料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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1章 名もなき村

20 魔獣退治

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「マサト兄ちゃん、魔獣が出たよっ!」

 飲んでいたグラスを置いたレイジが叫ぶ先を見ると額から大きな一本の角をはやした大型犬サイズのウサギが二羽、こちらに向かってくるのが見える。

 レイジは腰に差していた二本の剣を器用に構えて向かってきたウサギに相対する。

『個体名: 種族:ホーンラビット 性別:雄 年齢:三歳 食用:可 額に生えた角で獲物を殺す魔獣。魔力が高い個体ほど肉は甘みが増し柔らかくなる。角の大きさは魔力の高さを表している。』

 上下関係があるのか、二羽のホーンラビットは角の長さが違い、角の短いホーンラビットはレイジのほうに、長いほうは俺とミーナのほうに迫ってきた。
 食材鑑定が正しければこちらに来た個体のほうが魔力が高いことになるが、明らかに強いはずのレイジではなく俺たちのほうに来たということは手下に強いやつの相手をさせて自分は弱くて殺しやすい獲物に向かってきたということか。

「マサト兄ちゃん、ミーナ、危ないっ!」

 こちらに向かってくるホーンラビットに対して、思わず食堂内の包丁を手にミーナの前に出た俺だが一般人かつ天職も持っていない俺に魔獣の動きを追えるはずもなく角を前面に出したホーンラビットの体当たりを腹の真ん中に食らってしまった。
 だが、不思議なことにホーンラビットが当たった感触も体当たりされた衝撃も角が刺さった痛みも全くなかったのだ。
 それどころか、ぶつかってきたはずのホーンラビットのほうが数メートル後退するほど吹っ飛び、その腹には角で貫かれたような大穴が開いていた。

 ここで、俺は神様の言葉を思い出していた。
『お前を傷つけようとしたらそのエネルギーを倍返しにする感じにしておくか』
 そう、ホーンラビットの腹に空いた大穴は確かにその額にある角の二倍程度の大きさなのだ。

「マサトさんっ、大丈夫っ!?」

「マサト兄ちゃんっ!」

 自分に向かってきた方のホーンラビットを一刀のもとに切り伏せたのか、俺がホーンラビットに襲われた直後にこちらへと走ってきた。

「大丈夫、大丈夫だ。俺は神様の加護で守られてるって言っただろ? 俺自身も初めて経験したが俺に攻撃したら攻撃してきた二倍の攻撃力で反撃されるらしい。現に、襲ってきたホーンラビットは腹にどでかい穴が開いてるだろ?」

 二人は俺に注目していたのか俺を襲ってきたホーンラビットを改めてみると驚いていた。
 そりゃあそうだ、こんな現象見たことがないはずだからな。

「……すごい」

「ホーンラビットって村の大人でも苦戦する人がいるのに……」

「レイジもきっちり倒してるじゃないか。……しかし、こりゃあ食べられそうにないな」

 角の大きさが魔力大きさに直結していて、魔力の大きさが味を左右すると書かれていたホーンラビットだが俺を襲ってきた方のホーンラビットは腹に大穴が開いていて足くらいしか食べられそうにない。
 それに比べてレイジの倒した方はきちんと首を切られており食用にできそうな部分はすべて残されていた。

「マサト兄ちゃん、魔獣に襲われたんだから肉の心配より自分たちの身体の心配をしようよ」

「マサトさん、魔獣のお肉だけどこれも食べられるの?」

「角が大きい個体のほうがうまいらしいぞ。俺に向かってきた方が角は大きかったけどこれじゃあ足くらいしか食べられないな。レイジが倒してくれた方は木に吊るして血抜きをしておくか」

 肉は血を抜くことによって臭みが抜ける、この世界でもこの法則が当てはまるのかはわからないがやれるのならやってみるべきだろう。
 手でもなんとか持ち上げられる大きさだから川でもあればそこに沈めるのが手っ取り早いのだろうが森の中には自然の流れでできた小さな小川程度はそこかしこにあるらしいが雨が降った直後にしかないらしいし、そもそも小川ではこのサイズの獲物を鎮めるのは無理だろう。
 レモンライムの木を魔獣の血で汚すのも嫌だったので食堂を収納してから少し離れたところまでホーンラビットを引きずって持っていき、食堂を再展開させてロープなんかを取り出して木に吊るし上げる。
 足先のほうに切れ目を入れてあったのでレイジが両断した首のほうからドバドバと血が流れ出る。

「そういえば、二人は魔獣と獣の違いって知ってるか?」

 前々から気になっていたことを聞いてみる。
 一応、獣は畑を狙って、魔獣は肉を食べるから村には基本的に降りてこないと聞いてはいるのだが。

「獣は魔力がなくて草食、魔獣は魔力を持っていて肉食、獣は魔獣に追われたり同種の獣との縄張り争いに負けて村に降りてくるけど、森の中には獣がたくさん来るのと魔獣は数が少ないから村には降りてこないって聞いてるよ」

「なるほどなー。魔力ってのは結局何なんだ?」

「空気中に漂ってる魔素、っていうやつを操るために必要な力なんだって。村の中では調合師さんしか持ってないらしいですよ」

「魔獣は魔力を使うんだけど、今襲ってきたやつは特別なことはしてこないけど強いやつになると火を吐いたり毒をばらまいてきたりなんか変なことをいろいろしてくるんだって」

 火を吐く魔獣が俺に向かって火を吐いてきたら二倍効果で勝手に丸焼きになるのかな?
 いや、相手を殺すつもりで火を吐くんだろうしむしろ丸焦げになるか。

 血抜きがあらかた終わったら、いろいろ怖い内臓は取り出して血と一緒に木の根元に埋めておく。
 前の世界では内臓を食べる文化もあったし、食材鑑定で見る限りでは食用可になっているのもわかっているが勇気が出ない。
 それに、神様の加護で守られている俺が無事でも他の村人が食べたときにどんな反応が出るかもわからないし、もう少しこの世界に慣れてからでもいいだろう。

 俺が倒した、というか俺に向かってきた自爆した方のホーンラビットの足は既に食堂に収納していたので内臓を取り出した方のホーンラビットも同様に食堂に収納しておく。
 これは村に帰った後に処理をしておかなければならないだろうな。

「さあ、レイジもミーナも腹が減っただろう。ここはさっきの魔獣の血で汚れてるから少し歩いてみて開けた場所があったら昼飯にしよう」

「朝一緒に作ったやつですよね? ミーナ楽しみにしてたんですよ」

「僕も僕も」

 久々にレイジも手伝った料理だったからか二人のテンションの揚がり具合が凄い。
 まあ、俺自身もハンバーガーとポテトの組み合わせは楽しみだし、とっとと開けた場所を探そう。

 それから、十分ほど歩いた先に三人が手をつないでも囲み切れないくらいの巨木が生えているエリアにやってきた。
 なんとなく森って言うとこんな感じをイメージするような場所だ。
 あまり日の光が入らないからか下草も生えてなくて木同士の間隔もそこそこに広いのでレベル1の食堂なら難なく展開できるだろう。

「よし、ここで昼飯にしようか」

「やったぁ」

「なんかこんな時間にご飯を食べるなんて不思議な感じ」

 レイジの言う通りこの村では朝飯と夜飯の二食プラスポーションが基本の食事なので昼飯を食べているのは俺くらいなものだ。
 二人に聞いた話では調合師とか村長とかは朝飯を食い損ねて昼に食ってる場合もあるらしいが、基本的に昼は畑仕事がひと段落して昼寝するための時間らしい。

「さて、二人はそっちの椅子に座っていてくれ」

 食堂を展開して二人には客席を勧める。
 俺自身も食うときはそちらに移動するが、なにせ食堂の収納扉はキッチン側にしかついてないから保管棚から昼飯を取り出すにはキッチン側にいるしかない。
 二人の目の前にハンバーガーとフライドポテトのセットをそれぞれ出し、ホーンラビットの血抜きの際に追加で作っておいたレモンライム水も出す。
 ハンバーガーもガーリックバターのフライドポテトも結構味が濃い目だからさっぱりするレモンライン水は合うと思うんだよな。
 一応、食堂内には調味料として紅茶や抹茶も置いてあるんだが砂糖なんかが必要な関係上、紅茶を二人に常飲させるのもどうかと思ってる。
 抹茶のほうは俺自身が試してみたが結構濃い目にできるのでパンとか洋食に合わせるのは微妙な感じだ。
 その内、白根の種を使って麦茶でも作ってみるかな。
 麦茶が大麦から作られているのは知っているけれども小麦から作って作れないこともないと思うんだよな。

「ほら、マサトさんもこっちに来てくださいよ」

「そうだよ、マサト兄ちゃんも一緒に食べようよ」

 二人の言葉に甘えて俺の分もカウンターに置いてから俺も客席側に移動する。
 いつもは食堂のテーブルか調理台を囲んで食事をするから三人で並んで食事をするのは初めてでなんか変な感じがするがハンバーガーの誘惑には勝てない。

「さてと、じゃあいただこうか」

 俺の言葉を合図にするように二人が食事をするのもお決まりみたいになってきた。
 二人もハンバーガーは初めて食べる料理なので俺がお手本代わりに食べ方を見せるのもお決まり。
 包み紙からハンバーガーを半分ほど出し、かぶりつく。
 ハンバーグ自体が手作りなので少し分厚いが両手で支えながら潰すように食べれば俺の口には余裕で入る。
 俺よりも口の大きさが小さい二人でもなんとか入るだろう。

 ハンバーガーは成功のようで、ふかふかのパンに、緑菜のシャキシャキ感、紫トマトからあふれる自然の甘味、そしてたれがしっかりと絡んだハンバーグは元の肉のうまさもあり、この世界に来てから一番うまい料理と思えるだろう。

 ガーリックバターで味付けをしたポテトのほうは若干べたつくのでポテトの皿の傍には人数分のおしぼりも準備してある。
 ハンバーガーだけだったら必要ないかと思ったが、レモンライム水も出したからあってよかったと思う。
 そのポテトだが、塩味もいいと思ったが、こっちもいい。
 斑芋自体が揚げると外がカリカリ、中がホクホクになりやすいのか今回作ったフライドポテトも食感が最高だ。
 塩は斑芋の甘さを引き立てるが、ガーリックバターは斑芋のうまさにぶつかってくる感じで、喧嘩するほどではないが互いが互いの味を主張してる感じが実にジャンキーだ。

 しかも、レモンライム水がニクイ演出をする。
 ハンバーガーもフライドポテトも濃い目の味付けなのでともすると飽きが来るのだが、レモンライム水で口の中をさっぱりさせるといくらでも食べられるのが不思議だ。
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