料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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2章 領都

20 鶏がら

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 パウンドケーキはショートブレッドとは違って焼いている最中に一度取り出して真ん中に切り込みを入れないと膨らみ方が不均一になるので、取り出して切り込みを入れていると、ミーナもイーリスも驚いていた。
 まあ、焼成時間は見えるようになっているから、途中で取り出し始めたら何事かと思うのも当然か。

 その後は、焼きあがるまで時間がまだまだかかるので、レイジの手伝いだ。
 獲ってきてもらったキラーバードの内、もも肉は唐揚げにしてしまうのですべて一口大にして、胸肉や手羽の部分はまた違う料理に使うのでとりあえずは冷蔵庫行きだ。
 旅の途中とは違って食堂もレベル4にしているので冷蔵庫の容量がアップしているからこの程度の肉ならすべて入る。
 まあ、旅の途中で備蓄がかなり減っているからレベル3の状態でも全部入っただろうけど。

 肉はレイジとミーナとイーリスに任せて、俺のほうはキラーバードの骨を使って鶏がらスープが作れるかどうかの実験だな。
 村にいた時にデビルボアの骨で豚骨ならぬ、ボア骨スープを作ろうとしたときにはかなりの悪臭が発生して断念してしまったんだよな。
 今回は悪臭が発生しないと良いんだが……。

「マサトさん、その骨を使って何をするんですか?」

「ああ、ミーナ。鳥の骨を使って鶏がらをとってみようと思ってな。食堂じゃあ、顆粒の出汁があるから必要はないんだが、領都にある食材で出汁が取れないとスープが貧しくなるからな」

 俺たちがいるうちは出汁だろうが、味付けだろうが食堂の調味料で何とでもなるからいいだろうが、村の時のようにその地域で採れる食材で作れる料理レシピを残しておかないと料理が定着しないだろう。

 血合いや余分な脂なんかはきちんと掃除して、キラーバードの骨は一つ一つが大きいから軽く切断して鍋に入る大きさにしていくか。
 本当は生姜とかネギとかの香味野菜があればいいんだが、この世界では見つかっていない以上我慢するしかない。
 綺麗にしたキラーバードの骨と水を入れてひたすら煮込んでいく。
 あとは、ガンガンに沸騰させないように火加減を調整しつつ、アクが出てきたら取り除くだけで鶏がらスープの完成だ。
 ……とはいえ、煮込み時間は短くても一時間、普通に見積もれば三時間以上かけるからここからは指示を出しつつ俺は鍋の番だな。

 唐揚げのほうはヘビースネークで作った時には醤油やおろしにんにく、おろししょうがで味付けしたが、今回は塩のみの味付けにしてもらう。
 キラーバードの肉、斑芋から取れる片栗粉、あるいは白根の種から作れる小麦粉、そしてこの領地では普通に手に入る塩だけを使えば、あとは揚げ油さえどうにかなれば唐揚げもこの領地で作れる料理の仲間入りだ。

 油はデビルボアの脂身か、龍グルミの油が現実的なところかな。
 前の世界なら農業が発達するまでは鯨の油とかを使っていたらしいんだが、この世界に鯨が居るかどうかはわからないし、存在したとしてこの領地まで持ってこられるかも不明だからな。
 あとは、菜の花とか植物の種なんかからも油をとっていたみたいだけど、この世界での花の扱いって雑草扱いか、来年の種を採る用なんだよな。

 肉の分割が終わった三人には夕食用のスープに取り掛かってもらう。
 キラーバードの鶏がらスープは四人で食べる分にしては多いけれど、騎士の人たちが大勢やってきたら確実に足りないだろうから、普通に粉末のコンソメを使ってつくってもらう。
 領主様たちに出すわけじゃないから具材には緑菜と斑芋だけを入れる。
 というか、緑菜はともかく斑芋も在庫が少なくなってきてるからどうにかしないといけないんだよな。
 もちろん、白根の在庫はほとんどないから領主様に出す分も怪しい感じだ。

 逆に領都近辺で作られている緑菜、紫トマト、水瓜は豊富にあるみたいだからその内、領主様かウィリアムさんにでも交渉して譲ってもらおう。
 とりあえず、肉と緑菜と紫トマトがあればひとまず体裁は保てるからしばらくはパンとスープとメインだけでしのいでいこう。


「マサト君、唐揚げはできているかね!?」

 鶏がらスープもそろそろ出来上がるかという時間、外はそろそろ日が沈もうかというときになってウィリアムさんが三人の騎士を伴って食堂へとやってきた。

「準備はできていますよ。揚げたてのほうがおいしいのでウィリアムさんが来るのを待ってたんですよ。それよりも今日は人が少ないですね」

「移動中ならともかく、領都についたらそれぞれ訓練や仕事があるからね、流石に全員でなだれ込むことはできないよ」

 なるほどそうか、村から領都までの旅にはウィリアムさんと俺に突っかかってきた人以外は見習いの人だらけだって言ってたからある意味で無礼講みたいな感じだったんだな。

「ウィリアム、私のことをきちんと紹介してくれないと困りますね」

「おお、すまない。マサト君、彼は私の副官でライアン。彼は私がいない間の騎士団をまとめたりしてくれて私が一番信頼している騎士なんだ」

「はじめまして、キミがウィリアムが言っていた流浪の料理人とか名乗っている人ですね。ウィリアムをどうやって騙したのかはわかりませんが私はそんなに簡単に騙されはしませんよ」

「ご丁寧にありがとうございます。私はマサトというものです。そうですね、ウィリアムさんを騙したかどうかはわかりませんが、料理を作って食べてもらうのが料理人なのでライアンさんにもぜひ料理を食べてほしいですね」

 騙した……か、おそらくは食材を勝手に加工して料理として出していることか、それとも神様の加護云々か、あるいはステータス関連か……まあ、そのあたりだろうな。
 料理に関することなら食べてもらって気に入ってもらうしかないし、ステータスに関しても食べ続けてもらうしか証明方法はない。
 神様の加護関係は食堂を見ても信じてもらえないなら、証明方法はないなあ……いくら何でもウィリアムさんが一番信頼しているとかいう人相手に攻撃を反射させるわけにもいかないし。

「ミーナ、唐揚げを四人分よろしく。レイジは食器とパンを準備して、イーリスはスープを頼む。……本日はウィリアムさんたちがとってきてくれたキラーバードの肉をつかった唐揚げをメインに緑菜と斑芋のスープとパンです。食材の補充が間に合っていないので質素ですが、ご了承のほどを」

「マサト君、それで質素と言ってしまえば領主様くらいしかまともな食事をしていないことになるよ。ところで、キラーバードの卵は出ないのかい?」

「てっきり、大勢でやってくると思っていたので大量に作れない料理は除外したんですよ。卵の料理は冷めてしまうと美味しくないものが多いので今日は準備していません」

「だが、この人数くらいなら出せるんだろう?」

「……わかりましたよ。皆さんには特別にキラーバードの卵も用意させていただきます」

 まあ、オムレツくらいなら俺でもできるのは昼に実践済みだから、俺が作るか。
 今日のメニューは領地で作れる料理ってコンセプトだから、オムレツはプレーンで作って味付けはケチャップ……こっちは領地で作るなら紫トマトのソースになるが、今回はあらかじめ作ってないから食堂内のケチャップを使うか。
 スープのほうもあらかじめレイジにはウィリアムさんが来たら俺が作っていた鶏がらスープで作った方を出すように言ってあるし。

「さあて、料理の準備ができましたので、ぜひともご賞味を」

 四人分の料理ならそこまで時間はかからない。
 ミーナが唐揚げを上げ終わるのと俺がオムレツを作り終わるのはほとんど同じで、提供したときにはパン以外はアツアツの状態だ。

「パンはシンプルなもので、スープにはキラーバードの骨からとった出汁に緑菜と斑芋を、唐揚げは塩と斑芋から作られる片栗粉を使って、オムレツにはケチャップを使いましたがこちらのソースは紫トマトで代用可能です」

「たしか、ヘビースネークの唐揚げの時は醤油とかいうのと、にんにくとかいうのを使ったって言ってたよね。今回のに使わなかった理由は何かあるのかい?」

「この領地で採れる材料だけで作れる料理を出してみました。パンはこれでも作るのに苦労するとは思いますが、他のは材料さえ集めれば作れるモノばかりです」

 ドライイーストに代わる天然酵母を作らないといけないんだけど、俺が見つけられている果物はレモンライムくらいだからできるかどうか微妙なんだよな。
 できることならリンゴかブドウに似た果物が見つかると簡単なんだろうけど……。

「ほう、キミはキミでいろいろ考えているんですね。では、これは騎士団の方でも再現可能と?」

「材料の調達が難しいでしょうが、食材の安定供給と調理場さえ作成してもらえれば可能でしょう」

 まずは村で白根と斑芋の量産、そして、騎士団によるキラーバードの安定供給、かまどと調理道具の調達と食堂以外で作るにはハードルがなかなかある。

「ふむ、ですが大事なのは味ですからね。いくら能力が上がると言われても簡単には信じられませんし、こんなに食材を使うのならそれなりに美味しくなければ食材をそのまま食べたほうが効率的と言わざるを……」

「あー、もう、ライアン。良いから食べてみろ。マサト君、では頂くよ」

「ええ、皆さんどうぞごゆっくりとお召し上がりください」
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