灰色に夕焼けを

柊 来飛

文字の大きさ
82 / 128
止められない想い

ネックレス

しおりを挟む
 ドアノブに手をかけた後、ふとチラリと先生を見ると、首元に何かがキラリと光る。

「あれ?そのネックレス…」

「ん?ああ、お前がくれたやつだ」

「どこか出かけるんですか?」

「どこか行きたいのか?」

「え?いえ…」

「そうか」
 
 どこも出かける予定がないのにアクセサリーをつけるなんて珍しいな。そう思い見ていると、先生がこちらに歩いてくる。

「烏坂」

「はい?」

 すると、先生は僕のちょうど胸の真ん中あたりに指を置く。それだけなのに、体が少し硬直する。

「俺の、ネックレスも付けてくれ」

「せ、先生の…?」

「ああ。俺があげた、あの金のネックレスだ」

「べ、別に良いですけど…」

 それを聞いた先生は満足そうな笑顔をする。僕が付けている姿を見てみたいのだろうか。
 僕は部屋に戻ってそのネックレスをつけようとするが、ネックレスなんて付けたことがない僕は、後ろで金具を止めることに苦戦する。

「ん、んんん、」

 ガチガチと自分の爪だけが引っかかる。先生は僕よりも大きく太い指でこれをやっていたのか。素直に感心したところで、僕は先生の部屋にまた向かう。先生はちょうど服を着るところだった。

「あっ、先生。服着終わったら良いですか?」

「ん?何だ?」

「いえ、その、先生から貰ったネックレスを付けようとしたんですけど、難しくて…」

「ああ。付けてやるから来い」

「えっ、いえ、服を…」

 僕が断り終わる前に、先生は僕の腕を引っ張りベッドに座らせる。先生は僕の後ろでネックレスの金具を弄る。
 時々、先生の手が首に当たってくすぐったい。

「んっ、ふっ、」

「どうした?」

「いっ、いえ、」

 先生はネックレスをつけようとしてくれているため、その邪魔は出来ない。必死に声を押さえていると、先生が唸り声を上げる。

「何だこれ、難しいな…」

 先生でも難しいのか。それなら僕に出来なくて当然だ。しかし、だからと言ってつけるのをやめたくない。せっかく貰ったのだから一回くらいはつけてみたい。

「少し髪持っててくれるか」

 僕の髪は中途半端に長い。僕は髪を分け、前に下ろす。今は頸が完璧に出ている状態だ。少しスースーして落ち着かないが、この方がやりやすいだろう。

「いつもはすぐ付けられるんだがな。特に金具は問題ないんだが…」

 先生は何か原因を探すようにネックレスを弄る。
 先生のザラリとした手が触れたとき、僕の肩が跳ねる。

「ひっ!」

「烏坂?」

「やっ、あの、くっ、くすぐったくて…」

「お前首弱いもんな」

 そう言って先生は躊躇なく僕の頸を触る。僕は肩を上げて抵抗する。

「ひあっ、ふっ、先、生、」

「ほら、動くとネックレスつけられねぇぞ」

 チャリッと胸元のネックレスが揺れる。僕は先生につけてもらいに来てるのだ。つけられなかったら意味がない。
 僕はその場に何とかとどまろうとする。しかし、くすぐったいものはくすぐったいのだ。

「ほら、出来たぞ」

 よくやく終わった。僕はお礼を言おうと先生の方を向く。

「先生、ありがとうございます」

「……ああ、似合ってる」

 そう言って先生は僕の頸の方からネックレスを指でなぞる。

「んっ、」

「なあ、このネックレス今日一日中つけといてくれよ」

「か、構いませんけど…」

「学校は…アクセ類は駄目だったか」

「はい」

「チッ、髪染めるのも駄目だしツーブロも駄目だし、固っ苦しいな」

「……僕が、つけてるの見て楽しいですか?」

「ああ、最高に気分が良い」

 先生はネックレスをつけている僕を見て満足そうに言う。ニヤリと口角を上げ、いかにも気分が良さそうだ。

「そのネックレス、気が向いたらつけてくれ」

「良いですけど、そんなに見たいんですか?」

「ああ。いつだって見たい」

 そんなことを言って、ただこの姿が新鮮だからだろう。すぐに飽きる。
 でも、つけること自体は別に苦ではないし。

「烏坂」

「何でしょう?」

「そのネックレス、俺以外に触らせるなよ」

「?、外に持ち出すなってことですか?」

「違う。ただ、触らせないで欲しいだけだ」

 よく分からないが、触らせて欲しくないらしい。元はと言えば、これは先生のだから見ず知らずの人に触られるのは確かに嫌かもしれない。

「わかりました」

「………まあ、いいか」

 そう言って先生はようやく上を着る。服を着ても僕があげたネックレスは見えている。キラリと付いている指輪が光る。

 いつか、そこにある指輪は先生の結婚指輪になるのだろうか。
 きっと、先生が選ぶくらいなんだからとても良い人なんだろうな。

 僕は少しの胸の痛みを感じながら、先生の部屋を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~

ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」  中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。  そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。  両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。 手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。 「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」  可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。 16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。  13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。 「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」 癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。 生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。 そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。 アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで…… 次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは…… 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。 作者は元サヤハピエン主義を掲げております。 アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...