料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

文字の大きさ
22 / 150
1章 名もなき村

22 帰宅

しおりを挟む
 二人と約束し、龍グルミとドラゴンマッシュルームを必要十分量収穫して、あ、ドラゴンマッシュルームのほうは根こそぎ収穫せずに三分の一ほどは残してある。
 キノコがどれくらいで繁殖して食用に耐えうる大きさになるのかはわからないが、残しておけば村人が入った時に収穫することもできるだろう。

「さて、いろいろ収穫があったけど、これからどうしようか?昼飯も食べたし、収穫でも時間が結構かかったから今日はここまでにしておくか?」

「うん、そうだね。魔獣にも一回襲われてるし、今日は戻った方がいいかも」

「ミーナは先も気になるけど、お兄ちゃんのほうが森には詳しいし、お兄ちゃんの判断に任せるよ」

「だったら、レイジも戻った方がいいって考えてるし今日はここまでにするか。ホーンラビットの解体もしたいしな」

 ホーンラビットは血抜きと内臓抜きをしただけで皮も剝いでないから、解体にも時間がかかるだろうしな。
 ただでさえ、大型犬サイズでデビルボア並みとは言わないけどかなりでかいから解体も大変そうだし。

「ミーナはね、さっき拾った木の実とか、マサトさんが掘ってた野菜とかが気になるな」

「じゃあ、戻って夕飯の準備をしようよ。森にはまた来れるしさ」

「オーケー。じゃあ、レイジもミーナも戻るか。忘れ物とかないよな?」

 ミーナはナイフくらいしか持ってきていないが、レイジは両親の形見である武器を持ってきているのでそれを、俺のほうも食堂から色々出していたので出しっぱなしで忘れているものがないか周囲を確認する。
 包丁はナイフってことで何とかなるかもしれないが、ガラス製のコップや鉄製のシャベルを置いて帰ったら他の村人に見られた時に面倒だ。

「レイジ、帰りの方角は分かるか?」

「もちろんだよ、マサト兄ちゃん」

 すごいな、入口から入ってきたときは確かにまっすぐ進んでいたが、そこからちょこちょこ方向を変えて移動してきたから俺にはここがどこでどっちに行けば村かなんてさっぱりだ。

「頼もしいな。じゃあ、先頭はレイジに任せるよ」

 一応、最後に忘れ物がないか確認してレイジの後についていく。
 方角が分かるといったレイジの言に間違いはなく、迷いのない足取りで森の中を進んでいく。
 いろいろ寄り道していたので、来た時に通ってきた風景とは違うが、周囲を食材鑑定してみてもめぼしい食材は見当たらなかった。
 すでに見つけていたレモンライムと白根がいくつか群生しているのを発見したが、食材としては余りあるほど収穫したのと、やはり魔獣の襲撃からの一連の流れで疲れていたからかわざわざ近づいて収穫しようとは二人も言いださなかった。

 いくら神様の加護があって、誰もけがをしないとは言ってもレイジ自身が一体の魔獣しか受けきれず、俺たちのほうに一体行かせてしまったことを気にしているのか。
 レイジは魔獣や獣が近づいてこないか行きの道中以上に警戒してくれていたし、その緊張感がミーナにもわかっていた、といのもあるのかもしれない。

「マサト兄ちゃん、ミーナ、ほら、村が見えたよ」

 森の出入り口、村が見えるあたりまで来て、ようやくレイジの緊張感は解けた。
 日はまだまだ高いが、解体や収穫物の選別、夕飯の用意をしていれば、あっという間に暗くなるだろう。

「よし、じゃあ早く二人の家まで帰るか。食堂も再展開しないといけないしな」

 村に帰ってきたことで二人の間の空気も弛緩し、足取りも軽くなる。
 獣が出ることが少ない人里にいることと、やはりこの村が二人にとって安心できる場所だからだろう。
 こういった様子を見てしまうと旅に連れていくのはどうかとも思ってしまうが、二人が勇気を出して俺についてきてくれると言ってくれた以上、残った方がなんてまたぶり返すのも二人に対して失礼だろう。

「さて、食堂に帰ったらレイジはホーンラビットの解体、ミーナは白根やドラゴンマッシュルームを使ったレシピの手伝いをしてくれよ」

 レイジは夕方の斑芋撒きには参加するだろうが、解体するホーンラビットは一体だけだしそれまでには終わるだろう。
 ミーナのほうは最近は朝だけの参加になってるのでそのまま夕飯の準備を手伝ってもらおう。
 あとやらなければならないことは、畑に白根を植え替えることとレモンライムや龍グルミを種から発芽させる方法を異界のレシピで調べておくことか。

 レイジとミーナの両親や移住してきた村人たちが戦闘系の天職持ち、あるいは天職がなくてもある程度戦える技量を持っていることから村の外に出ても獣や魔獣に襲われるのだろう。
 そう考えれば、村から出ても食肉に困ることはそんなにないはずだ。
 だが、野菜はそうはいかない。

 食堂内で肉を食材鑑定すると『冷凍保存可能。ただし、味が落ちる』の一文が追加される。
 だが、野菜、それも水分量の多いものほど『冷凍保存不可。食感、味、共に食べるのが不可能になる』の一文が追加される。
 例外は紫トマトをソース状にしたものだが、こちらは入手数が少なすぎてあてにはできない。
 あとは、おそらく今回入手したドラゴンマッシュルームと龍グルミ、あとは毒持ちの斑芋は長期保存が可能だろうが、水瓜や緑菜は数日もすれば萎びてくるし、白根やレモンライムもある程度ならともかく長期にわたっての保存は難しいだろう。

 だからこそ、食堂として認識されている畑がこれからの旅の光明になるはずだ。
 問題は生育期間と食堂を収納している間に作物が成長するのか、という点だろう。
 今まで発見してきた作物は最低でも数十日の育成期間を経ているもの。
 ドラゴンマッシュルームは十日ほどだったが、あれは龍グルミの木にしか生えない。
 龍グルミ自体は百八十日だったが、あれは身を鑑定した結果であって木を鑑定したときには年齢は数百年を超えていた。
 さすがに、実が生るまでそれほどかかるとも思えないが、少なくとも数年はかかるであろうことは容易に想像できる。

「マサト兄ちゃん、ついたけど食堂出さないのか?」

「マサトさん、また何か考え事してましたね?」

 二人のいいところは俺が何か思索していても邪魔をしないところだが、流石に家の前までついておきながら食堂も出さずに思索し続ける俺にはしびれを切らしたらしい。

「悪い悪い、すぐに出すよ」

 森の中ではレベル1だったが、村の中ではレベル3。
 作れる料理の幅も段違いだが、やはり眠れるところを確保できるのは大きい。
 おそらく三人で旅をするときにもレベル3は活躍するだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...