灰色に夕焼けを

柊 来飛

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芽生え

誕生日

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 夏休みが終わり、秋が来た。
 木の葉が枯れ始め、道に色とりどりの絨毯を作り始める。カラカラと乾いた音を立てて葉っぱが風に乗って移動する通学路を僕は歩いていく。
 先生の家に来てもう随分と慣れた。
 相変わらず、あの身体の熱さの原因は分からないけど。
 ローファーから上履きに履き替えて、教室のドアを開けると、いつもは時間ギリギリに来る彩葉が居た。
 
「あれ彩葉。今日は早いね」

「うん、夕」

 そう言って彩葉はポケットから何かを取り出す。僕が首を傾げると、パンと大きな音が鳴った。

「ハッピーバースデー、夕」

「……………」

「あ、あれ、夕。サプライズ、好きじゃなかった?もしかしてバレてた?それとも、日にち間違えた?」

 動かず声も上げない僕を見た彩葉は、慌ててスマホを確認している。

「ひ、日にちは合ってる」

 チラリとこちらを見る彩葉。僕は彩葉に飛びついた。

「わっ、ゆ、夕」

「彩葉!彩葉!!ほんとに、本当にありがとう!!僕、凄い嬉しい!!!」

 人間、本当に驚くと声一つ出ないものだと身をもって実感した。
 前に彩葉に誕生日を聞かれたことがあったが、まさか覚えていてくれたなんて。
 施設では僕の誕生日なんて祝われなかった。 みんな僕に興味がなかったから。関わりたくなかったから。

 この光景を見て、僕が今日誕生日だと知ったクラスメイトは、

「え!?今日なの!?言ってくれれば良いのに!何ももってきてない!明日でいい?」

「夕ちゃん、誕生日おめでとう!お菓子作ってきたんだ」

 次々とみんながお祝いの言葉をかけてくれて、お菓子も大量にもらってしまった。
 何だか自分だけ申し訳ないな、そう思っていると1人の女の子から声をかけられる。

「夕ちゃん、あんまり嬉しくない?」

「ち、違うの!その、自分の誕生日とか、あまり気にしたことなかったし、施設じゃ祝われなかったから」

 実際、彩葉に祝われるまで僕は僕の誕生日を忘れていた。
   
「自分の誕生日だよ!?気にしないなんてことある!?」
 
 なんかとても驚かれた。誕生日なんて、自分が生まれた日。ただそれだけのことだろう。
 そう思っていたが、みんなは違うらしい。

「夕ちゃんは16年、現在進行形でこの世界を生き続けてる。こんな広い世界で、人1人いてもいなくても変わらないって思ってる人もいるだろうけど、私は違う。夕ちゃんがいるから今の生活があるし、思い出があるんだよ」

 そう言われて、急に目の前が開けた気がした。
 施設にいた頃の僕は、いる意味なんてないと思っていた。さっさとこの人生を終わらしたいと。
 
      でも今は違う。

 もっとみんなと過ごしたい、話したい。いろんなことを知ってみたい。
 
 これが、生きたいってことなのだろうか。

 僕はその子に、ありがとうと感謝を伝える。その子は当たり前のことを言っただけだと笑っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今日は先生に早めに帰ってこいと言われた。スーパーに寄って、夕飯も買ってこなくていいと。
 大量のお菓子をスクールバッグに詰めて、帰路に着く。

 ただいまと玄関を開けると、先生が立っていた。

「先生、どうしたんですか?」

「誕生日、おめでとう。烏坂」

 そう言って先生は僕に白の細長い箱を手渡す。オレンジ色のリボンが付いている、可愛らしい箱だ。

「せ、先生、これ、」

「誕生日プレゼントだ」

「い、良いんですか?貰っても」

「誕生日のお前が貰わないでどうする」

「あ、開けても?」

 そう聞くと、先生はクッと顎を動かし、開けろ催促する。
 リボンを丁寧に解いて箱を開ける。

 そこには可愛らしい時計が入っていた。

「わあああ!!!可愛い!!」

「気に入ってくれたら嬉しいんだが」

「先生がくれるものなら何でも嬉しいです!」

 時計を恐る恐る箱から出して手に取る。
 可愛らしい見た目だが、すっきりとしたデザインだ。
 革のベルトは濃いオレンジ色で、丸い時計の文字盤は、水彩のようなじんわりとした色合いで夕焼けのような模様をしている。
 数字と針の色は金色で、文字盤とのコントラストが付いていて見やすい。
 これならどんなファッションにも似合いそうだ。

「つ、付けてみても?」

「勿論だ」

 するりと左の手首にベルトを当てて、穴に金具をはめ込んだ後、残った端のベルトを留める。

「わぁ…」

 自分でもうっとりしてしまうほどその時計は綺麗だった。

「何で僕がオレンジ色が好きって知ってたんですか?」

「お前、何か選ぶときオレンジ色を選ぶからな」

 よく見ている。確かに、僕の周りの小物はオレンジ色のものでいっぱいだ。 
 
 じんわりと心が暖かくなる。
 
 彩葉も、先生も、僕のためにどうしようかと考えてくれたのだ。
 今まで耐えていた涙がポロポロと零れ落ちる。

「か、烏坂、」

 ギョッとした先生に、僕は飛びついてハグをする。
 体格差のせいで、先生の背中にギリギリ手が回るくらいだが、それでも力一杯抱きしめた。

「嬉しいです、先生。ありがとう、ございます」

 先生は何も言わず、僕の背中に手を回して僕を抱きしめた。


 夕飯は先生が作ってくれて、ケーキまで用意されていた。こんなに幸せな誕生日は初めてだった。
 

 
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