料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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1章 名もなき村

06 緑菜

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 レイジとミーナに普段食べているものを見せてもらうことにして持ってきてもらったのは白菜だった。

 いや、見た目は白菜なのだが表面の色が緑色なので白菜と呼ぶのも微妙なのだが。

『名前:緑菜 可食部:葉 年齢:百日 食用:可 花が咲く前に収穫されたもの。葉は柔らかく茎は歯ごたえがある。味はキャベツに似ており生でも熱を通しても食べられる。』

 食材鑑定の結果はこんな感じ。
 見た目は緑色の白菜なのに味はキャベツという。

 まあ斑芋もジャガイモとは違う見た目をしていたしこの世界ではこんな感じなんだろうな。
 俺は前の世界の記憶が知識しかないからいいが、将来やってきた善人たちは脳がバグらないか心配だ。

「これは一年中採れるから僕たちは一日にこれ一つ貰ってるよ。他の人たちは自分の畑で採れたもので納税物を除いたものを食べてるけど」

「他の畑では違う作物も作ってるのか?」

「基本的にはこれと納税物の果実だけだよ」

 果実、要するに甘味や酸味の強い果物は貴族への納税で村人は味の薄い野菜を食べてるわけか。

「二人はこれをどうやって食べてるんだ?」

「一枚ずつ葉をちぎって食べてるよ」

 妥当と言えば妥当か、火を使うことはおろかナイフで野菜を切るのも初めてみたいな反応だったし。

「お兄さんならこれも斑芋みたいにできる?」

「生以外での食べ方ってことか?」

 二人そろってコクコクとうなずいている。
 よっぽどそのまま食べるのに飽きているのだろう。

 いや、あるいは俺が不用意に味付きのものを与えたせいで舌が肥えたのかもしれないが。

 しかし、キャベツ単体で作れるレシピって何かあるんだろうか。

 異界のレシピで適当に検索してみるが、キャベツ単体だと副菜やつまみに近い物しかヒットしない。
 だが、豚肉と組み合わせれば鍋物や焼き物なんかのレシピが何個かヒットするな。

 そういえば、昨日はデビルボアとかいうイノシシっぽい見た目の獣もゴミ捨て場にあったし豚肉っぽい肉もあるかもしれないな。

 調味料棚にはポン酢やめんつゆもあったし鍋物ならすぐにでも作れるだろう。

「切ってフライパンで炒めるだけでもかなり違うけど、肉と一緒に料理すればさらにおいしくなるぞ」

「じゃあ、早くお肉を取りに行こうよ」

「ミーナも手伝うよ」

「じゃあ肉を用意して夜にでも緑菜を使った料理を作ってみようか」


 ゴミ捨て場という名の獣の死体置き場には今日も新たな肉が供給されていた。
 フライラットが何匹かいるのはもう当たり前なのだろう。
 デビルボアは昨日のものよりも小ぶりなものが二匹ほど置いてあった。
 ただし、小ぶりとはいっても一メートル半は超えるもので道具もなしに持ち帰るのは不可能なので今日は包丁を持参してきた。
 適当にバラ肉やモモ肉を切り出して持っていこうという算段だ。

 しかし、フライラットはそのまま放置してあるがデビルボアのほうは毛皮をはぎとられて内臓も取り出した状態で放置されている。
 捌く手順が減るからこっちとしては万々歳なのだがなんでこんな状態なんだ?

「毛皮は村人の衣服になるから殺した段階ではぎ取ってるんだよ。内臓のほうは殺した場所からここまで持ってくるのが大変だから殺した場所に埋めてから持ってくるんだよ」

 なるほど、たしか豚なんかの内臓の重さは体重の十分の一くらいらしいし少しでも減らそうってことか。

「でも持ってくるのが大変ならそのままそこに埋めるのじゃダメなのか?」

「昔はそうしていたらしいけど、埋めた死体を目的にさらに凶暴な獣が山からやってくるようになったから捨て場所を変えたって聞いたよ」

「なるほどなー」

 そういえば切り出す前にデビルボアの鑑定もしておくか、これで食用:不可だったら解体するだけ無駄だし。

『個体名:  種族:デビルボア 性別:雌 年齢:三歳 食用:可 額に生えた二本の角は縄張り争いの時に使用する。草食で肉は旨味が強く香りは成熟した果実のように甘い。どんな調理法にも対応できるが鮮度が落ちているものを生食するとたちまち腹を壊す』

 説明文を見るにイノシシというよりは豚に近いような気がするが、あいにく前の世界の知識にイノシシ肉に関するものはないからこれは豚肉ってことにしておこう。

 とりあえず、異界のレシピで豚の解体方法を確認して、肩回りからあばら骨と背骨を切り出す。
 しかし、これだけの大物でもフライラットと変わらない感じで捌けるのは本当に神様印の包丁のおかげだろう。

 あばら骨を切り出した後に残る背中側の肉から肩ロースとロースで地面についていないところを切り出して、これまた食堂から持ち出した両手で抱える大きさのボウルに入れていく。
 おなか側の肉からはバラ肉を切り出して同様にボウルへと入れる。
 あとはもも肉のあたりからも切り出して、合計で十五キロくらいの肉を切り出す。

 ロースはステーキなんかの焼き物にして、バラともも肉を鍋や炒め物に使う感じで想定している。

 俺が解体している間、レイジとミーナは解体手順を覚えるために俺に質問しつつも手元に集中していた。

 これからも本当に俺の手伝いをしようとしてくれているのがわかって、正直泣きそうなほどうれしかったがそれはおくびにも出さなかった。

 切り出した肉を持って食堂に帰ってきたが、レイジとミーナはこれから村の雑用や夕方の餌撒きがあるという。
 肉を切りに行く前に軽く村の中を案内してもらったが、村の中心に畑があって村人の住居は森と反対側に集中している。
 逆に森に近いほうに住んでいるのはレイジとミーナみたいに途中からこの村に移り住んだ人達のようで森に一番近いが一番広大な村長の畑で手伝いをしている人たちのようだ。

 だから、村の構成としては森、レイジたちを筆頭に新参者の住居、餌用の畑(斑芋)、ゴミ捨て場、村長の畑、村人の畑、村長の住居、村人の住居といった感じで並んでいるようだ。

 まあ、村人に警戒されても嫌だから畑から先には行かずレイジから説明を受けただけだが。
 一応レイジとミーナの手伝いをしようかと思ったのだが、解体は切れ味がよすぎる包丁のおかげでそこまで疲れなかったが、十五キロの肉を持ち帰るのがかなりの重労働だったのだ。

 フライラットの1.5倍ほどだから余裕と思ったが、尻尾をもって担げるフライラットとボウルに入ったデビルボアの肉じゃあ腕にかかる負担がまるで違った。

 そんなわけで俺は二人を見送り、肉のさらなる解体と朝やろうと思って手を付けていなかったパン作りをしようと思う。
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