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12 蘇生秘術 ドラグ・リンカネーション

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「なんで、あんたが」

 竜化した俺とデュランダルは、泣き崩れているリラをどうにか救うことができた。前方のゴブリンキングを睨みつけながら、彼女に告げる。

「リラ。お前は――俺が守る」

 俺が農村にたどり着いた時には、全てが手遅れだった。損壊した無数に転がっている。酷い光景だった。もっと早く来ていれば……こんなことには!

 夜が近い。それにも関わらず、燃え盛る炎で空は紅く染まっていた。

「マスター。まだなんとかなるのだ」

「何!? どういう意味だ」

 ドラグ・フュージョンし、一体化した自分の中のデュランダルに問いかける。

「蘇生秘術であるドラグ・リンカネーションを使うのだ。そうすれば、まだこのあたりに漂っている魂を身体に戻せるのだ」

「ほ、本当か!? いや待て。被害者の大半は身体が損壊しているぞ」

「ちっちっち。それは回復魔法でいけるのだ。SSSの力なれば、問題ないのだ」

 そうか。そうか! それはなんだか、もう最高だな!

 俺は再びリラへと視線を向け、笑顔を見せる。彼女は無気力な表情のまま、俺を見上げている。

「リラ。大丈夫だ。みんな生き返る。お前のお母さんも。姉弟たちも」

「え……。な、なにいってんのよ。そ、そんなこと……で、できるの?」

 戸惑いを隠せないリラの頭をぽんと撫でる。

「ああ! ちょっと待っててくれ。まずはあいつをぶっ飛ばす……!!」

 いくぞ、デュランダル!! 今日の俺は、一味違うぞ!!

 紅蓮の翼を広げ、一気に空へと舞い上がる。

 そこにゴブリンキングが焼け焦げた柱を投げつけてきた。

「グガガガ、降りてこい! 人間があ!」

 うるさい奴だ。こっちは心底、頭に来てるんだ。大人しく消されるのを待ってろよ……!

 俺は紅蓮眼の熱線で、回転しながら飛んでくる柱を瞬時に破壊する。そのままゴブリンキングの左足へも攻撃を加えた。

「ギャアアアアッ!」

 親玉らしきゴブリンがよだれを撒き散らしながら、悶ている。お前には痛みを感じる資格さえない。だから――今すぐ無に還れ。

 腰に携えた二振りの刀を抜き放ち、夜空に掲げる。二つの刀身をクロスさせ、魔力を込めていく。刃は瞬く間に紅く染まり、揺らめく炎に包まれた。

 フィオナの時とは違い、今は加減する必要がない。全力で行かせてもらう。これが俺とデュランダルのフルパワーだ!!

 俺の頭上に特大の火球が生まれ、小爆発を繰り返しながら増幅していく。

《烈火落星・真 メテオストライク・ノヴァ》

「くらえ、ゴブリン野郎おおおおおおおおおおっ!!」

 身体全体のバネを総動員し、俺は特大火球をゴブリンキング目掛けて放つ。地獄の炎は貪欲に酸素を貪りながら、速度を増して目標へと突き進んだ。

「ヒイッ! た、だずげでえええええええええええええええええええ!!」

 ゴブリンの王ともあろうものが、情けなく逃げ惑う。だが、それも終わりだ。火球が家屋よりも数倍の大きさとなり、一気にゴブリンキングを飲み込んだ。

「ギエエエエエッ! あ、あづいいいいいっ! だずげでえぇ……」

 耳障りの断末魔は直ぐに止み、ゴブリンキングの痕跡すべてをこの世界から消し去っていく。それでも俺の怒りは収まらない。

 とはいえ、今は怒りに振り回されている場合ではなかった。

 俺は竜化を解かずに、左手を掲げる。今も農村で燃え盛る炎たちを、一気に自分の中に吸収した。瞬く間に火災が消え、焦げた匂いが周囲に漂う。

 地上では俺を見上げるリラの姿が小さく揺れている。待ってろよ。今、全てを戻してみせるからな。

「よし。デュランダル。いくぞ」

「わかったのだマスター。けど、この術はかなり負担が大きいのだ。場合によってはマスターの生命を削ることになるかもしれない。それでも、やるか?」

「聞くまでもないだろ。頼むよ。相棒」

「……うん。わかったのだ! では、行くのだ!」

 俺とデュランダルは意識を同調させ、静かに二つの呪法を呟いた。

《蘇生秘術 ドラグ・リンカネーション》
《生命回帰 ドラグ・ヒーリング》

 ずん、と力の大半が持っていかれる感覚が走った。これは確かにきつい! だが、ここで気を失うわけにはいかない。リラの家族を、村のみんなを、そして何より、彼女の笑顔を取り戻すんだ……!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 俺は持てる力の限りを尽くして叫ぶ。リンカネーションで魂を呼び戻し、ヒーリングで損壊した身体を元に戻す。それを村人全員、同時並行で行う。流石に意識が飛びかけた。飛んでいるのも辛いほどだ。

「マスター! もういいのだ! うまくいった。見るのだ」

 デュランダルの声に導かれ、俺は眼下を見る。そこには、消え去ったはずの人々の姿がいくつもあった。本当だ……。やった。やったな俺。

 蘇った人たちが、徐々に状況を理解したのか、俺を見上げて跪いていく。

「おお……勇者様。私達を黄泉から蘇らせて頂き、感謝いたします!」

「ありがとう、お兄ちゃーん! ありがとう!!」

「竜の人よ! 我らの救世主よ! 貴方様に栄光あれ!」

 村人たちが喝采し、俺を称えてくれる。誰かに感謝されるっていうのは、うれしいものだね……。

「ヘヘ……。俺、英雄みたいじゃ、ん……」

 そこが限界だった。力が抜け、俺は真っ逆さまに地面へと落下していく。まずい。これはまずい。

「ジン!」

 リラの声が響く。次の瞬間、俺は彼女の胸にしっかりと抱きとめられていた。周囲には幾重にも木々と葉が重なり、衝撃を吸収してくれていた。これがリラの竜化か。

「リラ、無茶するなよ……大丈夫か?」

「ジン。ジン。ありがとう! ありがとう! ありがとう!」

 彼女は何度もそう繰り返す。エメラルドの瞳からは止まることなく涙が溢れていた。
 リラの胸が頬にあたり、役得を感じながら俺は白濁とした眠りの世界へと落ちて行った。
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