお前!?」

 しっぽの毛を逆立ててシスルが叫んだ。

「普通は何回か失敗するとか――つーか、やっぱ死者蘇生できるんじゃねぇか、お前!」

「挑戦したことないから、できるって知らなかったんですよ」

「つか、どういう理窟なんだよ!? 死者って死んでるじゃん!」

「当たり前じゃないですか」

「普段やってるアレは、まぁ死ぬ前に治してると無理やり納得してたけど、これ明らかに死んでから治してるじゃん! どういうこと!?」

「遺髪とか遺品とかをもとに、魂を召喚します。肉体を再生して魂を定着。終わり」

 デイジーは蘇生魔法を使いながら言った。

 魔族の遺髪に、デイジーのすさまじい魔力が込められる。髪は風にそよぐように浮かび上がり、そこへ魂がまとわりついた。デイジーの強烈な魔力によって、魂が靄のようにただよっているのがわかる。

 そして、髪と魂が混ざり合って肉体を形成する。蘇生が完了した。

「思った以上に簡単でしたね」

 デイジーは流れ作業で蘇生を行なっていた。よどみなくリズムよく、魔族や魔獣や人間を生き返らせていく。ただし、たまに失敗する。

 シスルが頬をひくつかせながら訊いた。

「なんでダメな場合があるんだ?」

「もう転生してるからですね。無理やり魂だけ召喚すると、たぶん死にます」

「じゃあ肉体ごと召喚したら?」

 私の言葉にシスルが目をむいた。

「いや、なに言ってんの!?」

「転生してるなら、私たちみたいに前世の知識を持ってるかもしれないでしょ? 人格が違うから、協力する気ない可能性もあるけれど」

「いやいやいや! 仮に転生してたら赤ん坊か、下手したら胎児――!」

 シスルがそう言いかけるが、デイジーはお構いなしで魔力を込めた。肉体ごと召喚する方法だと、必要な力も大きいらしい。

 突風が巻き起こり、閃光が辺り一面を照らした。爆発音が響き渡って、煙が舞う。

 シスルが大声で言った。

「話聞けよ! いやお前、面白そうだからって聞いた上で無視しやがったな!?」

 煙が晴れると、十歳くらいの少女が立っていた。日本人っぽい見た目だ。彼女はびっくりした様子で、きょろきょろとまわりに目を向けた。
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