2 / 7
part.2
しおりを挟む
「ねえ、内藤くん」
「ん?」
「昨日の品評会、どうだった?」
玲のたんぽぽの綿毛のようにふわふわとした声に、僕は小説を書く手を止めた。
タイピング音がなくなっただけで、放課後の図書室というのはやけに静かに感じられる。
本当はタイピング音を鳴らすことも図書室的にはよくないのかもしれないけど、昨日の一件があったので部室にはどうも居づらかった。
「お隣失礼します」
「うん」
隣に座って僕が話し出すのを静かに待つ玲。
こういうおしとやかなところを角田にも見習ってほしいと切に願いながら、僕は玲に昨日の品評会について話し始めた。
結論から言えば、昨日の品評会は僕と角田の喧嘩みたいなものだった。まず、事前に渡された冊子から角田の小説を探して読んだ僕は、あまりのつまらなさに絶句した。
まるで出来の悪いケータイ小説でも読んでいるかのような恋愛ものだった。なので、僕は品評会でその完成度の低さを、出会ったときの恨みも含めてぼろくそに言ってやったのだった。
それに対して角田は真っ向から反撃してきた。
あくまで淡々と、しかし的確に、僕の書いたファンタジー小説の問題点をこれでもかと突きつけてきた。
「……僕にひどく言われた腹いせじゃないのか」
ぐうの音も出ないほど叩きのめされた僕が、かろうじて反撃の言葉として言えたのはそれだけだった。
でも、それがかえって角田の闘争心に火をつけてしまった。
「腹いせなのはそっちの方じゃないの? あたしのは純粋な感想なんですけど」
確かにそういう気持ちも多少はあったけれど、角田の小説がおそろしくつまらないのは本当だ。ほかの人の品評もろくなものじゃなかった。
そうして売り言葉に買い言葉の口喧嘩が始まることとなった。頭に血が上った僕と角田はお互いの言葉を言い値で売り買いし合って、まったく歯止めが効かなくなっていた。
「一年一組、内藤大地。一年二組、角田礼奈」
僕たちの喧嘩を終わらせたのは、顧問の先生の冷たく名前を呼ぶ声だった。
「喧嘩がやりたいなら外でやりなさい。品評会の邪魔です」
その声に我に返った僕と角田は、ようやく部室中から向けられる冷ややかな視線に気付いた。
気付いたところで、もう手遅れだったのだけど。
「はい……」
「……すみませんでした」
僕たちは自分の荷物を持って、すごすごと部室をあとにした。そして、廊下に出るなり角田からひとこと。
「……あんたのせいで怒られたじゃない」
「……本当にまだ喧嘩続ける気なのか、お前は」
「んなわけないでしょ、謝らないけど」
「僕だって謝らないぞ」
「じゃあ今日のところは引き分けってことにしといてあげる」
そう捨て台詞を言い残して、角田はそそくさとどこかへ去っていった。
取り残された僕は部室に戻りたくても戻れず、仕方なく家に帰ることとなった。
「ん?」
「昨日の品評会、どうだった?」
玲のたんぽぽの綿毛のようにふわふわとした声に、僕は小説を書く手を止めた。
タイピング音がなくなっただけで、放課後の図書室というのはやけに静かに感じられる。
本当はタイピング音を鳴らすことも図書室的にはよくないのかもしれないけど、昨日の一件があったので部室にはどうも居づらかった。
「お隣失礼します」
「うん」
隣に座って僕が話し出すのを静かに待つ玲。
こういうおしとやかなところを角田にも見習ってほしいと切に願いながら、僕は玲に昨日の品評会について話し始めた。
結論から言えば、昨日の品評会は僕と角田の喧嘩みたいなものだった。まず、事前に渡された冊子から角田の小説を探して読んだ僕は、あまりのつまらなさに絶句した。
まるで出来の悪いケータイ小説でも読んでいるかのような恋愛ものだった。なので、僕は品評会でその完成度の低さを、出会ったときの恨みも含めてぼろくそに言ってやったのだった。
それに対して角田は真っ向から反撃してきた。
あくまで淡々と、しかし的確に、僕の書いたファンタジー小説の問題点をこれでもかと突きつけてきた。
「……僕にひどく言われた腹いせじゃないのか」
ぐうの音も出ないほど叩きのめされた僕が、かろうじて反撃の言葉として言えたのはそれだけだった。
でも、それがかえって角田の闘争心に火をつけてしまった。
「腹いせなのはそっちの方じゃないの? あたしのは純粋な感想なんですけど」
確かにそういう気持ちも多少はあったけれど、角田の小説がおそろしくつまらないのは本当だ。ほかの人の品評もろくなものじゃなかった。
そうして売り言葉に買い言葉の口喧嘩が始まることとなった。頭に血が上った僕と角田はお互いの言葉を言い値で売り買いし合って、まったく歯止めが効かなくなっていた。
「一年一組、内藤大地。一年二組、角田礼奈」
僕たちの喧嘩を終わらせたのは、顧問の先生の冷たく名前を呼ぶ声だった。
「喧嘩がやりたいなら外でやりなさい。品評会の邪魔です」
その声に我に返った僕と角田は、ようやく部室中から向けられる冷ややかな視線に気付いた。
気付いたところで、もう手遅れだったのだけど。
「はい……」
「……すみませんでした」
僕たちは自分の荷物を持って、すごすごと部室をあとにした。そして、廊下に出るなり角田からひとこと。
「……あんたのせいで怒られたじゃない」
「……本当にまだ喧嘩続ける気なのか、お前は」
「んなわけないでしょ、謝らないけど」
「僕だって謝らないぞ」
「じゃあ今日のところは引き分けってことにしといてあげる」
そう捨て台詞を言い残して、角田はそそくさとどこかへ去っていった。
取り残された僕は部室に戻りたくても戻れず、仕方なく家に帰ることとなった。
0
あなたにおすすめの小説
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる