料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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1章 名もなき村

27 かまど

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「村長、おはようございます。昨日はレイジとミーナを貸してくださってありがとうございました。今日は村に共有のかまどを作りたいんですがどこに作ればいいですか?」

「なんじゃあ、改まって。かまどか……火を扱うんじゃろ? わしは詳しくないがなんか注意しなきゃならんことでもあるんか?」

「そうですね、食事を作る場所になるので皆が集まりやすい場所がいいですかね。……あ、でも火が他のものに燃え移ったら大変なんで畑の近くに作るのはお勧めしません」

 何が怖いって、火が畑に燃え移って食料が全滅するのと、こんなことになるなら火なんか使わずに前の生活に戻ればいいって思われるのが怖い。

「……そうじゃなぁ、畑がダメになるのはマズいからの。水がありゃあ少しは安心か?」

「そうですね。料理には水も結構使いますし、危なくなったら水で消火もできるので水場の近くのほうが少しは安心ですね」

 水だけで火を消すのは大変だし、油を使っていたら逆効果だが、この村では大量の油も確保できないし水場の近くのほうが何かと安心だろう。

「じゃったら、川の近くか、井戸の近くか……。どっちも子供が近寄るから危ないもんはあんまり置きたくないが」

「村長、だったら調合師の人の家の近くの広場は? あそこなら村長たちしか近づかないし、井戸も近くにあるよね」

「そういや、アイツに火を付けさせる約束もしておったな。遠いと面倒がって来ん気もするし近くのほうがええか」

 調合師の家は川と井戸に囲まれてるというか、ポーションの生成過程で井戸水が必要なのと汚れものが出るので川の近くがいいとのことで村からは少し外れた場所にある。

「では、調合師の人の家の近くにかまどを作ることにします。とはいっても、鍋などが届かないことには大きさも仮にしかできないので材料を集めておくくらいですが」

「ついでに、アイツに鍋なんかがどうなってるか聞いておくか。ポーションも取りに行くからわしも行くぞ」

 というわけで、村長も連れて四人で調合師の家まで行く。
 村長はポーションを入れるためなのか、大きな籠を背負っている。


「おーい、ポーションをとりに来たぞ。起きとるかー?」

「失礼ね、ポーションを渡してないのに寝るわけないじゃない。寝るのはこれからよ」

 重要な仕事を任されてるのは理解できるが、相変わらず傍若無人というか、村長に対して一歩も引かないやつだな。

「あとはあんちゃんがかまどを作りたいらしくってな、お前さんの家の近くのほうがお前さんも仕事が楽じゃろ?」

「それってさ、危ない物はまとめておけって理論じゃないの?」

「あんまり細かいことは気にするな」

「それより、鍋はどうなった? あんたの伝手とやらで手に入るのか?」

「ちゃんと手に入れるわよ。私の今使ってる鍋が古くなってきたから新しく新調するって話でまとまってるわ」

「じゃあ、大きさはあんたが使ってるのと同じってことか」

 ちらっと見た感じは鍋の大きさは寸胴とはいかないまでもそこそこ大きい。
 しかも形が魔女の鍋っぽいというか、食堂にあるような口と底が同じ大きさのものではなくて、壺を鉄で作ったような形をしている。

「っていうか、今使ってるのを渡すわよ。私は新しく来た方を使うから」

「おいおい、ポーション作ってた鍋で料理しろってか?」

「別に口に入れて害のあるものなんか作ってないんだからいいでしょ」

 そりゃあ、そうかもしれないが薬と食料を同じ鍋で煮るのはどうなんだ?

「まあ、いいや。かまどの大きさを測りたいから一度鍋を借りてもいいか?」

「いいわよ、ついでに川で洗っといてね」

 なんで俺たちが……と思わなくもないが、鍋が手に入るのもこいつのおかげだからそのくらいはしてやるか。

「レイジ、ミーナ、鍋をもってこっちまで来てくれるか」

 鍋を邪魔にならないところに運んできて、地面に木の枝で軽くしるしをつけていく。
 とりあえずはかまどの大きさはこのくらいでいいということだな。
 鍋自体には吊るせるように取っ手がついているから吊るすための台座も作るかな。

「二人はこの鍋を洗ってきてくれるか? 俺は河原から使えそうな石を拾ってきてかまどを作ってみるから」

 それからは、ただひたすらに河原とかまどの往復。
 使えそうな大きさの石を見つけては、拾って、持ちきれなくなったらかまどの場所へと向かう。
 十数往復してようやくかまどを作れる程度の石を拾いきる。

「ねえ、マサトさん。これ、全部河原から持ってこなくても食堂に一度入れてからかまどを作る場所で取り出せばよかったんじゃない?」

 ……。

「……いや、調合師に万が一にも食堂を展開しているところを見られたくなかっただけで思いつかなかったとかじゃないからな」

 本当だよ? 決して忘れてたわけではないから。

「マサト兄ちゃん、これからかまどってやつを作るのか?」

「まあ、かまどって言っても石を組んで火の熱が側面じゃなくて上部に行くようにするだけだけどな」

 コの字型というかUの字型というか、つまりは一面以外を石で囲って風が来ないようにして熱エネルギーが上部に行くようにする。
 本当はその石組に鉄板やら焼き網やらが置けたら最高なんだろうけど、そんなもんはこの村には存在しないから考えないことにする。
 まあ、平らでそこそこ大きな石が見つかったらそれを鉄板代わりの石板にして肉を焼く専用のかまどを作ってもいいが。

「こんな感じで形が合う石を探して組んでいく感じだな。それほど高くなくてもいいけど、火を囲えるくらいの高さは必要だな」

「マサト兄ちゃん、こっちの石のほうが合いそうだよ」

「マサトさん、そっちはこの石のほうがいいですよ」

 そうだ、二人とも器用のステータスが高いから俺なんかよりもこういった作業は得意なんだ。

「二人も手伝ってくれるか? こういう作業は俺よりも二人のほうが得意そうだ」

「「もちろん」」

 三人でなんとかかんとか、かまどを完成させる。
 仮組というか、実際に火をつけてみないと使い心地は分からないが今は薪とかがないので試しようがない。

「とりあえず、鍋を返すかな」

「なーに、やっと終わったの? 外でガタガタやってるから眠りが浅くて仕方ないじゃない」

「文句を言われてもかまどを作ることはあらかじめ言っておいたんだから多少、音が鳴るのくらい我慢してくれよ」

「何言っているのよ。かまどなんて土魔法で作るんだからすぐにできるし、音なんてそんなにしないでしょ?」

「は?」

「……あんたたち、石なんかでかまどを作ったの?」

 確かにこいつの家に合ったかまどは粘土質というか土でできたかまどだったが、あれは人力ではなく魔法で作られたかまどだってことか?
 食堂のかまど……というかコンロが神様の特製ということを考えれば、かまどが魔法で作られていてもおかしくはないのか?

「普通の人間は魔法なんて使えないんだから、人力で作るしかないだろ。それに屋外に置いておくものなんだから劣化したときに普通の人間が直せるもののほうがいいだろ」

「……まあ、それは一理あるわね」

「だから、かまどなんかはこれでいいんだよ。んで、その新しい鍋はいつくらいに到着する予定なんだ?」

「さあ? 在庫があればあと、二、三日で到着するんじゃない? なかったら一、二週間かな」

「適当だな。じゃあ、その間に村の人に食材の場所とか料理の軽い手順とか教えるか」

「で、私に対するお礼。あの美味しくて温かい食事はまだなわけ?」

「は? 今回は持ってきてないぞ。そもそもかまどの場所がここに決まったのも村長がここがいいって言ったからだし」

 正確にはレイジが提案したのだが、許可を出したのは村長だし、村長に会いに行くまで場所が確定していないのにお礼の料理なんて準備しているわけがない。

「なんでよ。私の家に来たんだから何か持ってきなさいよ」

「はいはい、今度来るときにはなんか持ってくるからそれで勘弁してくれ。大体ここで料理を作るようになればあんたが、いの一番に食えるようになるんだからそれまで待てよ」
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