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国軍尉官期
7 アリアは〇〇です
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「初めまして、騎士様方。私は華ノ国のアリア・ドメージュですわ。今回は護衛のほど、よろしくお願いいたしますね」
護衛任務初日。光の当たり方によっては茶色にも見える、濃い赤色の髪をツインテールにした令嬢が挨拶をする。
それに合わせて、私もにこやかに彼女の手を取った。
「護衛隊の責任者のレミーと申します。よろしくお願いいたしますね、お姫様。私共は軍人であり、騎士のような華やかさはありませんが、腕は騎士にも負けぬと自負しております。安心して観光を楽しまれてください」
「ふふっ、あなたのように綺麗な人がそのような謙遜を言うと、嫌味に聞こえてしまうわね」
「お褒めいただき、光栄です」
こちらも相手も、今のところは互いに隙を見せずに微笑みあう。
察しの良い隊員以外は皆、ただただ目を輝かせてこちらを見ていた。
おそらく、華ノ国の騎士と比べて豪ノ国の軍人は個々の身体能力は高いが、こういう会話の裏の部分を察することができる人が少ない。
……うん、脳筋だね。嫌いではないけど。
ただの観光客であるアリアにわざわざ軍人を付けるのは、彼女が今、華ノ国で重要な立ち位置にあるからに他ならない。
アリアは伯爵令嬢ではあるが、彼女の母親は元王女だった。現国王には子供が2人しかおらず、王家の血を引くアリアにも王位継承権がある。
さらに、現国王が10代の頃に前王が病に伏せり、貴族達の覇権争いが激化したことによって、現王の兄弟はほとんどが亡くなっている。
残ったのは現王以外に姫達だけで、第一王女の娘であるアリアの王位継承権は、伯爵家に嫁いだ王女の娘としてはあり得ないほどに高かったのだ。
「そりゃ、他国に出かけたときに原因不明の死を迎えてほしいと思う馬鹿もいるか……」
私が呟くと、背後から人の気配がした。
「豪ノ国の方は存外、こちらの国の事情にも詳しくていらっしゃるのね?」
現れたのはアリアで、先ほどまで私が気づけなかったのは、おそらく魔法によるものだろうが、下手な魔法では気配は消せない。
というか、今は彼女は他の女性軍人に付き従われて観光をしているはずで、ここは軍人しかいない隊舎だ。
私は彼女に対する警戒を強めた。
「この国の軍の機密保持能力は高いんですよ。尉官なんかにこんな情報は出回りませんし、上からの情報ではありません。安心していただいて結構ですよ」
「そうですか。では『ホリヴァル』という言葉はご存じ?」
「ああ、なるほど」
その言葉を聞いたとたん、脱力する。
まだ完全に警戒を解くことは無いが、彼女の魔法の能力には納得がいった。
「その様子では、知っているようね」
得意げな彼女に、微笑むことで答える。
「それでも、私を信用するには足りないと?」
その質問にも、笑みを深めるだけで返事はしない。
相手の目的も分からないのに、他国の親しくもない令嬢相手に「信用できません」なんて言える訳がなかった。
するとアリアは。
「素晴らしい!」
そう言って、嬉しそうに笑った。
護衛任務初日。光の当たり方によっては茶色にも見える、濃い赤色の髪をツインテールにした令嬢が挨拶をする。
それに合わせて、私もにこやかに彼女の手を取った。
「護衛隊の責任者のレミーと申します。よろしくお願いいたしますね、お姫様。私共は軍人であり、騎士のような華やかさはありませんが、腕は騎士にも負けぬと自負しております。安心して観光を楽しまれてください」
「ふふっ、あなたのように綺麗な人がそのような謙遜を言うと、嫌味に聞こえてしまうわね」
「お褒めいただき、光栄です」
こちらも相手も、今のところは互いに隙を見せずに微笑みあう。
察しの良い隊員以外は皆、ただただ目を輝かせてこちらを見ていた。
おそらく、華ノ国の騎士と比べて豪ノ国の軍人は個々の身体能力は高いが、こういう会話の裏の部分を察することができる人が少ない。
……うん、脳筋だね。嫌いではないけど。
ただの観光客であるアリアにわざわざ軍人を付けるのは、彼女が今、華ノ国で重要な立ち位置にあるからに他ならない。
アリアは伯爵令嬢ではあるが、彼女の母親は元王女だった。現国王には子供が2人しかおらず、王家の血を引くアリアにも王位継承権がある。
さらに、現国王が10代の頃に前王が病に伏せり、貴族達の覇権争いが激化したことによって、現王の兄弟はほとんどが亡くなっている。
残ったのは現王以外に姫達だけで、第一王女の娘であるアリアの王位継承権は、伯爵家に嫁いだ王女の娘としてはあり得ないほどに高かったのだ。
「そりゃ、他国に出かけたときに原因不明の死を迎えてほしいと思う馬鹿もいるか……」
私が呟くと、背後から人の気配がした。
「豪ノ国の方は存外、こちらの国の事情にも詳しくていらっしゃるのね?」
現れたのはアリアで、先ほどまで私が気づけなかったのは、おそらく魔法によるものだろうが、下手な魔法では気配は消せない。
というか、今は彼女は他の女性軍人に付き従われて観光をしているはずで、ここは軍人しかいない隊舎だ。
私は彼女に対する警戒を強めた。
「この国の軍の機密保持能力は高いんですよ。尉官なんかにこんな情報は出回りませんし、上からの情報ではありません。安心していただいて結構ですよ」
「そうですか。では『ホリヴァル』という言葉はご存じ?」
「ああ、なるほど」
その言葉を聞いたとたん、脱力する。
まだ完全に警戒を解くことは無いが、彼女の魔法の能力には納得がいった。
「その様子では、知っているようね」
得意げな彼女に、微笑むことで答える。
「それでも、私を信用するには足りないと?」
その質問にも、笑みを深めるだけで返事はしない。
相手の目的も分からないのに、他国の親しくもない令嬢相手に「信用できません」なんて言える訳がなかった。
するとアリアは。
「素晴らしい!」
そう言って、嬉しそうに笑った。
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