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3章 王都
03 タウンハウス
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シェリルバイト家にお世話になると言っても遊んでいるわけにもいかない。
いや、ランドールさんはゆっくり過ごしてくれればいいと言ってくれたのだが、レイジもミーナもぼんやり過ごすのは居心地が悪そうなのでタウンハウスにいる間の食事の世話くらいはしようということになった。
もちろん、タウンハウス内にも料理ができる人が増えてきているらしいけど、毎日のように食堂で働いていた俺たちほどに料理ができる人はいないらしいからちょうどいいだろう。
タウンハウス内の人員はシェリルバイト領の領主館で働いている人の身内が中心になっているらしい。
タウンハウスは一線を退いたベテランの人が見習いの若手に対して、研修を行う研修場のようになっているらしい。
そもそもこの国では他の貴族との会合では、領主館か王城の会議室を使うのが一般的でタウンハウスに客を招く習慣がないそうなので使用人のトレーニングの場とされるのが普通らしい。
そんなわけで、シェリルバイト家のタウンハウスにも白髪の目立つベテラン執事メイドとミーナくらいの年齢の執事見習い、メイド見習いがたくさんいるわけだ。
とりあえず片っ端から鑑定をかけてみたが、料理人の天職持ちは残念ながらいないようなので、簡単な料理だけを教えることにする。
特にメイド見習いにはフルーツジュースの作り方やパンの焼き方、サンドイッチの作り方を中心に教えていく。
シェリルバイト領ではイーリスのおかげで空前のパンブームだから、パン関連の料理は教えておいて損はないだろう。
あと、これまでの食生活の影響でタウンハウスには果物の在庫がたくさんあるのでフルーツジュースの作り方も教えておく。
ちょうどいいことに、シェリルバイト領で鍛冶師のベックさんに絞り器や、手動のミキサーを開発してもらっていたから教えるのは簡単だった。
まあ、本当は電動の調理器具が欲しかったのだが、動力の問題があるしベックさんも細かい設計はできないらしいから本当に簡単なものしかできなかった。
手動のミキサーも前の世界にあったひもを引っ張って刃を回すものじゃなくて、ハンドルを回す完全手動のもので、構造としては手動ミルに近いものだろう。
俺自身にもこんなものというふわっとした知識はあっても構造を知っているわけでも、使い心地を覚えているわけでもないのであまり複雑な構造のものは説明できなかったというのもある。
まあ、俺の役目は料理の技術を教えることでこの世界を便利にしていくのはこの世界の住人と、のちに来る善人たちの役目だからほどほどでいいのかなという考えがあるのも否定はしない。
「というわけで、皆さんに料理を教えることになりましたマサトです。よろしくお願いしますね」
「「「「「はい、よろしくお願いします」」」」」
というわけで、俺の目の前にはメイド見習いと執事見習いが計五人いる。
タウンハウス内には都合五十人ほどが働いているらしいが、全員をこっちに回すと業務に差し支えるし一応客人である俺たちの前に出せないレベルの使用人もいるらしいので今日は五人だけだ。
このくらいの人数ならシェリルバイト領でも教えていたから、レイジとミーナに手伝ってもらえば教えるのも苦じゃない。
「今日は簡単なフルーツジュースとパンの作り方を教えていきますね」
「わからないことがあったら、わたしか兄に聞いてください」
そういえば、シェリルバイト領で過ごすうちにイーリスの影響を受けたのかミーナは自分のことを名前で呼ばなくなったな。
レイジのこともお兄ちゃんと呼んでいたが、兄と呼ぶようになっている。
まあ、俺やレイジの前だと気が抜けるのか前のように呼ぶ場合もあるんだけどな。
「では、パンの材料は皆さんの目の前にあるものですね。作り方を教えながらやりますので真似していってください」
シェリルバイト領に戻れば卵もあるが、王都ではいろいろ難しいので今回教えるのはこの世界に来て初めて作ったパンと似たものだ。
材料は小麦粉、塩、水、酵母だ。
すべてがこの世界で作られているものなので、初めて作ったパンとは違うものになるだろうが料理人の天職持ちのミーナが作れると言っているので失敗はないだろう。
ちなみに料理を作るのは客室を改造した調理室だが、こちらにもシェリルバイト領で作ったかまどや調理器具を持ち込んでいるので問題なく料理はできる。
部屋の隅には食堂作成レベル1でつくった屋台を展開しているから、材料の補充も簡単だ。
まあ、今回作る料理では酵母以外は取り出す必要はないから展開する必要があったかどうかは疑問だが、こういうものだと見習いたちに慣れてもらうにも必要なことだろう。
「そうです、このタイミングで水を入れていってください」
俺を含めて見習いの人たちはミーナのやり方を見ながらパンを作っていく。
俺も砂糖やバターを入れた普通のパンなら異界のレシピを見ながら作れるが、この世界の材料だけで作ると異界のレシピ通りに作ると失敗しやすいからミーナの助言通りに作る。
まあ、ステーキやらハンバーグやらならこの世界由来の食材でも失敗しないのだが、発酵やらなんやらが入るとやはり素人では難しいということだろう。
そういえば、砂糖というかなんというか糖分は砂芋の茎から少量を作り出すことには成功している。
まあ、食堂に常備されている砂糖に比べると雑味が多くて色も悪いのだが、一キロ程度の茎を蒸したり潰したりしているうちに十グラム程度の糖が作れることが分かったのだ。
使い道が多いのと、領主夫人のエレインさんがケーキの類を食べたがったことでシェリルバイト領では砂芋の大量生産と糖の作成に力を入れているそうだ。
まあ、砂芋を使った焼き芋なんかも領内の女性や子供には人気だったから食材の無駄にはならないだろう。
「パン生地はできたようですので、ここからは兄がフルーツジュースの作り方を教えていきます」
全員がギリギリ合格点をもらったところでミーナ先生によるパン作りは終わりだ。
これから自然発酵させて、シェリルバイト領謹製のパン窯で焼くのは一時間後くらいになるだろう。
というわけで、先生役がミーナからレイジに入れ替わって今度はフルーツジュースの作り方講座だ。
リンゴに似た味のシルバーアップル、オレンジに似たピンクオレンジは皮を取り除いて手動ミルに。
レイジたちが生まれた村で獲れていたレモンライムは絞り器でジュースにしていく。
シェリルバイト領では毒性があるダークアップルもあったが、あれは完全に庶民用で貴族は毒性がなくそのまま食べられるシルバーアップルを食べるのが普通だ。
まあ、ダークアップルは熱を通さないと毒性の除去ができないからジュース向きじゃないのもあるけどな。
ちなみにダークアップルはシェリルバイト領では、主に焼きリンゴに使われている。
一応アップルパイだとかリンゴ入りのパンだとかも作ったのだが、どちらも砂糖がないと味がいまいちだったので糖の作成が急がれている状態だ。
食堂で作ったのは砂糖をふんだんに使ったやつだったから、エレインさんもイーリスも大絶賛だったんだが、砂糖なしで作ったら渋い顔されたからな。
「こちらの器具に皮を丁寧に取り除いた果物を入れてください。水分の少ないものや甘味が少ないものは成功しづらいですのでお勧めしません」
領主館や騎士団でいろんな大人と接してきたレイジも言葉遣いが変わってきた。
とはいえ、こちらも俺たちの前では元の言葉遣いに戻るので、取り繕えるようになったというべきかな。
レイジが言うには俺の真似をしているだけらしいが、確かに俺も年上相手にはそこそこの敬意を払って話すから、まあ間違いではないか。
「どちらのジュースにもレモンライムの果汁を少し入れると、酸味が加わって飲みやすくなります」
シルバーアップルもピンクオレンジも貴族が食べているだけあって甘味が強い。
それだけに百パーセントジュースにすると意外と飲みにくいのだ。
この辺は領内で飲んだ人全員の共通認識で、子供や女性にも不人気だった。
富裕層は果物で甘味に慣れているから平気かと思ったが、この世界の果物は皮に苦みや雑味が含まれていて実には甘味しかないので甘味百パーセントで飲みにくいのは確かだ。
というわけで、シェリルバイト領謹製のフルーツジュースではレモンライムを少量混ぜるのを定番としている。
いや、ランドールさんはゆっくり過ごしてくれればいいと言ってくれたのだが、レイジもミーナもぼんやり過ごすのは居心地が悪そうなのでタウンハウスにいる間の食事の世話くらいはしようということになった。
もちろん、タウンハウス内にも料理ができる人が増えてきているらしいけど、毎日のように食堂で働いていた俺たちほどに料理ができる人はいないらしいからちょうどいいだろう。
タウンハウス内の人員はシェリルバイト領の領主館で働いている人の身内が中心になっているらしい。
タウンハウスは一線を退いたベテランの人が見習いの若手に対して、研修を行う研修場のようになっているらしい。
そもそもこの国では他の貴族との会合では、領主館か王城の会議室を使うのが一般的でタウンハウスに客を招く習慣がないそうなので使用人のトレーニングの場とされるのが普通らしい。
そんなわけで、シェリルバイト家のタウンハウスにも白髪の目立つベテラン執事メイドとミーナくらいの年齢の執事見習い、メイド見習いがたくさんいるわけだ。
とりあえず片っ端から鑑定をかけてみたが、料理人の天職持ちは残念ながらいないようなので、簡単な料理だけを教えることにする。
特にメイド見習いにはフルーツジュースの作り方やパンの焼き方、サンドイッチの作り方を中心に教えていく。
シェリルバイト領ではイーリスのおかげで空前のパンブームだから、パン関連の料理は教えておいて損はないだろう。
あと、これまでの食生活の影響でタウンハウスには果物の在庫がたくさんあるのでフルーツジュースの作り方も教えておく。
ちょうどいいことに、シェリルバイト領で鍛冶師のベックさんに絞り器や、手動のミキサーを開発してもらっていたから教えるのは簡単だった。
まあ、本当は電動の調理器具が欲しかったのだが、動力の問題があるしベックさんも細かい設計はできないらしいから本当に簡単なものしかできなかった。
手動のミキサーも前の世界にあったひもを引っ張って刃を回すものじゃなくて、ハンドルを回す完全手動のもので、構造としては手動ミルに近いものだろう。
俺自身にもこんなものというふわっとした知識はあっても構造を知っているわけでも、使い心地を覚えているわけでもないのであまり複雑な構造のものは説明できなかったというのもある。
まあ、俺の役目は料理の技術を教えることでこの世界を便利にしていくのはこの世界の住人と、のちに来る善人たちの役目だからほどほどでいいのかなという考えがあるのも否定はしない。
「というわけで、皆さんに料理を教えることになりましたマサトです。よろしくお願いしますね」
「「「「「はい、よろしくお願いします」」」」」
というわけで、俺の目の前にはメイド見習いと執事見習いが計五人いる。
タウンハウス内には都合五十人ほどが働いているらしいが、全員をこっちに回すと業務に差し支えるし一応客人である俺たちの前に出せないレベルの使用人もいるらしいので今日は五人だけだ。
このくらいの人数ならシェリルバイト領でも教えていたから、レイジとミーナに手伝ってもらえば教えるのも苦じゃない。
「今日は簡単なフルーツジュースとパンの作り方を教えていきますね」
「わからないことがあったら、わたしか兄に聞いてください」
そういえば、シェリルバイト領で過ごすうちにイーリスの影響を受けたのかミーナは自分のことを名前で呼ばなくなったな。
レイジのこともお兄ちゃんと呼んでいたが、兄と呼ぶようになっている。
まあ、俺やレイジの前だと気が抜けるのか前のように呼ぶ場合もあるんだけどな。
「では、パンの材料は皆さんの目の前にあるものですね。作り方を教えながらやりますので真似していってください」
シェリルバイト領に戻れば卵もあるが、王都ではいろいろ難しいので今回教えるのはこの世界に来て初めて作ったパンと似たものだ。
材料は小麦粉、塩、水、酵母だ。
すべてがこの世界で作られているものなので、初めて作ったパンとは違うものになるだろうが料理人の天職持ちのミーナが作れると言っているので失敗はないだろう。
ちなみに料理を作るのは客室を改造した調理室だが、こちらにもシェリルバイト領で作ったかまどや調理器具を持ち込んでいるので問題なく料理はできる。
部屋の隅には食堂作成レベル1でつくった屋台を展開しているから、材料の補充も簡単だ。
まあ、今回作る料理では酵母以外は取り出す必要はないから展開する必要があったかどうかは疑問だが、こういうものだと見習いたちに慣れてもらうにも必要なことだろう。
「そうです、このタイミングで水を入れていってください」
俺を含めて見習いの人たちはミーナのやり方を見ながらパンを作っていく。
俺も砂糖やバターを入れた普通のパンなら異界のレシピを見ながら作れるが、この世界の材料だけで作ると異界のレシピ通りに作ると失敗しやすいからミーナの助言通りに作る。
まあ、ステーキやらハンバーグやらならこの世界由来の食材でも失敗しないのだが、発酵やらなんやらが入るとやはり素人では難しいということだろう。
そういえば、砂糖というかなんというか糖分は砂芋の茎から少量を作り出すことには成功している。
まあ、食堂に常備されている砂糖に比べると雑味が多くて色も悪いのだが、一キロ程度の茎を蒸したり潰したりしているうちに十グラム程度の糖が作れることが分かったのだ。
使い道が多いのと、領主夫人のエレインさんがケーキの類を食べたがったことでシェリルバイト領では砂芋の大量生産と糖の作成に力を入れているそうだ。
まあ、砂芋を使った焼き芋なんかも領内の女性や子供には人気だったから食材の無駄にはならないだろう。
「パン生地はできたようですので、ここからは兄がフルーツジュースの作り方を教えていきます」
全員がギリギリ合格点をもらったところでミーナ先生によるパン作りは終わりだ。
これから自然発酵させて、シェリルバイト領謹製のパン窯で焼くのは一時間後くらいになるだろう。
というわけで、先生役がミーナからレイジに入れ替わって今度はフルーツジュースの作り方講座だ。
リンゴに似た味のシルバーアップル、オレンジに似たピンクオレンジは皮を取り除いて手動ミルに。
レイジたちが生まれた村で獲れていたレモンライムは絞り器でジュースにしていく。
シェリルバイト領では毒性があるダークアップルもあったが、あれは完全に庶民用で貴族は毒性がなくそのまま食べられるシルバーアップルを食べるのが普通だ。
まあ、ダークアップルは熱を通さないと毒性の除去ができないからジュース向きじゃないのもあるけどな。
ちなみにダークアップルはシェリルバイト領では、主に焼きリンゴに使われている。
一応アップルパイだとかリンゴ入りのパンだとかも作ったのだが、どちらも砂糖がないと味がいまいちだったので糖の作成が急がれている状態だ。
食堂で作ったのは砂糖をふんだんに使ったやつだったから、エレインさんもイーリスも大絶賛だったんだが、砂糖なしで作ったら渋い顔されたからな。
「こちらの器具に皮を丁寧に取り除いた果物を入れてください。水分の少ないものや甘味が少ないものは成功しづらいですのでお勧めしません」
領主館や騎士団でいろんな大人と接してきたレイジも言葉遣いが変わってきた。
とはいえ、こちらも俺たちの前では元の言葉遣いに戻るので、取り繕えるようになったというべきかな。
レイジが言うには俺の真似をしているだけらしいが、確かに俺も年上相手にはそこそこの敬意を払って話すから、まあ間違いではないか。
「どちらのジュースにもレモンライムの果汁を少し入れると、酸味が加わって飲みやすくなります」
シルバーアップルもピンクオレンジも貴族が食べているだけあって甘味が強い。
それだけに百パーセントジュースにすると意外と飲みにくいのだ。
この辺は領内で飲んだ人全員の共通認識で、子供や女性にも不人気だった。
富裕層は果物で甘味に慣れているから平気かと思ったが、この世界の果物は皮に苦みや雑味が含まれていて実には甘味しかないので甘味百パーセントで飲みにくいのは確かだ。
というわけで、シェリルバイト領謹製のフルーツジュースではレモンライムを少量混ぜるのを定番としている。
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