元・宿屋の娘は美人冒険者の恋路を応援したい

紫野

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宿屋の娘は美男美女に付き合ってほしい

15 平和……じゃなかった

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「平和ですねぇ……」
「領都を出てすぐに危険が降りかかってたら、行商人はこの領に来ねえだろ」

 移動用の貸馬車に揺られて一時間ほどが経つ。
 打ち合わせの次の日、出発の準備ができた私たちはドーマさんと一緒に町を出た。
 向かう先は私達がいた町、ベスター領領都から見ると北にある精霊の森だ。魔物が多く住むらしく、一般の人はほとんど出入りしない場所らしい。

 任務は行き帰りの護衛も含むため、私以外のパーティーメンバーは馬で馬車の横についている。私は乗馬ができないので、ドーマさんと一緒に馬車の中だ。
 ちなみに、ドーマさんは護衛対象だから馬車の中にいるだけで、馬に乗れないのは私だけだ。

 ドーマさんは、初対面の時が嘘のように紳士的な態度だ。時々話しかけてくれるので、間が持たなかったり、気まずくなったりしていない。


「君は、冒険者になり立てかい?」
「は、はい!その、これが初依頼です……」

 上級冒険者の指定依頼にぺーぺーの娘がついてきたのだ。自分の身くらいは確実に守れるというお墨付きはパーティーメンバー皆から貰ったけれど、なんだか申し訳なくなる。

「何をそんなに落ち込んでいるんだ?」
「私は、身を守ることはできても戦力にはならないので……」
「ほう?」

 私の答えに片眉を上げるドーマさんが口を開いたところで、馬車の外から声がかかった。

「もうすぐハジマリの村です」
「あ、はい!了解です!」

 外から声をかけるテオさんに返事をして、馬車の中で下ろしていた荷物を持ち直す。
 始まりの村の北側にある精霊の森は馬車が入れるような場所ではないため、ここからは徒歩での移動になる。

「マリア君は、今外にいる仲間がお世辞の評価を君に付けると思うかい?」
「へっ?……いいえ?」
「それなら信じても良いのではないか?自分の能力ではなく、仲間からの評価を。そして裏切らないようにすれば良い」

 渋い紳士は、馬車から降りる直前にそう言って、馬車から降りる私をエスコートしてくれた。

「わわっ、護衛風情が申し訳ないです」
「良いんだよ。僕には君くらいの娘がいるから、娘と話しているみたいで嬉しいんだ」
「そうですか。ありがとうございます。今度は私がしっかりお守りしますね!」
「よろしく頼んだよ」



「平和ですねぇ……」

 森に入って30分は歩いているが、危険な魔物が出てくる気配は一向に無い。
 ゲームでも初期に出てきた可愛らしい魔物を見かけて近づけば、全力で逃げられるし、そのおかげで戦ったりもしていない。

「入ってすぐは、こちらが手を出さなかったら襲ってこないような臆病な魔物しかいないからね」
「ああ、奥に行くと危険な魔物が出てくるんですよね」
「ああほら、あの大木を超えるとがらっと雰囲気が変わるのよ。そこから先は気が抜けないわね」
「り、了解っ!」
「そうそう、戦闘になったら判断は一瞬だし、さん付けしなくても良いように練習しておいたら?」
「う、人を呼び捨てすることがないもので……」
「じゃあ、私だけでもそうしてみて。ほら、練習練習!」
「分かりました、リリー……変じゃないですか?」
「変じゃない、変じゃない」

 森に入ってからの配置は、先頭にテオさん、そこから少し離れてリリーさ……リリーとドーマさんと私の三人、殿はラスターさんだ。
 必然的に声をかける相手はリリーとドーマさんになる。


 和やかな雰囲気の中、リリーが指さした大木の下に辿り着く。

「大っきいですねー」
「私も、こんなに近くに来たのは初めてだわ」
「この大木がハジマリの村を護っていると言われているんだよ」
「ここだったら魔物が襲ってくることはないから、野営場所はここだね」
「じゃあ用意するか」

 てきぱきとした3人に教えてもらいながら、野営の用意をする。
 その日は何事もなく、「明日は体力勝負なんだから、さっさと寝ろ」というラスターさんの言葉に従い、さっさと就寝した。
 ちぇっ。リリーと恋バナしたかったのに。



「ここから先は要注意だよ。皆、準備はできてるね?」
「おう」
「ええ」
「はい!」

 次の日。準備を終えると、テオさんの声かけに揃って返事をする。

「よし、行こうか」

 そうして危険地帯に足を踏み入れて30秒後……

「来てるね、五匹。狼系かな?戦闘準備はできてるね?」
「当然だ」
「もちろん!」
「え?は、はいぃ!」


 え?え?早くないですか?

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