料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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3.5章 閑話

01 マサトさんとわたし ミーナ視点

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 わたしの名前はミーナ。
 わたしの人生はマサトさんに会うまで絶望の一言で表せた。

 お父さんとお母さんが魔獣と対峙したときに命を落として、それからはわたしの人生にはお兄ちゃんだけが残った。
 村の人たちは村長さんを除いてみんながわたしたちを遠巻きにした。
 同年代の村の子供たちはわたしたちのことをいないものとして扱った。

 当時はどうしてそんなことをされているのかわからなかったけれど、その状況はマサトさんと出会ってから一変した。
 その当時は村長さんからもらえる少しの緑菜をお兄ちゃんと分け合って、ポーションを飲むだけの生活だった。
 仕事は割り振られていたものの、村の人とはできることが違いすぎるので割り振られるのは雑用ばかりだった。
 それが苦痛だったわけではないけれど、村の役に立っているとは思えなかったし村人たちもわたしたちのことをお荷物だと思っていたのだろう。
 子供たちはそんな大人の態度に敏感に反応して、わたしたちに関わることをやめた。

 マサトさんはそんなわたしたちの前に突然現れた。
 最初は獣の死体を求めたり、毒だと言われている斑芋を食べると言い出してびっくりした思い出がある。
 村の畑を荒らしに来る獣はわたしたちにとって邪魔な生き物程度の認識で、斑芋はその邪魔な生き物を効率的に排除するために植えているだけの罠だったからだ。
 
 まあ、その邪魔な生き物と罠のおかげでわたしたちのような親のいないお荷物にもできる仕事があったのは皮肉なことだったのだろうけど。
 でも、マサトさんにフライラットのお肉を焼いて食べさせてもらった時にその認識は完全に変わった。
 邪魔な生き物だと思っていた獣はきちんと処理すれば食べられる食糧で、斑芋もきちんと毒を抜くための手順を行えば緑菜と変わらない…ううん、緑菜以上に美味しい食料だった。

 最初は突然関わることになったマサトさんに対して人見知りしていたわたしも、マサトさんの気さくな態度と作ってくれるお料理に気を取られてだんだんと普通に会話できるようになっていった。
 お父さんとお母さんが死んでから自然に会話できるのはお兄ちゃんだけで、かろうじて村長さんだけが何とか会話できるただ一人の人だったので、マサトさんと自然に会話できたことに気づいたときにはびっくりして笑顔になってしまった。

 マサトさんは不思議な人で誰も知らないような知識を持っていたり、何もないところに突然家を建てたりしていたけれど、わたしのような子供でも知っているようなことを知らなかったりもした。
 マサトさんはそのことについて神様からもらったものだから自分でもどういう原理でできているのかはわからないと言っていたけれど、そもそも神様に直接何かもらえること自体が奇跡のようなことだと思う。
 お母さんに聞いた話では普通の人が神様からもらえるのは天職というものだけで、それも神様から直接もらえるわけではなく教会で神官様からどういう天職がもらえているか教えてもらえるだけらしい。
 お父さんは剣士の天職でお母さんは商人の天職だったらしいけれど、お兄ちゃんが生まれた時に旅をするのが難しくなったからこの村に定住することにしたって聞いたことがある。

 お兄ちゃんは村の役に立つように農家の天職を欲しがっていて、それがダメならお父さんかお母さんの天職を引き継ぎたいってよく言っていた。
 でも、わたしはわたしをこの絶望から救い上げてくれたマサトさんのようにお料理が美味くなるような天職が欲しかった。
 だから、マサトさんからわたしの天職が料理人で、それがお料理をするのが得意になる天職だ教えてもらえた時には本当にうれしかった。

 それまでもマサトさんの手伝いはしていたけれど、天職がわかってからは積極的にマサトさんの手伝いをしていろいろなお料理を教えてもらうことになった。
 マサトさんはわたしがお料理を作ると、自分よりもうまくできているとよく言っているけれど、わたしからしたら初めて見るような食材でも適切な処理をして食べられるようにするマサトさんにはかなわないと思っている。
 それでもマサトさんによくできているって、美味しいって言ってもらえるのはすごく嬉しくて頭の中がふわふわしちゃうくらいに幸せになれるから頑張った。

 だから、わたしはマサトさんが村を出ていくって決めた時には一も二もなく付いていくと決断した。
 お兄ちゃんも一緒に行くといったから離れることはなかったけれど、多分お兄ちゃんが村に残ると言ってもわたしだけでもマサトさんについてっただろう。
 お兄ちゃんは村の人たちに恩義を感じていたようだけれど、わたしにとってこの村の人たちは感情を向けるような相手ではなかった。
 それはわたしが村の人たちと関わっていなかったことも原因だけれど、遠巻きにされていないものとして扱われていれば誰でもそんな風に感じるだろう。

 マサトさんはそんなわたしを救い上げてくれた存在だ。
 だから、わたしはマサトさんがついてくるなって、嫌だって言うまではマサトさんについていこうと思っている。
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