料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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1章 名もなき村

35 ショートブレッド

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「さて、いろいろ話が進んでしまったけど、二人は今の話し合いの内容で大丈夫か?」

 村長以下三人が食堂から出て行って、俺は改めてレイジとミーナに問いかける。
 もちろん、焼きあがったショートブレッドはテーブルの上に出してある。

「ミーナは問題ないですよ。もともと、お鍋が来たら斑芋の料理方法を教えるのは決まってたことですし、それが終わったらこの村から出ていくのも予定通りでしょ」

「僕も問題ないかな。一応、聞いておくけど森の中で僕がみんなに改めて教えることとかある?」

「いや、ドラゴンマッシュルームのこととかは俺が一緒に森に行って説明するから、レイジはこのまま森の中の調査にあたってくれれば大丈夫だ」

 一日程度は俺についてきてもらうことになっているが、レモンライムと白根の同定に関しては村人たちもできるようになってきてるらしいから少しくらい予定が狂っても大丈夫だろう。

「でも、マサトさんはよかったんですか?」

「まあ、行く当てもなかったから、出ていくときには村長あたりに大きな町のある方向を聞くつもりだったしな」

 この世界の情報を何も持っていないのだ、大きい町まで案内してくれるなら願ったりかなったりだ。

「でも、他の人も一緒に来るってなったら食料が足らなくならない?」

 それなんだよなあ、レイジとミーナだけなら最悪、この食堂内の調味料でできる料理だけを食べていてもいいんだが、他の人がついてくるとなるとどうするかな。
 一応、肉は多めに冷凍してあるけど野菜類は冷凍できないし、畑に植えてあるのも収穫までは時間がかかるから使えないしな。

「まあ、獣とか魔獣とか食べられるようなのが襲ってきてくれるのを願うしかないな。最悪、ここの調味料でパンとか作ってもいいんだけど……あんまりここの調味料は教えたくないんだよな」

「でも、もしかしたら向こうも獣の肉とか食べたくないっていうかもしれないですよ? 村の人でも得体のしれないものは食べたくないって拒否してる人もいますし」

「そうだな、深く考えても仕方ないか。レイジ、一応明日からは肉を多めに確保してもらってもいいか、念のためにな」

「いいよ、マサト兄ちゃん。まだ村の中では消費しきれないから結構捨ててるみたいだし」

 ということは、あの襲ってきた男は獣の死体と一緒に埋葬されるわけか。
 勝手に襲い掛かってきたやつとはいえ少しはかわいそうな気持ちになるな。

「そうそう、二人もこのショートブレッドを食べてみてくれよ。冷めてもおいしいけど作り立ては格別だぞ」

 外側カリカリ、中はしっとり、口に含めばほろほろと崩れていくような感触がたまらない。
 有塩バターに含まれる塩分が砂糖の甘さを引き立てていていくらでも食べられそうな感じもするが、カロリーも大変なのであまり食べるとあとで痛い目を見るような感じが最高だ。

「おいしい、パンとは違って硬めなんですね」

「最初は硬いから変な感じするけど、なんかやめられない味がするね」

 そういえば、この二人には甘味は与えていなかったからな。

「作るための材料がまだ見つかっていないから他の人には食べさせられないけど、二人は特別だからな」

「「……特別」」

「そりゃあ、そうだ。二人は俺と契約しているからな。それに多分これからもいろいろ振り回すことになると思うし」

 今までもかなり振り回してきた自覚はあるが、これからは規模が変わるだろう。
 領都に行けばそれこそ、この村の住人以上の人間と関わることになるだろうし、下手をすれば、いや下手をしなくても権力者と関わることになるだろうしな。

「さしあたっては、あの騎士の人、ウィリアムさんとその部下だろうな。いったい何人いるのやら、斥候に来てたのが五人だったから確実に十人以上はいるだろうしなぁ」

「でも、ミーナたちが関わる必要あります?」

「ミーナはさっきのことでまだ怒ってるのかもしれないけど、肉を食べれば力が、斑芋を食べれば素早さが上がるって教えたからな。普通の頭を持っていれば真偽はどうあれ一度は食べてみようとするだろう」

「でも、それにマサト兄ちゃんが協力する必要ってあるの?」

「一応お偉いさんみたいだからな、媚びを売っておいて損はないだろう。それに、二人や村人でも教えてすぐには料理はできなかったんだし、騎士となればなおさらだろう?」

 まあ、媚びを売って損はないだろうけど、得があるとは限らないのが世の中ってものな気もするけど。
 俺の言葉にレイジとミーナは考え込むように黙ってしまった。

「まあ、料理を作ってほしいと言われたら、対価を要求すればいいだけだし。それこそ、レイジに戦い方を教えてもらったり魔獣や獣を狩ってきてもらって食肉にしてもいいし」

 無料でやったら禍根を残すが、有料ならそれは仕事だ。
 実際に、村長や村人たちには労働の免除やら収穫物の融通、森に入っているメンバーからは回収した白根やレモンライムをある程度譲ってもらっているし。

「この村だと、物々交換が主だけど、領都とか大きな町に行けば労働の対価に金銭を払っているだろうし、そうなったらここを本格的に食事処にして稼ぐのも面白そうだしな」

 まあ、そのためには最低限、肉が食べ物として認識されていないと厳しいが。

「だから、まあ、二人もあんまりあの人たちにツンケンしないで普通に接してあげてほしいな」

「まあ、襲われた本人のマサトさんがそういうなら……」

「僕としてもマサト兄ちゃんが気にしてないならいいけど……」

 渋々だが、二人にも納得してもらえたのでほっとする。
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