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3.5章 閑話
08 ウィリアムからの報告 ジョシュア視点
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「で、村の様子はどうだったんだ?」
私はジョシュア・シェリルバイト、シェリルバイト子爵領の現領主だ。
私の目の前には奇妙な情報をもたらした調合師のアイリーンのいる村へと調査に向かった騎士団長のウィリアムがいる。
今までとは異なる食料の確保、神からの使い、様々な情報を送ってきたアイリーンだが、国に仕える調合師だからと言ってその情報を何の精査もしないままに信じることはできない。
「はっ、先触れにも伝えた通り、村内では野菜や果物に代わり獣の死体や毒のあると言われていた植物を食事として提供していました。食事を作った人物はマサトと名乗り、神からの依頼でそのようなことをしていたと言っておりました」
アイリーンからの情報は正確だったということか。
この国……というよりもこの世界全体では食料の増産が急務で、ほとんどの民がまともな食事もとれずポーションで上をごまかしている状態だ。
そこに現れた未知の技術による食料の改善方法。
神聖王国の人間ではなくても神の慈愛かと考えてしまうが、まさかそれが本当だとは。
「件の人物は神聖王国とかかわりのある人間か?」
「いいえ、彼は神聖王国はおろかこの地が王国に属することすら知らない様子。おそらくは相当の田舎からやってきた人間かと」
田舎からやってきた……?
いや、アイリーンがいた村も相当の田舎ではあるものの、領地の名前や王国のことを知らない人間など早々いるはずもない。
何も知らない子供ならともかく、それならば未知の技術で食料を増やす方法を知っているのが不自然だ。
「まさか……勇者……か?」
王国、というよりはこの世界の創造期のおとぎ話というか口伝にあるのだが、世界が暗雲に包まれたとき、神が勇者を派遣し、この世界を救う……というような話がある。
シェリルバイト家は王国の始まりから王家に仕えているから口伝として伝わっているが、市井のものはもちろん、貴族でも成り上がり連中は知らないような話だろう。
「件の……いや、マサトと言ったか、彼はどのような人間だった?」
「性格は温厚で他人を見下すことはありませんでした。自身が持っている知識を独占する様子もなく、無知な人間に対しても誠実に対応していました」
ふむ、珍しいな。
領主などという権力者を相手にする機会の多い職に就いていると様々な人間と接するが、多くの人間は独占する情報を持っているとそれを盾に相手に過大な要求をしてくる。
特に彼の持っている情報は世界を根本から変えるようなもののはずだ。
そんなものを持っていれば多少なりとも他人を見下したり、自分のやっていることが誰に対しても通るものだと勘違いしそうなものだが……。
「……彼の持っている技術はどうだった? 先ぶれに来た新米は今までの食事とは一線を画すと伝えてきたが」
「世界を一変させるものです。材料が今まで捨てていたものなので原価がかからないので広めるのも容易ですし、なによりも味、食感、温度、すべてが今までそのまま食べていた野菜や果物とは全く違います」
ウィリアムは騎士団長という役職上、様々なものを食べている。
それこそ、貴族しか食べないような貴重な野菜や甘い果物も口にしたはずだ。
そのウィリアムが手放しで褒めるとは、そこまでの技術か。
「ふむ、我々が食することは可能か?」
「マサト君には既に領主館に案内し、ジョシュア様に食事を作ってくれるようにお願いしてあります。ジョシュア様がお認めになれば、ここ、領都にてその技術を広めることについての許可が欲しいらしいです」
「技術を広める……それは、貴族のお抱えになって情報を秘匿するのではなく平民にも広めるということか?」
「はい、彼はもともと平民しかいない村で技術を広めていましたし、我々が村に行かなければそういった村々を周るつもりだったのではないかと」
つくづく常識が通じないな。
普通、技術を持った人間は貴族に使えることを望む。
それは貴族の元にはあるゆる物品、情報が集まるからだ。
それなのにそれを求めず、平民に対して自身の独占している情報を広めるとは……、いや、それこそが勇者としての資質なのかもしれないな。
「ふむ、では実際に彼の持っている技術を確認してから許可を出すかどうかは考えよう。……そういえば、その彼は一人で行動しているのか?」
「いいえ、彼は二人の子供と行動を共にしています。一人は戦闘系の天職を持っている少年で、主に食料の収集を行っていたようです。彼が言うにはバランスの良い食事をとることで能力が上がるらしく、年端のいかない少年であるものの新人以上の実力を持っています」
なんと!?
少年で新人以上の実力……私も騎士として活躍していたこともあるからわかるが年齢の差というのは大きい。
たとえ戦闘系の天職を持っていたとしても戦闘経験の少ないうちは魔獣や獣相手にまともに戦うことは難しいはずだ。
「……もう一人は?」
「もう一人は少女で彼の持つ技術に関する天職を持っています。食事を作る際には彼だけでなく少女も一緒に作っていました」
食事に関する天職持ちか。
おそらくはナイフなどの刃物を扱う天職だろうか、いや、アイリーンや先触れが言うには新技術には火が必要とのことだから火の魔法を使える天職持ちかもしれない。
「ふむ、どのような天職を持っているのだ?」
「はい、料理人という天職だそうです。珍しい天職らしく、村内にはもちろん新人騎士たちの周囲にもそのような天職を持っているのものはいないとか」
料理人!?
まさか、それはイーリスの持つ天職と同じではないか!?
ウィリアムの報告が正しいのなら、天職を確認してから引きこもりがちになっているイーリスにも朗報なのでは!?
王国に仕える領主としても、自分の存在価値を疑ってしまっている娘を持つ父親としても、彼の持つ新技術をしっかりと確認しなくてはな。
私はジョシュア・シェリルバイト、シェリルバイト子爵領の現領主だ。
私の目の前には奇妙な情報をもたらした調合師のアイリーンのいる村へと調査に向かった騎士団長のウィリアムがいる。
今までとは異なる食料の確保、神からの使い、様々な情報を送ってきたアイリーンだが、国に仕える調合師だからと言ってその情報を何の精査もしないままに信じることはできない。
「はっ、先触れにも伝えた通り、村内では野菜や果物に代わり獣の死体や毒のあると言われていた植物を食事として提供していました。食事を作った人物はマサトと名乗り、神からの依頼でそのようなことをしていたと言っておりました」
アイリーンからの情報は正確だったということか。
この国……というよりもこの世界全体では食料の増産が急務で、ほとんどの民がまともな食事もとれずポーションで上をごまかしている状態だ。
そこに現れた未知の技術による食料の改善方法。
神聖王国の人間ではなくても神の慈愛かと考えてしまうが、まさかそれが本当だとは。
「件の人物は神聖王国とかかわりのある人間か?」
「いいえ、彼は神聖王国はおろかこの地が王国に属することすら知らない様子。おそらくは相当の田舎からやってきた人間かと」
田舎からやってきた……?
いや、アイリーンがいた村も相当の田舎ではあるものの、領地の名前や王国のことを知らない人間など早々いるはずもない。
何も知らない子供ならともかく、それならば未知の技術で食料を増やす方法を知っているのが不自然だ。
「まさか……勇者……か?」
王国、というよりはこの世界の創造期のおとぎ話というか口伝にあるのだが、世界が暗雲に包まれたとき、神が勇者を派遣し、この世界を救う……というような話がある。
シェリルバイト家は王国の始まりから王家に仕えているから口伝として伝わっているが、市井のものはもちろん、貴族でも成り上がり連中は知らないような話だろう。
「件の……いや、マサトと言ったか、彼はどのような人間だった?」
「性格は温厚で他人を見下すことはありませんでした。自身が持っている知識を独占する様子もなく、無知な人間に対しても誠実に対応していました」
ふむ、珍しいな。
領主などという権力者を相手にする機会の多い職に就いていると様々な人間と接するが、多くの人間は独占する情報を持っているとそれを盾に相手に過大な要求をしてくる。
特に彼の持っている情報は世界を根本から変えるようなもののはずだ。
そんなものを持っていれば多少なりとも他人を見下したり、自分のやっていることが誰に対しても通るものだと勘違いしそうなものだが……。
「……彼の持っている技術はどうだった? 先ぶれに来た新米は今までの食事とは一線を画すと伝えてきたが」
「世界を一変させるものです。材料が今まで捨てていたものなので原価がかからないので広めるのも容易ですし、なによりも味、食感、温度、すべてが今までそのまま食べていた野菜や果物とは全く違います」
ウィリアムは騎士団長という役職上、様々なものを食べている。
それこそ、貴族しか食べないような貴重な野菜や甘い果物も口にしたはずだ。
そのウィリアムが手放しで褒めるとは、そこまでの技術か。
「ふむ、我々が食することは可能か?」
「マサト君には既に領主館に案内し、ジョシュア様に食事を作ってくれるようにお願いしてあります。ジョシュア様がお認めになれば、ここ、領都にてその技術を広めることについての許可が欲しいらしいです」
「技術を広める……それは、貴族のお抱えになって情報を秘匿するのではなく平民にも広めるということか?」
「はい、彼はもともと平民しかいない村で技術を広めていましたし、我々が村に行かなければそういった村々を周るつもりだったのではないかと」
つくづく常識が通じないな。
普通、技術を持った人間は貴族に使えることを望む。
それは貴族の元にはあるゆる物品、情報が集まるからだ。
それなのにそれを求めず、平民に対して自身の独占している情報を広めるとは……、いや、それこそが勇者としての資質なのかもしれないな。
「ふむ、では実際に彼の持っている技術を確認してから許可を出すかどうかは考えよう。……そういえば、その彼は一人で行動しているのか?」
「いいえ、彼は二人の子供と行動を共にしています。一人は戦闘系の天職を持っている少年で、主に食料の収集を行っていたようです。彼が言うにはバランスの良い食事をとることで能力が上がるらしく、年端のいかない少年であるものの新人以上の実力を持っています」
なんと!?
少年で新人以上の実力……私も騎士として活躍していたこともあるからわかるが年齢の差というのは大きい。
たとえ戦闘系の天職を持っていたとしても戦闘経験の少ないうちは魔獣や獣相手にまともに戦うことは難しいはずだ。
「……もう一人は?」
「もう一人は少女で彼の持つ技術に関する天職を持っています。食事を作る際には彼だけでなく少女も一緒に作っていました」
食事に関する天職持ちか。
おそらくはナイフなどの刃物を扱う天職だろうか、いや、アイリーンや先触れが言うには新技術には火が必要とのことだから火の魔法を使える天職持ちかもしれない。
「ふむ、どのような天職を持っているのだ?」
「はい、料理人という天職だそうです。珍しい天職らしく、村内にはもちろん新人騎士たちの周囲にもそのような天職を持っているのものはいないとか」
料理人!?
まさか、それはイーリスの持つ天職と同じではないか!?
ウィリアムの報告が正しいのなら、天職を確認してから引きこもりがちになっているイーリスにも朗報なのでは!?
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