料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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2章 領都

05 ヘビースネーク

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「マサト兄ちゃん、ご飯食べ終わったんならさっき狩ってきた獲物をみてよ」

 そういえば、レイジはデビルボアとヘビースネークを狩ってきたとか言っていたな。
 デビルボアは分かるのだが、ヘビースネークは食べられるのだろうか?

「わかったわかった」

 外に出てみれば、百キロ超のデビルボアと、デビルボアと遜色のないレベルのでかい蛇がとぐろを巻いて鎮座していた。
 内臓は抜き取られているようで、デビルボアの腹には大穴が空いているし、蛇のほうは腹側が裂かれていた。

『個体名: 種族:ヘビースネーク 年齢:十歳 食用:可 牙には猛毒があり、噛まれてしまえば毒に耐性のない生物では一時間以内に死んでしまう。肉は淡白であっさりとしているが、骨が多いのできちんと捌かないと食肉にするのは難しい。味は鶏肉に似ている』

 おお、牙には毒があるけど身にはないのか。
 それに、鶏肉に似ているってことは唐揚げやテリヤキチキンなんかにも挑戦できるかもしれないな。

「レイジ、ヘビースネークは牙に猛毒があるらしいから牙は慎重に解体してくれ。身には毒がないから食用にはできるけど、骨が多いらしいから捌くのが手間かもしれない」

「美味しく食べられるの?」

「そうだな、デビルボアやフライラットとは違った味わいの肉なのは間違いないな」

「だったら、手間がかかるくらいいいよ。だから、このお肉を料理するときは一番に僕に食べさせてよ」

「ああ、もちろんだ」

 味を見てからになるだろうが、もも肉に近い感じなら唐揚げ、胸肉に近い感じならとり天にするかな。
 ただ、これ一頭だとみんなに出したらあっという間になくなってしまうだろうな。
 実際、ホーンラビットの肉は三人で食べたらすぐになくなってしまったし、あの後は森に行ってもホーンラビットには出会わなかったらしく、まさに幻の味となってしまった。

「マサト君、こちらのデビルボアのほうは食堂内に運び込んでもよいのかな?」

「ええ、デビルボアのほうは俺もミーナも解体に慣れていますので食堂に運んでもらえれば解体しますよ」

 道中で獣を狩って食料にする、というのもいい案だとは思ったのだが運び込んだり解体したりと時間がかかってしまうのが難点だな。
 食料を増やそうとすれば時間がかかって、その分消費のほうが多くなってしまう。
 かと言って食堂内の食料だけだと全員分の食事は難しいし……。
 まあ、バランスをとっていくしかないか。
 最悪、解体は夜寝る前にやるしかなくなるかもしれないが……。

「わかったよ。おいっ、デビルボアは食堂内に運ぶことになったぞ。手が空いているものは食堂名に運び込むように」

「ミーナ、俺たちは食堂の中で解体の準備をしよう。とりあえず、部位ごとに解体したら冷蔵庫に入れておけばいいから」

「そうですね、時間もかかりますし細かく切り分けるのは夜にやりますか?」

「ああ、レイジとミーナにはパンも作ってもらうから大変だろうけど頼むな」

 やることが多くて大変だが、やるしかない。
 パンはフランスパンにするにしても、一日で一人一本は食べるだろうから二十五本くらい。
 この世界の人間は昼はあまり食べないみたいだから、昼飯はショートブレッドとかでもいいかもしれない。
 あれならこの前作った量で五~六人分にはなるだろうから五倍程度の分量を作っておけばなんとかなるか。

「でも、マサトさん。そこまで必死になってやるくらいなら、他の人たちに手伝ってもらった方がいいんじゃないですか?」

 ミーナの言うことはもっともだ。

「そうだな、確かに騎士の人たちに手伝ってもらった方が何倍も早くできるだろうな。村の中ではそうしていたし、その方がいいかもしれない」

「ですよね」

「でもな、俺は領都についたらこの食堂で商売をしていきたいんだ。金を受け取って、いろんな人たちに料理を提供する。そうして多くの人たちに料理の良さとその作り方を伝えていきたいんだ」

 こちら側の文字を習得するのが難しい以上、料理の技術を広めるのは口伝になるだろう。
 だったら、少数のお偉いさんに料理を披露するよりも一般市民の中で店を立ち上げて食事処にするのが手っ取り早い。
 難点は権力者には煙たがられることだろうが、神様の加護があれば多少の荒事なら問題なく対処できるだろう。
 それに、料理人の天職持ちを見つけて育てていけばそのあたりの不満も次第に解消していくはずだ。

「お金……必要ですか?」

「そうだな、村では労働を対価に食料を分けてもらっていたけど領都みたいに大きな町ではそうもいかないだろうし、みんなお金で食料を売買しているんだからそのルールは守らないと」

「そう……ですよね」

「まあ、ミーナにとっては初めてのことだらけで戸惑うだろうけど、美味しい料理を作っていればなんとかなるさ。村でだってそうだったろ?」

 考えてみれば、村でレイジとミーナが自由に俺の傍で料理をしていられたのは村長が斑芋と獣の肉を美味しいと認めてくれたからだと思う。
 あれが口に合わなかったら、こうして村の外に出ることもなく村長の畑の手伝いを今でもしていただろう。

「そうですね。ミーナにできるのはマサトさんの作る料理を全部教えてもらってそれを作ることだけですから、深く考えるのはやめます」

「まあ、だけってことはないんじゃないか? 俺の教える料理を作るのもいいけど、ミーナが何か思いついたらそれを作ってみてもいいんだぞ?」

 料理の歴史は創作の歴史、こうやったらよくなるとか、あの材料に変えたらどうだろう、とか考えて出来てきたものだ。
 それにミーナは料理人の天職持ち、俺が教えるものよりもこの世界に合っている料理を作り出す可能性は高い。
 結局のところ、俺が作っているのは前の世界の料理の再現に過ぎないからな。 
 根本的に食材が違うのだから、完璧な再現は不可能なのだ。

「マサトさん。ミーナは何も知らないんですから、マサトさんがちゃんと教えてくれないとダメですよ」

 少し俺に依存しすぎてるような気もするが、拾った子は最後まで面倒見るのが義務なんだよな。
 まあ、ミーナはまだ十歳、これから成長していけばもっと積極的に自分の世界を広げていくんだろう。
 デビルボアをミーナと二人で解体しつつ、俺はそんなことを思うのだった。
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