料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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1章 名もなき村

34 話し合い

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 ショートブレッドの生地をカットしてオーブンに入れた時に食堂の表がにわかに騒がしくなってきた。

「レイジ、ミーナ、なんか外が騒がしくないか?」

「村長の声が聞こえるけど……」

「調合師の人とさっきの騎士の人の声も聞こえますよ?」

「レイジ、ミーナ、ちょっと外の様子を見てきてくれないか?」

 二人は俺の言葉にうなずきつつ食堂の外に出ていく。
 俺に用事があるんだろうけど、もし違ったら自意識過剰みたいで恥ずかしいしな。
 それに、初めてショートブレッドを作っているからオーブンの前から離れたくないっていうのも事実だ。

「マサトさん、三人ともマサトさんに用事があるみたいだから食堂の中に案内してもいいですか?」

「ああ、俺に用事なら中に入れてもいいよ」

 流石にショートブレッドを食べさせるわけにはいかないが中に入れるくらいなら構わないだろう。

「あんちゃん、なんじゃこりゃあ。わしの家よりも豪華じゃぞ?」

「なになに、どういうこと? こんな家どうやって建てたわけ? それにこのテーブルも椅子もなんでこんな村にこんな家具がいっぱいあるのよ?」

「マサト君、君はよそからこの村にやってきたんだろう? なのにどうやってこんな家を用意したんだ?」

 とりあえずやってきた三人の質問攻めがうざい。

「あー、この家……というか、食堂は神様から贈られたものなんでどうやって、とか何、とか聞かれても俺には答えられない。それよりも三人でやってきて俺に何か用ですか?」

 食堂を発見して質問攻めにするために来たわけではないことは俺でもわかる。

「村長は案内役、私はお目付け役、用事があるのはウィリアムよ」

「マサト君、君には私がこの村までやってきた理由を話していないと思ってね」

「? ウィリアムさんは調合師の要請で新品の鍋を持ってきてくださったんでしょう?」

 確か、二人の会話の内容からそんな感じでやってきたはずだ。

「鍋を持ってくるだけなら私が来る必要はないよ。これでもこの領の騎士団長だからね。私の用事は領主様の要請でこの村の食料を増やしてくれた君を領都まで連れていくことだよ」

 領主様からの要請……とはいえ、この村は領内に存在しているから実質的には強制的な命令ってことか。

「言っとくけど、彼はこの村の住人ってわけじゃあないからいくら領主様だろうと命令は無理だからね」

「だが、余所者とはいえこの村のポーションを飲んでいるんだろう? だったら、正式な住人ではなくても従う義務があるだろう。ポーションは領主様から与えられる材料で作られているし、調合師である君の給料も領主様から出ているのだから」

「彼がこの村のポーションを飲んでいればね。私が把握している限りでは彼はこの村のポーションは飲んでいないわよ」

「ですね。そもそも、きちんとした食事をとっていれば治療以外ではポーションは不要ですし」

「なっ!? では君はポーションなしで生きているというのか?」

「最近ではここにいる二人、レイジとミーナもポーションは飲んでいないですよ。神様曰く、空腹をごまかすためにポーションを飲むのは本来想定していたことではないらしいです」

 ここで、俺は神様から言われたあれこれをここにいる三人に伝えることにした。
 神様の加護がきちんと発動しているのは確認できたし、食堂裏手の畑に作物も植えてあるのでここを追い出されても何とか生きていくくらいはできるだろうと判断したからだ。
 この世界の食糧事情、ポーションを飲むことの弊害、そしてステータス。
 俺に理解できている範囲でのこの世界の情報を教える。

「……むう、確かにこの村では大人も子供も力は変わらんのお」

「……ちゃんと食べてないから力が出ないし、そのせいで魔獣を倒すのも苦労してるってわけ?」

「一応、俺が確認した範囲では野菜を食べるだけじゃあ、器用度が上がるだけだ。力を上げるためには肉を食わないとダメだ。あと、斑芋を食べると素早さが上がるのは確認している。他のは検証中だな、神様も全部教えてくれたわけじゃなかったし」

 この村の主な食べ物で言えば、緑菜は器用、斑芋は素早さ、肉類は力が上がるのはレイジとミーナで確認済み。
 あとは、頑健、知力、運のステータスだが、頑健は二人とも2になっているから何か秘密があるんだろうが他二つはいまだに1だからよくわからん。

「でもさあ、村の中で生きていく分にはそんなに変わらないんじゃない?」

「力が上がれば収穫物を一度にもてる量も変わるし、木を切ったりする作業も楽になるだろう? おそらく、この村で農機具とかを自作できたり自分たちで修理できるのは器用のステータスが高いからだろうし」

「それを聞いてしまったら是が非でも領都まで一緒に来てほしい。ポーションを使っていないのならこちらとしてはお願いするしかないが伏して頼む」

 伏して頼むって言いながら本当に頭を下げてきた。

「いやいや、頭を上げてくださいよ。この村でやるべきことをやったら旅に出るつもりだったんで領都に行くのは別にいいんです。でも、それは今じゃないんですよ」

「どういうことだ?」

「この村で作っている斑芋は毒のある植物でそれを使って獣退治をしているんですけど、鍋があれば毒抜きが可能なんです。そして、さっきも言ったように斑芋を食べれば素早さが上がるので斑芋の毒抜きを教えるまではこの村から離れるわけにはいかないんですよ」

「じゃが、あんちゃん。それくらいなら口頭で教えておけばええんじゃないか?」

「斑芋の毒は下手をすれば死者が出るほどなんできちんと教えておきたいんですよ。それに、森でも毒性のある植物をいくつか見つけているんでそれも教えたいですし」

 多分、口にはしないだろうがドラゴンマッシュルームのヤバさくらいは教えておきたい。

「ふむ、ではその辺のことが終わったら私たちと一緒に領都まで来ていただけると?」

「そうですね。レイジとミーナ、この二人も一緒に連れていくことになりますが、それでもよろしければ数日のうちにこの村からは旅立てるでしょう」

「あのさあ、旅立つのはいいけど、こっちは君のせいで商売あがったりなんだけど。私はこれでも腕の立つ調合師なんだけど、君のせいでポーションの需要は減ってるし、これじゃあ、料理の火をつけるためだけに存在してるみたいじゃない」

「そんなこと言われてもな。……だったら、あんたも新しい調合でも研究すればいいじゃないか、それこそこの村はこれからポーションの需要が減るんだから新米にでも任せてさ」

 個人的には空腹をごまかすためのポーションではなく、腕や足が無くなっても再生するようなポーションでも開発してほしい。
 俺が死んだ後にやってくるであろう善人のためにも。

「……ふうん、いい考えね。確かにこれからのこの村なら新人の子でもなんとかなるし、私は王都に戻って研究に励むのも王国のためよね」

「おいおい、二人とも勝手なことばかり言うなっ。確かにこの村の食糧事情はよくはなっておるが、まだまだポーションの需要は多いんじゃ。勝手にいなくなられたら困るぞ」

「そうだぞアイリーン。領主様や国王様の了解も取らずに勝手は許されないぞ」

「わかってるわよ、ちゃんと先に上に了承をとるに決まっているでしょ。話し合いが終わったなら私は家に戻って手紙を書くけど大丈夫?」

「ああ、こちらとしては領都に来てもらえれば問題ない。マサト君、鍋と板金は先ほどの広場に用意してあるからあとで来てほしい。我々もあの広場で世話になることになっているからな」
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