料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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2章 領都

26 ベック

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 食事が終わると二人は食堂で働くことに同意してくれた。
 というか、食事の味に感動した二人は頭を下げて働かせて下さいとお願いしてきた。
 今までの職場とか家族の了承とか必要なんじゃないかと聞いてみたが、二人とも実家の手伝いというか、お荷物状態なので問題ないそうだ。

 ロバートのほうは商家の生まれだが、両親含め上三人の兄も商業系の天職持ち。
 しかも、長兄と次兄の妻も商業系の天職らしく肩身が狭いとか。

 ボブの方は父親と四人の兄が戦闘系や身体強化系の天職持ちでこっちはこっちで居場所がないらしい。
 とはいえ、食堂で寝泊まりさせるわけにもいかないから当分は実家から通ってもらって、騎士団の食堂ができ次第、そこに併設される予定の職員寮に住んでもらうことでウィリアムさんとも話がついた。

 ロバートとボブはミーナとイーリスに頼むとして、ウィリアムさんは明日には鍛冶職人を連れてくるらしい。
 とはいっても、鍛冶師は領主所有の財産みたいな扱いなので、最も経験のある人が一人だけ来るらしいが。
 まあ、貴重な人材をおいそれと外には出せないんだろうな。

 ロバートとボブは当面の間はパン作りとキラーバードの解体作業をしてもらうことになったらしい。
 騎士団の人たちはとにかくよく食べるし、これからは黒麦も手に入るようになるからパン作りを優先させるのは間違いじゃあないだろう。
 スープづくりやステーキなんかはそこまで手順が難しくないから、二、三回も作ってもらえれば覚えられるだろうし。

 そういえば、鑑定に関してもいろいろとわかってきた。
 村にいた時は俺以外に鑑定を持っているのは調合師だけだったんだが、領都に来てから鑑定持ちの人にもいろいろ会った。
 調合師は素材鑑定、ウィリアムさんは魔獣鑑定、領主様お抱えの鑑別師は毒鑑定。
 どれも聞く限り、俺の食材鑑定とは違って万能ではないみたいだ。
 素材鑑定は、調合に必要な素材が光って見えるらしい。
 魔獣鑑定は魔獣や獣の名前と脅威度がわかるらしい。
 毒鑑定は毒物にだけ煙がたっているように見えるらしい。

 この鑑定情報は個人個人で違うらしく、ウィリアムさんとは違う鑑定持ちの騎士は魔獣や獣の名前しかわからないと言ってたし、鑑別師曰く、知り合いは毒鑑定では毒物に×のようなマークが見えるらしい。

 なんで急に鑑定の話になったかというと、ミーナが食材鑑定を覚えたからだ。
 職業ごとにいろいろなスキルを覚えることはウィリアムさんに聞いていたが、料理人がスキルを覚えるのは世界初だろうからみんな驚いていた。
 とはいえ、俺の食材鑑定とミーナの食材鑑定も内容が違くて、ミーナの食材鑑定はミーナが食材と認識しているものにしかかけられず、毒の処理方法も不明らしい。
 名前、食用の可否、味に対する推測、この三点くらいしか見えないらしい。
 味に対しても、俺のように前世の食材に照らし合わせた解説ではなくざっくりとした、甘いとか辛いとかその程度らしい。

 とはいえ、料理人の天職持ちが食材鑑定を覚えるのは朗報だ。
 イーリスやロバート、ボブが食材鑑定を覚えていれば、俺がいなくなった後に新食材が見つかっても食用可能かどうかがわかるからな。

 あとは三人がミーナのように食材鑑定を覚えてくれるかと調理道具をそろえられるかだな。
 まあ、調理道具の方は鍛冶師に頼むしかないから俺が気をもんでも仕方がないのだが。


「おうおうおう、おめえさんが俺の作った調合道具を飯かなんかに使ってるってやつかっ!?」

 朝、目が覚めるとウィリアムさんの呼ぶ声が聞こえて一階に降りたら謎の老人に罵倒されてしまった。
 いや、多分、鍛冶師の人であの調合用鍋を作ってくれた人なんだろうけどさ。

「正確には調合師の人が使わなくなった古い鍋を使わせてもらっただけですけどね。それも村に置いてきたので今は使ってないですし」

「関係ねぇっ!! 俺の作った調合道具を調合以外に使ったの事実だろっ! それに俺に新たに調合以外の鍋を作れって言ったのもてめえだっ!!」

「いやいや、調合以外に使ったのはそうですが、鍋は調合にしか使えないものじゃないでしょ? それに鍛冶師に調理道具を作ってほしいとは言いましたが、貴方を指名した覚えはないですよ?」

 あまりにも自分勝手すぎる言い分にあきれが出てしまう。
 そもそも、調理道具を欲しているのは領主であるジョシュアさんであって、俺は料理を広めるうえでは調理道具はなんだっていいと思っている。
 それこそ、石板や石鍋、土鍋なんかでもいいんだ。
 それなら鍛冶師じゃなくても器用さが高いこの世界の住人なら作れないこともないだろう。

「ベックっ!! いい加減にしろっ! 一番上のお前が話をするというから連れてきたのにマサト君に対して何という暴言を吐くのだっ! 大体、この鍛冶仕事は領主様からの依頼、お抱えであるお前に拒否権はないっ!」

 そうなんだよなあ、この世界では鍛冶師の天職持ちと調合の天職持ちは貴族お抱えで、衣食住が優遇されている代わりに仕事を選ぶ権利がないはずなんだよな。

「そりゃあそうだが、俺にだって鍛冶師としてのプライドがあるっ! 人のためになる調合道具を作るのが俺の鍛冶師としてのプライドだっ!!」

「あー、とりあえず朝飯にしませんか? ベック……?さんでしたっけ、そちらの方も何のために道具が必要かわからないと困惑するでしょうし」

 ジョシュアさんやウィリアムさんがどんな感じで説得したのかはわからないが、この様子だと料理を食べた経験もなさそうだから朝食に誘うか。
 というか、俺が腹が減ってきたよ。
 声にびっくりしたレイジとミーナも起きてきてるし。

「だが、マサト君……」

「いいんです、俺も腹が減りましたし。……ミーナ、レイジ、朝飯にするから手伝ってくれ」

「「はい」」

 パンは昨日のうちに焼いてあるから、軽く温めなおす程度にして、玉子焼きとこま切れ肉と緑菜を使った肉野菜炒めとこれまた昨日のうちに仕込んどいたコンソメスープでいいか。

 とりあえず、パンとコンソメスープの温めなおしはレイジに任せて、ミーナには肉野菜炒めを作ってもらう。
 俺は玉子焼きを作るためにキラーバードの卵と砂糖を取り出す。

「おいおい、ずいぶんと薄い鍋じゃねえか、こんなんじゃあポーションは作れねえぞ」

「ポーションを作るためじゃなくて、料理のための鍋ですからね。俺はフライパンって呼んでますよ」

 ベックさんがミーナの傍に行って文句をつけるから、俺が応対する。
 レイジもミーナもこういった大人の悪意というか、めんどくさい大人には慣れていないからな。
 村にいたのは口が悪いのは村長くらいで、村長も悪意は全くなかったからな。

「てめえは、獣の卵なんて取り出してどうするつもりだ? まさかそれを食うわけじゃあるまいに」

「食べますよ。騎士団の人たちにもキラーバードの玉子料理は結構評判良いんですから」

 プレーンオムレツもいいが、緑菜や斑芋を中にくるんだオムレツが騎士団の人たちには評判がいい。
 やっぱり、生野菜を齧る生活だったからか、手の込んだ料理のほうが凄いみたいな風潮があるみたいだ。

 ベックさんの言い分に適当に返しながら、玉子焼きを作っていく。
 個人的には甘くない玉子焼きには大根おろしと醤油が必須だから今回は甘めの玉子焼きにする。
 もう、白根の在庫がないからね、しょうがないね。

「マサト君、それはいつも出てくるオムレツとは違って四角いんだね」

「理由はよくわからないですけど、オムレツは丸いフライパンで、玉子焼きは四角いフライパンで作るんですよね」

 本当になんでなのか不明なのだが、異界のレシピがそうしろって言ってくるからそれで作ってる。
 まあ、味に変わりはないから玉子焼きの材料でオムレツ作っても問題はないけど。
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