料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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2章 領都

09 フランスパン

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 ヘビースネークのから揚げは好評のうちに終了した。
 落ち着いたころに俺とミーナもちゃんと食べたが、少し油がきつかったのでレモンライムの汁を絞って食べていたらウィリアムさんを含めた騎士の人たちに恨めしそうな目で見られた。
 とはいえ、レモンライムはそこまで数を確保していないのでみんなに配れるほどにはない。
 まあ、食堂内にはレモン汁もあるのでそれを渡してもいいのだが、この世界で見つかっている食材を渡すのは神様の頼みに反するのではないかと思って次に作るときにはつけるということで了承してもらった。

「マサトさん、今回焼くパンはいつものとは違うんですよね?」

「騎士の人たちが相手だからね、今回は硬めのパンを焼いて食べ応えがあるようにしようと思ってね」

 フランスパンを作ろうと思ったのは成形時間の短縮が理由だったが、騎士の人たちの夜飯の食べっぷりを考えると硬めのパンのほうが腹持ちがいいだろう。

「使う材料はいつも作っているパンとほとんど変わらないけど、今回作るパンは薄力粉と強力粉を混ぜるんだ」

「その二つって何か違うの?」

「小麦の種類が違うらしいけど、見分け方は割と簡単で手で握ったときに固まるのが薄力粉で固まらないのが強力粉だ」

 グルテンの生成量とか言い出してもレイジもミーナも理解できないだろうし、俺も理解できてないから見分ける方法だけわかっていれば十分だろう。
 まあ、食材鑑定すれば薄力粉か強力粉かは簡単に見分けられるんだが。

「小麦粉以外は違いはないんですか?」

「パンの成型方法が違うぞ。いつもは丸めるだけだけど、今回のは細長く伸ばして上面に切れ目を入れるんだ」

「切れ目? いつもは入れてないですけど、今回のに入れるんですか?」

「今回作るパンは硬いからな、焼いても膨らみづらいから切れ目を入れて膨らませやすくするんだ」

 いつも作っているパンには少量の油を混ぜているが、フランスパンには油やバターを入れないからクープを入れる必要がある。

「そうなんだ、いつものやつに切れ目を入れたらどうなるの?」

「切れ目のところが盛り上がるだろうな。そこに砂糖とかをまぶすパンもあったはずだ」

 ここまで忙しくなかったら調味料だけで作れる菓子パンなんかにも挑戦してみたいが今は実利優先だな。
 レンジなんかを駆使して発光時間を短縮するレシピもいくつかあるみたいだけど、大量に作るのは難しそうだから今回はやめておこう。

「じゃあ、パンの作り方を教えてもらってもいいですか?」

「そうだな、とはいえそこまで難しい物じゃない。粉を混ぜて、そこに水を少しずつ加えて混ぜていく。割とすぐにまとまるから、それを発酵させる」

 この辺まではいつも作っているパンとそこまでの違いはない。

「形の作り方がいつもと違って生地を三つ折りにしたり、転がして棒のように成形したりするんだ。その時に閉じたほうは下側になるようにしてオーブンで焼く」

「閉じたほうを上とか横にしちゃダメなんだ?」

「そこが切れ目になって、そこから膨らんでしまうらしい。形がいびつになったり全体のふくらみが悪くなるからそうするみたいだ」

 正直、異界のレシピだよりで作ったことがないので自信はない。
 まあ、三人で作っていればそのうち慣れるだろう。

「じゃあ、作ってみます」

「そうだな、休ませる時間とか、発酵の時間とかが結構あるから合間合間にショートブレッドのほうも作っていこう。こっちは明日の昼めしというか、移動中に食べられるようにしよう」

 ショートブレッドのほうはスタンドミキサーで作ってみよう。
 流石にフランスパンを作って疲れたところでショートブレッドの生地まで捏ねていられない。

「マサト兄ちゃん、他にすることはあるの?」

「あとは、斑芋の毒抜きもしておこう。今のところ素早さを上げられる食材は斑芋だけだからこっちも積極的に使っていかないとな」

「じゃあ、お兄ちゃんは斑芋のほうをお願い、マサトさんとミーナはショートブレッドを作りましょう」

「そうだな、レイジ、頼めるか?」

「もちろんだよ、マサト兄ちゃん」

 作業量の多いショートブレッドづくりは天職持ちのミーナのほうが適任だ。
 レイジはミーナほどうまく斑芋の毒抜きはできないけど、削る量が少し増えるだけなのでレイジに任せても大して出来栄えに差はない。

「この斑芋はフライドポテトにするの、それとも粉ふきいも?」

「これは、ポテトサラダにしようと思ってな。茹でた斑芋を潰してマヨネーズとか胡椒とかを混ぜた食べ物だ」

「斑芋を使った料理もまだまだあるんですね」

「そうだな、ポテトサラダにひき肉を混ぜて油で揚げればコロッケになるし、芋は煮物なんかにもよく使うから食材が増えてきたら使う機会もどんどん増えるだろうな」

 ぶっちゃけ料理は食材を組み合わせて作るものだから、食材が増えれば増えるほど作れるレシピが増えていくんだよな。
 要するに食材がほとんどない今が一番つらい。
 早く領都について卵と鶏肉が食材になりうるかどうかを確認したいよ。

「もしかして、ハンバーグも油で揚げると違う料理になるの……なんて」

「お、レイジ、よくわかったな。ハンバーグを油で揚げるとメンチカツになるぞ」

「えっ、そうなの? 食べてみたいなあ……」

「メンチカツもコロッケも作るのに卵が必要だから、領都についてからになるだろうなあ」

 卵さえあれば食堂内の調味料と合わせれば大体の揚げ物は作れるようになるはず。
 あとは食材があるかどうかだから、領都に料理を広め終わったら海にもいってみたいな。

「そういえば、さっきウィリアムさんと何かしてましたけど何をしていたんですか?」

「ああ、ウィリアムさんに裏の畑とか二階を見てもらおうと思ったんだけど、ウィリアムさんは食堂のキッチンの中に入ってこられなかったんだよ」

 出会ったばかりのことのレイジとミーナは二階に上がっていっていたからウィリアムさんにも二階を見てもらおうと思ったんだが見えない壁があるようにウィリアムさんはキッチンのカウンターの奥に入ってこられなかったんだよな。
 何人かの騎士の人にも協力してもらったんだが、キッチン内に入ってこられた人はいなかった。

 レイジとミーナは普通にキッチンの中に入ってきているから、理由としては従業員としての契約書にあると思う。
 あれを使ったことによって、この世界の人間が従業員とそれ以外に分かれてしまったんだろう。
 レイジとミーナが自由にキッチン内や二階に行けていたのは契約書を交わす前だし、そのあとも二人同時に契約したから二人は従業員。
 おそらく、契約書を交わす前だったらウィリアムさんも中に入っていけたのだろうが確かめるためには契約書を交わしてもらうしかないが、流石にウィリアムさんを従業員にするわけにもいかないし領都について天職持ちが見つかったら確認が必要だな。

 とはいえ、これで畑の作物や食堂内での盗難については気にしなくてもよくなったってことだからよかったとするしかないな。

「あと、食堂を展開しているときは騎士の人たちには食堂内のトイレを開放することにしたから、夜は二階のトイレを使ってくれよ」

 あれだけ食べていたんだ、出すものも大量にあるだろう。
 野営しているときには茂みなんかでするらしいんだが、せっかく食堂内にトイレがあるのに危険を冒して外でするのもばからしいので開放することにした。
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