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3.5章 閑話
10 恋敵!? ミーナ視点
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マサトさんと出会って、わたしの生活は一変しました。
今のわたしは村の役立たずでもない、お兄ちゃんについていくだけの存在もありません。
マサトさんの役に立つ、マサトさんと同じように料理ができる存在です。
ですが、マサトさんとわたし、そしてお兄ちゃんの三人でできることには限度があるのです。
具体的には何十人もの騎士の方たちの食事を用意するのは大変でした。
領都へと移動もしなければならないので、朝早くに起きて、夜も遅くまで料理の準備に追われる毎日でした。
それでも、マサトさんに褒められたり、騎士の人たちがわたしの作った料理をおいしそうに食べてくれる様子は心がほっこりとしました。
そんな風に達成感と疲労を感じていたわたしの前に現れたのは、わたしと同じ、料理人の天職をもつ領主様の娘のイーリス様でした。
領都で食堂を経営しようと考えていたマサトさんに弟子入りという形で、食堂を手伝ってくださるイーリス様は初めは料理に対して何も知りませんでしたが、わたしやマサトさんが教えるうちに見る見るうちに料理の腕を上げています。
マサトさんが鑑定した限りだと、パン職人というパンを作ることに特化した天職のようで、パン作りだけに限ればマサトさんもわたしも直ぐにイーリス様に敵わなくなりました。
領都についてすぐのころは、新しい食材の発見やマサトさんから教えてもらえる新しい料理のことで忙しかったので考えもしなかったのですが、イーリス様が現れたことでわたしの中にもやもやが生まれました。
マサトさんと並ぶイーリス様はちょうど年の頃もつり合いが取れて、わたしと一緒の時にあるような兄妹のような、親子のような雰囲気がないように感じるのです。
もちろん、わたしの勘違いかもしれませんが、お兄ちゃんに相談してもニヤニヤするだけでまともに取り合ってもらえません。
意を決して、イーリス様と一緒にお風呂に入っているときに聞いてみました。
「イーリス様はマサトさんと結婚なさるんですか?」
「お師匠様と!? うーん……」
イーリス様はマサトさんのいないところではマサトさんのことをお師匠様と呼びます。
最初はマサト様と警鐘を付けていたのですが、マサトさんにむず痒いと言われてわたしと同じようにマサトさんと呼んでいるのですが、本当はお師匠様と呼びたいみたいです。
「ミーナちゃんにはそう見えるのかな?」
わたしも王国で育っていますからお貴族様が平民と結婚するなど夢物語の中にしかないと知っています。
村長さんとかにはこの領の領主様はお優しい人だと教えられていますが、それと貴族が平民との垣根を超えることは全く違うことです。
でも、マサトさんは神様と出会っていたり、この世界にはないような新しい技術を持っている人です。
そんな希少な人ならばお貴族様が結婚して囲い込みたいと考えてもおかしくはないと思ったのです。
「マサトさんとイーリス様は年の頃もあいますし、なによりイーリス様はマサトさんのことを尊敬しているように見えるのです」
「うーん、確かにお師匠様にはいろんな御恩があるし、料理に関することを何の対価もなく広めてくれていることには感謝してるけど……」
やっぱりわたしがにらんだ通り、イーリス様はマサトさんのことを憎からず思っているようです。
「……でもね…あ、これはお師匠様には言わないでほしいんだけど、私、お父様のように体を鍛えている人が好きなの」
イーリス様のお父様…領主のジョシュア様は何度か直接会ったこともありますが、確かに鍛えていてムキムキでした。
反面、マサトさんはお世辞にも鍛えているようには見えず、領都までの道中一緒になった新人だと紹介された騎士様よりもひ弱に見えます。
マサトさんにこんなことを言ったら、別に戦う気もないからそれでいいよ。とか言いそうですが……。
「……ウィリアムさんみたいなですか?」
ウィリアムさんは騎士団を率いる団長様で、天職が戦闘系ではないから人一倍体を鍛えていたと言っていました。
「そうそう。……あ、でもウィリアムは意外に腹黒い一面があるから対象外だけどね。私は純朴でコロコロ笑うような人が好きなんだよね」
マサトさんは純朴ではありますが、考え込んだり、人の目を気にするので人前でおおっぴらに感情を出すことは少ないです。
「それに私はこの天職をシェリルバイト領のために役立てたいからね。世界を周って料理の技術を広めようと思っているお師匠様と結婚するのは無理かなぁ」
「お貴族様は他の家にお嫁に行くものではないのですか?」
村長さんや村の大人たちは貴族に生まれれば、他の土地に嫁に行くのが当然だ。だから、結婚相手のいない人間は他の村に行くのは何もおかしくない。と言っていたのでそう思っていたのですが。
「まあね。でも、私は天職のせいで他の貴族と結婚することもせずに行き遅れているし、料理の技術を広めるのにも相手を選ばないといけないから同派閥だとしても貴族との結婚は難しいかな」
よくわかりませんが、お貴族様同士の結婚には天職が最重要になるみたいです。
農村では農家の天職持ちでないと結婚相手を見つけるのが難しいのと一緒でしょうか。
「つまり、イーリス様はマサトさんとは結婚しないと?」
「そうだよ。この領のために領都で料理を作って、料理っていう新しい技術が広まってからゆっくり考えるかな、結婚は」
イーリス様の考えがわかって少しホッとしました。
「それよりもさあ、そんな風に私とお師匠様のことを心配するなんて、ミーナちゃんこそお師匠様のこと好きなんじゃないの?」
「……それは……よくわかりません」
わたしは村ではいないものとして扱われていましたし、まともに交流できていたのはお兄ちゃんと面倒を見てくれていた村長さんくらいで、要は身内です。
だから、この気持ちがなんなのか……恋なのか…それともそれ以外の何かなのかはよくわかりません。
「ふーん、まあミーナちゃんはまだまだこれから成長するんだし、体が成長しきってからわかる感情っていうのもあるからね」
多分、イーリス様の言うようにこの気持ちの真意がわかるのはもっと先のことなのでしょう……。
「それよりさあ、ここまでいろんなことをお話ししたんだし、イーリス様じゃなくてもっと親密な呼び方をしてほしいなぁ」
「……でも、イーリス様は領主様のご家族ですし」
「別にお師匠様にもイーリスって呼び捨てにしてもらってるんだし、問題はないよ?」
「……ええと…」
「じゃあじゃあ、呼び捨ては難しいとしてもレイジ君がお師匠様を呼ぶみたいにイーリスお姉ちゃんとか呼んでくれないかな? 私、お姉さまはいたけど妹はいないから憧れていたんだよね」
この時のことをきっかけにわたしはイーリス様のことをイーリスさんと呼ぶことになりました。
でも、イーリスさんと二人だけの時にはイーリスお姉ちゃんと呼ばされることになったのです。
今のわたしは村の役立たずでもない、お兄ちゃんについていくだけの存在もありません。
マサトさんの役に立つ、マサトさんと同じように料理ができる存在です。
ですが、マサトさんとわたし、そしてお兄ちゃんの三人でできることには限度があるのです。
具体的には何十人もの騎士の方たちの食事を用意するのは大変でした。
領都へと移動もしなければならないので、朝早くに起きて、夜も遅くまで料理の準備に追われる毎日でした。
それでも、マサトさんに褒められたり、騎士の人たちがわたしの作った料理をおいしそうに食べてくれる様子は心がほっこりとしました。
そんな風に達成感と疲労を感じていたわたしの前に現れたのは、わたしと同じ、料理人の天職をもつ領主様の娘のイーリス様でした。
領都で食堂を経営しようと考えていたマサトさんに弟子入りという形で、食堂を手伝ってくださるイーリス様は初めは料理に対して何も知りませんでしたが、わたしやマサトさんが教えるうちに見る見るうちに料理の腕を上げています。
マサトさんが鑑定した限りだと、パン職人というパンを作ることに特化した天職のようで、パン作りだけに限ればマサトさんもわたしも直ぐにイーリス様に敵わなくなりました。
領都についてすぐのころは、新しい食材の発見やマサトさんから教えてもらえる新しい料理のことで忙しかったので考えもしなかったのですが、イーリス様が現れたことでわたしの中にもやもやが生まれました。
マサトさんと並ぶイーリス様はちょうど年の頃もつり合いが取れて、わたしと一緒の時にあるような兄妹のような、親子のような雰囲気がないように感じるのです。
もちろん、わたしの勘違いかもしれませんが、お兄ちゃんに相談してもニヤニヤするだけでまともに取り合ってもらえません。
意を決して、イーリス様と一緒にお風呂に入っているときに聞いてみました。
「イーリス様はマサトさんと結婚なさるんですか?」
「お師匠様と!? うーん……」
イーリス様はマサトさんのいないところではマサトさんのことをお師匠様と呼びます。
最初はマサト様と警鐘を付けていたのですが、マサトさんにむず痒いと言われてわたしと同じようにマサトさんと呼んでいるのですが、本当はお師匠様と呼びたいみたいです。
「ミーナちゃんにはそう見えるのかな?」
わたしも王国で育っていますからお貴族様が平民と結婚するなど夢物語の中にしかないと知っています。
村長さんとかにはこの領の領主様はお優しい人だと教えられていますが、それと貴族が平民との垣根を超えることは全く違うことです。
でも、マサトさんは神様と出会っていたり、この世界にはないような新しい技術を持っている人です。
そんな希少な人ならばお貴族様が結婚して囲い込みたいと考えてもおかしくはないと思ったのです。
「マサトさんとイーリス様は年の頃もあいますし、なによりイーリス様はマサトさんのことを尊敬しているように見えるのです」
「うーん、確かにお師匠様にはいろんな御恩があるし、料理に関することを何の対価もなく広めてくれていることには感謝してるけど……」
やっぱりわたしがにらんだ通り、イーリス様はマサトさんのことを憎からず思っているようです。
「……でもね…あ、これはお師匠様には言わないでほしいんだけど、私、お父様のように体を鍛えている人が好きなの」
イーリス様のお父様…領主のジョシュア様は何度か直接会ったこともありますが、確かに鍛えていてムキムキでした。
反面、マサトさんはお世辞にも鍛えているようには見えず、領都までの道中一緒になった新人だと紹介された騎士様よりもひ弱に見えます。
マサトさんにこんなことを言ったら、別に戦う気もないからそれでいいよ。とか言いそうですが……。
「……ウィリアムさんみたいなですか?」
ウィリアムさんは騎士団を率いる団長様で、天職が戦闘系ではないから人一倍体を鍛えていたと言っていました。
「そうそう。……あ、でもウィリアムは意外に腹黒い一面があるから対象外だけどね。私は純朴でコロコロ笑うような人が好きなんだよね」
マサトさんは純朴ではありますが、考え込んだり、人の目を気にするので人前でおおっぴらに感情を出すことは少ないです。
「それに私はこの天職をシェリルバイト領のために役立てたいからね。世界を周って料理の技術を広めようと思っているお師匠様と結婚するのは無理かなぁ」
「お貴族様は他の家にお嫁に行くものではないのですか?」
村長さんや村の大人たちは貴族に生まれれば、他の土地に嫁に行くのが当然だ。だから、結婚相手のいない人間は他の村に行くのは何もおかしくない。と言っていたのでそう思っていたのですが。
「まあね。でも、私は天職のせいで他の貴族と結婚することもせずに行き遅れているし、料理の技術を広めるのにも相手を選ばないといけないから同派閥だとしても貴族との結婚は難しいかな」
よくわかりませんが、お貴族様同士の結婚には天職が最重要になるみたいです。
農村では農家の天職持ちでないと結婚相手を見つけるのが難しいのと一緒でしょうか。
「つまり、イーリス様はマサトさんとは結婚しないと?」
「そうだよ。この領のために領都で料理を作って、料理っていう新しい技術が広まってからゆっくり考えるかな、結婚は」
イーリス様の考えがわかって少しホッとしました。
「それよりもさあ、そんな風に私とお師匠様のことを心配するなんて、ミーナちゃんこそお師匠様のこと好きなんじゃないの?」
「……それは……よくわかりません」
わたしは村ではいないものとして扱われていましたし、まともに交流できていたのはお兄ちゃんと面倒を見てくれていた村長さんくらいで、要は身内です。
だから、この気持ちがなんなのか……恋なのか…それともそれ以外の何かなのかはよくわかりません。
「ふーん、まあミーナちゃんはまだまだこれから成長するんだし、体が成長しきってからわかる感情っていうのもあるからね」
多分、イーリス様の言うようにこの気持ちの真意がわかるのはもっと先のことなのでしょう……。
「それよりさあ、ここまでいろんなことをお話ししたんだし、イーリス様じゃなくてもっと親密な呼び方をしてほしいなぁ」
「……でも、イーリス様は領主様のご家族ですし」
「別にお師匠様にもイーリスって呼び捨てにしてもらってるんだし、問題はないよ?」
「……ええと…」
「じゃあじゃあ、呼び捨ては難しいとしてもレイジ君がお師匠様を呼ぶみたいにイーリスお姉ちゃんとか呼んでくれないかな? 私、お姉さまはいたけど妹はいないから憧れていたんだよね」
この時のことをきっかけにわたしはイーリス様のことをイーリスさんと呼ぶことになりました。
でも、イーリスさんと二人だけの時にはイーリスお姉ちゃんと呼ばされることになったのです。
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