料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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2章 領都

08 唐揚げ

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「美味いっ、マサト君、君の作った唐揚げという料理は肉の可能性を感じさせるような料理だな」

 まあ、この世界では焼くのはもちろん、油で食材を揚げるなんてことはないからな。

「レイジはどうだ?」

「美味しいよ、マサト兄ちゃん。噛みしめる度に肉の中から油と肉汁が出てきて口の中から幸せになっていくような感じだよ」

 俺とミーナも味見で先に一つだけ食べてみたが外はザクザク、中はジューシーでこれで米があったら茶碗で二、三杯は食べられそうな感じの味だった。
 周りのテーブルではまだ食べられていない騎士の人たちが恨めしそうな目でレイジとウィリアムさんを見つめている。

 食堂内には大容量のフライヤーがあるとはいえ、流石に二十人分以上の分量を一回で揚げることは不可能なので先にレイジとウィリアムさんに出したというわけだ。
 本日のメニューは、ヘビースネークの唐揚げ、緑菜と白根のコンソメスープ、それになけなしのパンが一個だ。
 定食というには少し弱いが、唐揚げは一人当たり一キロほど用意できるからおかわり自由にしてあるから、流石に満腹にはなるだろう。

「皆さんの分も直ぐに揚がりますから、もう少しだけ待っててくださいね」

 ヘビースネークは野生の獣だから、中身が生にならないように揚げ時間は多めにしてある。
 これが管理された鶏とかならそこまで気を使わなくてもいいのだろうが、病原菌やら寄生虫やらが怖すぎる。
 まあ、そんなことをこの世界の人間に言ったら、ポーションがあるから大丈夫、とか言われそうだが……。

「よし、揚がったぞ。ミーナ、近いほうから順にカウンターに置いて行ってくれ」

 食堂として経営するなら客席まで運ぶのがいいのだろうが、従業員が足りないのと客が騎士の人たちだけということで自分の席に運んでもらう形をとっている。
 まあ、この食堂はセルフサービスの形態もとれるようになっているのか、大量のお盆も食堂内にあったので何とかなっている。

「美味いっ!」

「こんなことならあの時も牙だけ採っていくんじゃなくて肉も確保しておくんだった」

 ヘビースネークの牙は武器として優秀だからか、それなりの技量を持っている騎士ならば出会ったら倒すのが当たり前らしい。
 ただ、これまでは牙以外には需要がなかったために、牙を取り出したら死体は魔獣の生息エリアに捨てていたらしい。
 人里近くにそのまま放置すると魔獣が下りてくる切っ掛けになるし、あの巨体を埋めるのは重労働なので捨てに行くのが効率的らしい。

 とはいえ、肉の味を知ってしまった以上これからは捨てるなんてことはしなくなるのだろう。
 ただ、ヘビースネークは個体数がそんなに多くないのか、牙の需要に供給が間に合っていない状況らしいので次に出会えるのがいつになるかはわからないらしい。
 だから、今日、明日で食べつくしてしまえば当分の間はヘビースネークを食べられることはないのだろう。

「団長、明日からはヘビースネーク中心に探しましょうよ」

「そうですよ、鍛冶師連中も槍の数が足りないってぼやいてたじゃないですか」

「アホかお前ら、俺たちが第一にするのはマサト君たちを領都まで連れていくことだ。確かにこの料理はうまいが、そこをはき違えるなよ」

 ですよね、確かにこの唐揚げはおいしいがそれだけで予定を変えることはできないだろう。

「まあまあ、皆さん。領都についてキラーバードが食用可能でしたら、そちらの肉で唐揚げを作ることも可能ですし、卵が使えればデビルボアの肉も揚げ物にできますから」

「そうか、領都についたら新しい料理が食べられるのか」

「いやでも、領都についたら領主様が優先されるだろうし、俺たちが食べられるのか?」

「ってことは気兼ねなく食べられる今回の任務は役得ってことか」

「お前らいい加減にしろっ! マサト君がこれからどうするかは領主様とマサト君の話し合いで決まる。あと、このことで領都に残ったやつらに自慢話なんかするなよ、私が責められるんだからな」

 まあ、簡単な任務だから見習いに任せてベテランが残ったのに、その見習いは旨いもの食って帰ってきたなんて聞いたら残ったベテランからは文句が出るだろうな。

「マサト兄ちゃん、僕食べ終わったから手伝うよ」

「おっ、そうか。じゃあ、ミーナと代わって唐揚げを皿に盛ってカウンターに出してくれ。ミーナは俺と代わってフライヤーのほうを頼む。俺は明日の仕込みに入るから」

 明日はヘビースネークの残りの肉を照り焼きにして出そう、あとは斑芋のほうもメニューに載せたいから毒抜きだけでも済ませておかないとな。
 騎士団のほうで運んでいる斑芋は領主様に渡すようだから使えないが、食堂内には大量の斑芋があるから毒抜きの時間が取れるなら積極的に使っていきたい。
 とはいえ、パンは焼く予定だから粉ふきいもにするのもアレだな……。
 フライドポテトかマッシュポテトか……。

 そうだな、マッシュポテト、というか具無しのポテトサラダにするか。
 本当は水瓜なんかを入れて食感を変えたいんだが、二十人分の水瓜は用意できない、というか水瓜は種でもらっただけでまだ植えてもいないから食糧庫にも冷蔵庫にも入っていないだよな。

 マッシュポテトは基本的に牛乳を入れる料理なんだが、牛乳、というかミルクはまだ発見できてないし、マッシュポテトを牛乳なしで作るとポテトサラダとの違いがどれだけ芋を潰すかくらいしかないから、荒く潰しても許されるポテトサラダのほうがいいだろう。

 あとは、パンやショートブレッドを作る時のためにバターを常温に戻しておくくらいか。

 そういえば、夜飯の準備をしているときに気が付いたんだが昼に準備をして放置していた唐揚げ用のヘビースネークの肉や白根と緑菜のスープが食堂を消した時の状態だったんだ。
 どういうことかというと、肉は漬けた時の状態で見つかって漬け具合が足りなかったから揚げるまでに三十分ほど放置する必要があったし、スープのほうは温度がそのままだったので温めなおす手間がなかった。

 要するに、この食堂内は消した瞬間に時間が止まって出した瞬間に時間が進み始めるらしい。
 ということは、肉を冷蔵庫に入れなくても食堂を消してしまえば腐ることはないということだ。
 逆に言えば、パン生地なんかを出発前に大量に用意しておいても食堂を消してしまえば発酵はそこで止まるので、朝にパン生地を用意して昼に止まった時に焼く、といったことはできないらしい。

 あと、変化が分からないのは畑の方だな。
 こちらは変化が出るまで時間がかかるから、食堂を消している間に作物が成長しているのか、止まっているのかがわからない。
 もし、畑の方も時間が止まっているのなら旅の最中は畑の作物が育たたないことになるから、拠点を移動する際には多めに野菜や肉を仕入れておかないとまずいことになるな。
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