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陰謀篇
第19話 お茶会──その後
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暫くして侍医が部屋を訪ねてきた。侍医と一緒にお母様とお祖母様も一緒に来ていた。既に王族が席を外した隙きに騒動が起きたので、兄様たちが席を外したのならお母様が場を繋がなければならない。お母様がここに居るということはお茶会はお開きになったのだろう。兄様たちの婚約者を目指していた令嬢たちには申し訳ないことをした。
侍医に離れるように言われ、私の寝台を取り囲んでいた家族たちは遠巻きに見ている。私とルーシーの疲弊した様子を見て症状が軽くないと察したのだろう。ルーシーと侍医が盾になっているので家族は火傷の部位を捉えることは出来ないようで、皆心配そうな表情を浮かべるだけだった。
正直に言うと軽症ではない。素人目から見ても重症だとわかる。家族に見られずに済んで良かった。実際に怪我の様子を見られたら伯爵令嬢と取り巻きたちは極刑になる可能性すら出てくる。
「……軽症とは言えないので、最善は尽くしますが火傷痕が残る可能性があります」
「それは言い過ぎでは……?」
深刻な様子の侍医の言葉を聞いて家族の雰囲気が暗くなる。私は皆が心配しすぎないように場を和ませようと言ってみた。するとルーシーが泣きながら私に頼んだ。
「フレイア……お願い…………お願いだから無茶しないでっ…………」
細く弱い声で言いながら噛み殺すように泣くルーシーを見て、私は言葉が出なかった。何と話しかければ良いのかわからなかった。
「ルーシーさん。針とメスを」
「……はい」
すぐに施術が始まる。水疱を潰して余った皮膚を除去した後に剥き出しになった真皮層に薬を塗って包帯を巻くのだ。この世界ではメスを使うのは重症患者のみ。皆が息を呑んだ。
「……ハァ…………これでよし。王女殿下、薬を塗ります」
「は、はい」
私は目を瞑って唇を噛み、声を押し殺す。炎で炙られているような激痛が走る。痛みが収まったと思って見てみると、既に腕の包帯を巻き終えていた。少し動かすだけでも鈍い痛みが走る。
「王女殿下は目を離せばすぐに無理をしそうですから、傷口に沁みますが効果は高い薬を塗っておきました。包帯と薬は毎日交換に来ます。入浴の際は腕を濡らさないように気をつけて下さい」
そう言って侍医は退出した。痛みに耐えるのに体力を使い過ぎたのか意識が朦朧とし、私は目を閉じる。
どれくらい経ったのか。私は気がつくと見知らぬ場所に来ていた。雲が漂い沢山の宮殿が浮かぶ場所。
「……ここは…………?」
『何で駄目なんだっ! このままでは世界が崩壊するっ!』
その声は聞き覚えのある憎たらしい声だった。違ったのは以前聞いた声よりも幼いことくらいだ。一つの宮殿の中で声の主が水晶を浮かべながら四苦八苦している。声の主は何度も調整を行い、泣きそうになりながらも何かを練習し続けた。
『どうして私はこんなに無能なんだ!』
自分を責める少女の姿は酷く痛ましく見えた。
「……ん…………」
目が覚めると普段の天井。何か大切な夢を見ていたような気がするが、思い出せない。
寝台の傍らでルーシーが私の手を握って眠っている。窓の外は真っ暗で月明かりが部屋の中を照らした。水を飲もうと右手を伸ばそうとすると、ジクジクと痛みに襲われる。だが左手はルーシーが握っている。看病をしてくれていたであろうルーシーを起こすのは忍びない。私は痛むのを我慢して寝台横の水を手に取った。
「……フ……イア…………」
ルーシーに呼ばれたようで一瞬心臓が強く跳ねた。
「……ありがとう。ルーシー」
私はルーシーの手を握り返して、再び眠りについた。
私は異常な暑さで目が覚めた。枕元には侍医と家族、ルーシー、カリスが揃っていた。
「……フレイアっ!」
皆が突然泣き出した。あまりに突然のことに困惑する。
「火傷の炎症で高熱を出していて、一瞬ですが心臓が止まったのですよ」
侍医の先生が状況を教えてくれる。
なるほど、心臓が止まったから皆泣いてるのか
周囲が興奮していると逆に冷静になってくる。それとも死にかけていた実感がないからだろうか。
「最低でも半月は絶対安静です。お風呂なども体調などを考慮して下さい」
そう言って侍医が退出する。ルーシーが駆け寄って抱き締めてくる。
「心配したんだからっ! 本当に駄目なのかとっ……!」
そう言って泣きじゃくるルーシー。お祖母様もお母様も、兄様たちも抱きつきたそうに見ている。
「心配かけてごめんね。すぐに治すから」
そう言ってルーシーの頭を撫でた。
侍医に離れるように言われ、私の寝台を取り囲んでいた家族たちは遠巻きに見ている。私とルーシーの疲弊した様子を見て症状が軽くないと察したのだろう。ルーシーと侍医が盾になっているので家族は火傷の部位を捉えることは出来ないようで、皆心配そうな表情を浮かべるだけだった。
正直に言うと軽症ではない。素人目から見ても重症だとわかる。家族に見られずに済んで良かった。実際に怪我の様子を見られたら伯爵令嬢と取り巻きたちは極刑になる可能性すら出てくる。
「……軽症とは言えないので、最善は尽くしますが火傷痕が残る可能性があります」
「それは言い過ぎでは……?」
深刻な様子の侍医の言葉を聞いて家族の雰囲気が暗くなる。私は皆が心配しすぎないように場を和ませようと言ってみた。するとルーシーが泣きながら私に頼んだ。
「フレイア……お願い…………お願いだから無茶しないでっ…………」
細く弱い声で言いながら噛み殺すように泣くルーシーを見て、私は言葉が出なかった。何と話しかければ良いのかわからなかった。
「ルーシーさん。針とメスを」
「……はい」
すぐに施術が始まる。水疱を潰して余った皮膚を除去した後に剥き出しになった真皮層に薬を塗って包帯を巻くのだ。この世界ではメスを使うのは重症患者のみ。皆が息を呑んだ。
「……ハァ…………これでよし。王女殿下、薬を塗ります」
「は、はい」
私は目を瞑って唇を噛み、声を押し殺す。炎で炙られているような激痛が走る。痛みが収まったと思って見てみると、既に腕の包帯を巻き終えていた。少し動かすだけでも鈍い痛みが走る。
「王女殿下は目を離せばすぐに無理をしそうですから、傷口に沁みますが効果は高い薬を塗っておきました。包帯と薬は毎日交換に来ます。入浴の際は腕を濡らさないように気をつけて下さい」
そう言って侍医は退出した。痛みに耐えるのに体力を使い過ぎたのか意識が朦朧とし、私は目を閉じる。
どれくらい経ったのか。私は気がつくと見知らぬ場所に来ていた。雲が漂い沢山の宮殿が浮かぶ場所。
「……ここは…………?」
『何で駄目なんだっ! このままでは世界が崩壊するっ!』
その声は聞き覚えのある憎たらしい声だった。違ったのは以前聞いた声よりも幼いことくらいだ。一つの宮殿の中で声の主が水晶を浮かべながら四苦八苦している。声の主は何度も調整を行い、泣きそうになりながらも何かを練習し続けた。
『どうして私はこんなに無能なんだ!』
自分を責める少女の姿は酷く痛ましく見えた。
「……ん…………」
目が覚めると普段の天井。何か大切な夢を見ていたような気がするが、思い出せない。
寝台の傍らでルーシーが私の手を握って眠っている。窓の外は真っ暗で月明かりが部屋の中を照らした。水を飲もうと右手を伸ばそうとすると、ジクジクと痛みに襲われる。だが左手はルーシーが握っている。看病をしてくれていたであろうルーシーを起こすのは忍びない。私は痛むのを我慢して寝台横の水を手に取った。
「……フ……イア…………」
ルーシーに呼ばれたようで一瞬心臓が強く跳ねた。
「……ありがとう。ルーシー」
私はルーシーの手を握り返して、再び眠りについた。
私は異常な暑さで目が覚めた。枕元には侍医と家族、ルーシー、カリスが揃っていた。
「……フレイアっ!」
皆が突然泣き出した。あまりに突然のことに困惑する。
「火傷の炎症で高熱を出していて、一瞬ですが心臓が止まったのですよ」
侍医の先生が状況を教えてくれる。
なるほど、心臓が止まったから皆泣いてるのか
周囲が興奮していると逆に冷静になってくる。それとも死にかけていた実感がないからだろうか。
「最低でも半月は絶対安静です。お風呂なども体調などを考慮して下さい」
そう言って侍医が退出する。ルーシーが駆け寄って抱き締めてくる。
「心配したんだからっ! 本当に駄目なのかとっ……!」
そう言って泣きじゃくるルーシー。お祖母様もお母様も、兄様たちも抱きつきたそうに見ている。
「心配かけてごめんね。すぐに治すから」
そう言ってルーシーの頭を撫でた。
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