灰色に夕焼けを

柊 来飛

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芽生え

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 桜を充分満喫した後、今度は海に向かった。
 車を走らせること数時間、徐々に海が見えてきた。

「海だ!」

「そんな珍しいか?」

「初めて見ました!!」

「それほどでも無いだろ。学校の遠足とかで見なかったのか?」

「高校の遠足は海見えなかったんですよね。小学校と中学校の遠足とかは、行ったこと無いですし」

 そう言うと、先生は目を伏せてからすまんと一言言った。別に謝ることじゃ無いのに。僕は別に気にしていないし。

 車を止めると、そこには広大な海が広がっていた。

「凄ーい!!」

 キャッキャッとはしゃぐ僕とは反対に、先生は冷静だ。

 パシャパシャと勢いで何枚も写真を撮る。ぐるぐる回りながら撮っていたので、ほぼブレているが、僕の気持ちの高揚さを表しているようでこれはこれで良い。

「凄い!本当に海だ!海水って舐めたら本当にしょっぱいんですか?」

「まぁしょっぱいが、あまりおすすめしない」

 気になったが、おすすめしないならやめておこう。ザザーンと波が僕の足元スレスレまで来る。替えの靴は持ってきてないから濡れないようにしなければ。
 少し離れて、今度は落ち着いて写真を撮る。
 日を海が反射して、キラキラと輝く。
 
 「これ、夕日だったらもっと綺麗なんでしょうね」

「待ってみるか?」

「良いんですか?かなり時間ありますよ」

「近くにレストランもあるし、写真撮ってたらなんだかんだで時間潰れるだろう」

 先生が待つと言ってくれたおかげで、いろんな写真が撮れそうだ。
 僕は待っている間、海だけでなく近くのバス停や貝殻などを撮ってみた。
 これは、俗に言う「エモい」というやつでは!?
 よく見る構図ではあるが、結構良い感じだ。これも先生のお陰だ。後で何かお返しをしなければ。

 お腹が空いてしまった為、近くのレストランで食事をすることにした。
 海が近くということもあって、店内は貝殻を使った装飾品が数多く飾られている。
 海風が店内を吹き抜けるように造られており、何処に座っても涼しい風が横を通り抜けていく。

 僕はせっかくなので、おすすめメニューの冷製パスタとソーダを頼んだ。
 先生は大盛りの海鮮丼とラーメン、追加で炒飯を頼んでいた。
 兄妹ですか?と聞かれ、親戚だと答えておいた。全然違うけど。
 料理は美味しくて、僕が頼んだソーダは海を意識した色合いでとても綺麗だった。
 
 あまりにも僕が綺麗だ美味しいだ言って写真を撮る為、お店の人がサービスでもう一杯おまけしてくれた。

 そんなこんなで日も暮れてきた。
 人は殆どいなくなり、風だけが吹いている。
 真っ赤な夕日が空をいろんな色に変えていく。
 日は赤色なのに、空は青だったり紫、ピンクにオレンジなど様々な色が混ざり合っている。

 カメラのレンズを通し景色を見ていたが、その景色をこの目で見たいと思いカメラを下げる。


 目の前には綺麗な夕空が2つ、広がっていた。

 夕空の景色、海に反射した景色。僕は何処か迷い込んでしまったようだ。 

 僕は写真のことなんて忘れて、その景色を見ていた。

「写真、良いのか?」

「と、撮ります」

 パシャリと一枚。一枚だけ撮った。
 今はできるだけ長く、この景色を自分の目で直接見ていたかった。

「綺麗です」

「そうだな」

「………僕、夕焼けが好きなんです」

「…綺麗だから?」

「綺麗です。それもありますけど、僕の、お母さんも好きだったし、」


  ー「お母さんの、瞳の色だから」ー


 先生にお母さんのことを話すのは初めてだった。ほんとは、話すつもりもなかった。
 でも、僕のお母さんはこんな綺麗な瞳を持っていたんだと、少し自慢したくなった。

「………じゃあお前の瞳は、母親譲りなんだな」

「え?」

「ーお前の瞳も、夕焼け色だろ」

 違う。僕は違う。僕の瞳はただのオレンジ色で、お母さんのような綺麗な夕焼け色じゃ無い。
 お母さんの瞳の色は、僕よりももっと綺麗で、本当に夕焼けみたいに色んな色なあって。

「お前の瞳、色んな色があるんだよ。この夕焼けみたいに」

「……ほ、、本当、に?」

「なんで嘘言う必要があんだよ」

「……嬉しい、とても、嬉しいです」

 大好きなお母さんの瞳と同じと言われ、これを喜ばずにいられるだろうか。
 僕は無理だ。現に今、最高潮に喜んでいる。
 
 僕はこの喜びを胸に抱えたまま、靴と靴下を脱ぎ捨てて、夕焼け色に染まる海にバシャバシャと入っていった。 
 
「お、おい、烏坂ー」

「気持ちー!!」

 ワンピースの裾をたくし上げて奥へ奥へと入っていく。
 先生が警告の言葉を僕にかける。

「あまり奥に行くな!波に攫われるぞ!」

「ここで止まりますよー!」 
 
 そう言ってより近くで夕日を見る。下を見れば夕焼け色に染まった海。その中にいる自分。なんだか童話の登場人物になった気がして笑みが止まらない。

「フフフッあはははっ!先生!先生は来ないんですか?」

「…俺は…写真撮ったら行くから待ってろ」

 先生がスマホをこちらに構えたので、僕はとびきりの笑顔をする。
 ピースとかもしたかったけど、そうするとワンピースの裾が濡れてしまう。
 写真を撮り終わった先生は、予告通り靴と靴下を脱いで海に入ってきた。

「急に走り出すから何かと思ったぜ」

「えへへ、ごめんなさい。でも、ほら見てください。すっごく綺麗です!」

「ああ、見てる」 

 僕は先生にポツリポツリと独り言のように言う。

「僕の名前の夕も、お母さんが付けてくれたんです。お母さんが大好きな夕焼けからとってきたんですよ」

「…そう、だったんだな」

「お母さんにも、見せてあげたかったです」

 もう、二度と逢えないお母さん。
 
 ねぇお母さん、お母さんも、もしかしたら、今この景色を見ていますか?
 
 僕の呟きを聞いた先生は、僕と同じで夕日をただじっと見ているだけだった。
 
 


 


 


 

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