聖なる乙女の××

笠原久

文字の大きさ
91 / 103
第4章 聖なる乙女の覇者

第10話 野心家マーガレット・ハイアシンス

しおりを挟む
 私はやることがなかった。

 いつもデイジー、シスル、リリー、さらにラオカとマリーゴールドを加えた六人で行動していた。適当に訓練したり、駄弁ったり、観光に行ったり、わりと自由に行動していた。

 私たちはのんびりしていたが、メソン大陸各地は騒がしかった。

 聖騎士による叛乱が起きていたからだ。当然のように魔王軍が鎮圧に出向く。しかし、成果はかんばしくない。思った以上に苦戦していた。

 で、ある日突然、四天王の一人が部下を引き連れ、私のところへ言いわけにやってきた。昼過ぎで、太陽が少しばかりかたむき始めた頃のことだ。

 私たちは聖都の城にいた。中庭の東屋で、お茶を飲んでくつろいでいた。マーガレット閣下とウェデリアも、四天王と一緒にやってきた。

「まことに申しわけございません!」

 と彼女は頭を下げるのだった。なにが? と思っていると、閣下が補足した。

「想像以上に時間がかかっているからな。皇帝陛下がお怒りではないかと恐れているわけだ。大陸ごと消し炭にするのではないかと……」

「私、どういうイメージ持たれてるんですか!?」

「聖王国の切り札、大規模儀式魔術をさらっと相殺したせいで、必要以上に恐れられているようだな! まぁ些細なことだが!」

「私のイメージを改善してくださいよ!?」

「無理だな。すでに『暴君』という印象が強くなっている」

「そんな……。一般人相手に大暴れしたわけでもないのに……。というか、それ統治者としては結構まずいんじゃ……」

 マーガレット閣下は愉快そうに笑った。

「案ずるな。あくまでも『気に入らないことがあると、相手を殺して蘇生する』というだけで、統治そのものはそれなりに評価されている……怒らせると、死ぬよりひどい目に遭うと思われているだけでな!」

「結構致命的!」

「しかし! 聖騎士を皆殺しにした上で蘇生したのは事実だ。なにより魔王軍がプリム陛下を恐れておとなしくしているという事実! それが恐怖感を煽っているのだよ!」

 閣下は高らかに笑った。

「私としては別に問題ないから一向にかまわない! 畏敬の念と恐怖は紙一重だ。プリムローズ・フリティラリアを雲の上の存在だと思ってくれるならそれでよし!」

「あんまりよくないんですけど……! 本人的には!」

 私はそう答えるが、柳に風だ。

「案ずるな。重要なのは民の生活だ。存命当時、いかに暴君と呼ばれていようと、善政を敷いていれば後世の歴史できちんと評価される」

「生きているあいだは暴君確定なんですか!?」

「仕方がない……仕方がないのだよ陛下」

 閣下は悲しげな表情で首を横に振った。

「優れた者は民を導くため、上に立つ義務がある。結果的に恐怖を抱かれようと、国の安寧のためにはやむを得ないのだ。我々が行なう世界制覇と同じこと! なぜなら!」

 彼女は力強く拳を振り上げた。

「プリムローズ・フリティラリアを『王』に据え、私が『宰相』として辣腕を振るう! そのほうがみんな幸せだから! 世界のため、民衆のため、人々の暮らしをより良いものにするために、我々は前に進まなければならない! それに……」

 ふふ、と彼女は実に楽しそうに笑った。

「今でこそ侵略の恐怖で皆、目が曇っているが……歴史という武器は勝者に味方する! 長い時間が経てば経つほど、成し遂げた偉業が凄まじければ凄まじいほど、人々の尊崇の念は強まるのだ!」

 狂気すら感じさせるような演説口調で、閣下は言った。

「そして、偉人であればあるほど、人々は『意外なお茶目エピソード』を喜ぶ。後世の人々は皆、プリムローズ・フリティラリアが愛嬌のあるいい王様だったと理解するだろう。ちょっと色々常識知らずで押しに弱くて、手段が苛烈なだけのな!」

 シスルが口をはさんだ。

「その手段の過激さが問題なんだよなぁ……」

「けなされている気がする! ものすごく!」

 しかし二人とも答えなかった。閣下が言った。

「とはいえ、そのような未来を作るには善政が必要だ。統治自体はしっかりやらねばならない。心配するな。我々アルファ王国が世界を統べる日は近いぞ!」

 閣下は見るからに邪悪な笑みを浮かべた。私はビスケットを頬張りながら言った。

「マーガレットさまって意外と野心家ですよねー。というか、しれっとアルファ王国って言っちゃってるし……」

 閣下は笑った。

「プリム陛下は逆だな! 野心がなく、権力にも関心がない! それほどの力があるなら、自ら前線に出向き、叛逆者をことごとく打ち破って兵を鼓舞! 人民を心酔させることも可能だろうに、まったく前に出ようとしない!」

 閣下は手で周囲の風景を示しながら言った。

「今もこうして中庭でのんびり過ごすことに無上の喜びを感じている!」

 私は大きくため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...