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3.5章 閑話
12 シェリルバイト領の行く末 ランドール視点
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私の名前はランドール・シェリルバイト。
シェリルバイト領の次期領主という立場の人間だ。
本来なら領主を継いでいてもいい年齢ではあるものの、末妹のイーリスが天職の関係で嫁に行けていないということと現領主が王から信頼されすぎているので引継ぎに時間がかかっているのだ。
シェリルバイト家は王国建国から王家に仕える由緒正しい貴族で、本来ならば侯爵あたりの爵位が妥当なのだが、シェリルバイト家の人間が権力を高めることよりも領民に寄り添うことを選択しているため子爵という地位に納まっている。
先代、先々代のように過去の領主はもちろん、現領主である父上も数々の功績をあげているので王族は伯爵くらいにはしたいらしいが、爵位を上げるために王宮への出仕を求められるのでなかなか首を縦に振れない状況だ。
なんせ、シェリルバイト家はなぜか女児の生まれる確率の高い家系らしく、父上の代でも領主候補だった父上以外に男児が生まれたら王宮に出仕するように王家に求められたものの結局男児は父上一人だけだった。
それは今代でも同様で、私は四人兄弟の一番上だが下の子供は全員が女児で妹しかいない。
そんなわけで王都で活躍できないことと爵位が上がれば面倒を見る領民が増え、王都に送る税が上がることから子爵のままで過ごしている。
まあ、私としても爵位が低いから領都に住んでいる民と気軽に接することができるから爵位はこのままでいいという考えがあるしな。
末妹のイーリスだが、幼少期は他の妹同様に活発な少女で領都に遊びに出たり騎士団に交じって訓練をしていた。
だが、天職の鑑定を行った際に料理人という見たことも聞いたこともない天職だったこと、その天職が領政の役に立たなかったことから家の中に引きこもるようになってしまった。
この国の貴族は領政に役に立つ天職でない限り、どれだけ容姿や性格が優れていても異性としての魅力がないと断言されてしまうのでイーリスが嫁に行く先もなくなってしまった。
父上も母上も、もちろん私も天職が何であれ大切な家族のイーリスに冷たく当たったりはしなかったし、イーリスができることをみつけることを願っていたが、その考え自体がイーリスには負担だったのかもしれない。
そんなイーリスを変えたのは奇妙なスキルを持った一人の青年だった。
騎士団長のウィリアムが連れてきたマサトと呼ばれている青年は、食用には向いていないと言われていた食材を見事に食べられるように加工できる技術を持っていた。
その技術の名が料理ということ、青年が連れてきた少女が料理人の天職を持ち、青年の手伝いをしていたことでイーリスにもその技術を伝えてほしいと父上が願い出た。
希少な天職に関する技術なので、当然断られるか莫大な謝礼を求められるだろうとビクビクしていたのだが、青年は無欲なのか大した対価も求めず技術を公開してくれた。
その技術のおかげか、それとも同年代の人間と交流できたからなのかイーリスの性格は本来のものに戻り、今では率先して食堂に通うようになった。
父上が言うには食堂で作られているような食事には通常の食事では鍛えられない能力が上がる可能性があるらしく、騎士団では筋力や素早さが上がっている団員もいるらしい。
騎士団の人間は魔獣や獣の討伐に駆り出されることも少なくなく、その任務の際には多くの怪我人と少なくはない死者が出る。
領民を守るためとはいえ団員の死者には心を痛めていたから、それが少なくなるのなら未知の技術だろうと受け入れる価値はある。
我が家が属している派閥は領民に寄り添う貴族の集まりなので、周辺の領地でもこの新技術は歓迎されるだろう。
「というわけで爵位をお前に譲ろうと思うのだ」
「なにが、というわけで、なのか分かりませんが」
「なに、イーリスは料理人の道を進むことが確定したのでこの家に居続けていても問題がなくなっただろう。それにマサト君がなそろそろここを旅立って違う土地で料理を広めたいと言っているのだよ」
なるほど、周辺の領地は我が家の派閥の貴族ばかりだからマサト君に広めてもらうよりも我が家が広めたほうが派閥の強化につながるということか。
「マサト君の要望は理解できますが、それと私に爵位を譲ることの関係性は?」
「爵位の譲渡には王都への報告が必須だ。それにマサト君を連れていけば王都で料理を広めることができるだろう。周辺領地へのお披露目もできるしな」
「ふむ、父上の言いたいことは理解しましたが、実は父上が隠居したいだけですよね?」
「言うな。どうせ料理について知られたらまた王宮から説明に来いだの他派閥へも技術を公開しろだのうるさいのだ。国王とは交流のないお前のほうが断りやすいだろうが」
はあ、父上は今の国王様とは若いころからの付き合いがあるからか是非にと頼まれると断れないらしいからな。
「確かに私ならば接点はないのでそれほど無茶な注文はされないでしょうが、相手は国王様ですよ。そんな簡単に断れる相手ではないでしょうに」
「いや、我が家は十分以上に王国に貢献している。個人の付き合いならばともかく家としては無茶を断っても問題はない。それに王宮に詰めている悪い貴族の見本市みたいなやつらに無償で新技術を公開するほどお人よしではないからな」
確かに、現在王宮に詰めている貴族の大半は平民を虫のように扱い、獣や魔獣の被害に遭っていても騎士団の派遣すらしないと噂に聞くからな。
周辺の貴族でさえいくらかの対価は求めるのに王都にいるというだけで簡単に情報をもらえると考えられるのは業腹だ。
それに料理については料理人の天職持ちが必須の技術だから、今現在有用と言われている天職持ちばかりを優遇し、それ以外の人間をないがしろにしている領地にはこの技術は広まりづらいだろう。
「では、マサト君とともに王都へ向かい爵位の継承についての許可をいただく、王都のタウンハウス近くで食堂を開いてもらう、派閥の貴族家に料理を広める。この工程でよろしいですか?」
「ああ、流石陛下に一言もなしではまずいだろうから、継承の際に軽く言っておけ。その内お前宛に何らかの理由で登城命令が出るだろう」
「まさかとは思いますが、直接マサト君に対して召喚状など出しませんよね」
「陛下はそこまで阿呆ではないだろう。王族が平民を城に呼び出すなど前代未聞だからな。……まあ、馬鹿な貴族にそそのかされればわからんが」
わからんのか。
今の国王様とは直接接したことはないが、王都から出たことがなく傲慢の塊ともいえるような貴族に囲まれていれば何をしても許されると勘違いをしていてもおかしくはない……のか?
「陛下がマサト君に無茶な要求をしてきた場合には……」
「ああ、その場合には代々の教えに従い王族に渇を入れてやれ。馬鹿な貴族に囲まれている陛下にはいい薬だろう。……領主の印章は先に渡しておくから、マサト君がこの国からでなければならない状況になったらシェリルバイト家の紹介状を渡しておけ」
イーリスや父上からマサト君は世界中に料理の技術を広めることを使命としていると聞いている。
この国からマサト君が消えてしまうの大きな痛手だが、家族を助けてくれたマサト君の意向が一番大事だ。
王都のバカな貴族が数年ほどは手出しをしてこないことを祈ろう。
シェリルバイト領の次期領主という立場の人間だ。
本来なら領主を継いでいてもいい年齢ではあるものの、末妹のイーリスが天職の関係で嫁に行けていないということと現領主が王から信頼されすぎているので引継ぎに時間がかかっているのだ。
シェリルバイト家は王国建国から王家に仕える由緒正しい貴族で、本来ならば侯爵あたりの爵位が妥当なのだが、シェリルバイト家の人間が権力を高めることよりも領民に寄り添うことを選択しているため子爵という地位に納まっている。
先代、先々代のように過去の領主はもちろん、現領主である父上も数々の功績をあげているので王族は伯爵くらいにはしたいらしいが、爵位を上げるために王宮への出仕を求められるのでなかなか首を縦に振れない状況だ。
なんせ、シェリルバイト家はなぜか女児の生まれる確率の高い家系らしく、父上の代でも領主候補だった父上以外に男児が生まれたら王宮に出仕するように王家に求められたものの結局男児は父上一人だけだった。
それは今代でも同様で、私は四人兄弟の一番上だが下の子供は全員が女児で妹しかいない。
そんなわけで王都で活躍できないことと爵位が上がれば面倒を見る領民が増え、王都に送る税が上がることから子爵のままで過ごしている。
まあ、私としても爵位が低いから領都に住んでいる民と気軽に接することができるから爵位はこのままでいいという考えがあるしな。
末妹のイーリスだが、幼少期は他の妹同様に活発な少女で領都に遊びに出たり騎士団に交じって訓練をしていた。
だが、天職の鑑定を行った際に料理人という見たことも聞いたこともない天職だったこと、その天職が領政の役に立たなかったことから家の中に引きこもるようになってしまった。
この国の貴族は領政に役に立つ天職でない限り、どれだけ容姿や性格が優れていても異性としての魅力がないと断言されてしまうのでイーリスが嫁に行く先もなくなってしまった。
父上も母上も、もちろん私も天職が何であれ大切な家族のイーリスに冷たく当たったりはしなかったし、イーリスができることをみつけることを願っていたが、その考え自体がイーリスには負担だったのかもしれない。
そんなイーリスを変えたのは奇妙なスキルを持った一人の青年だった。
騎士団長のウィリアムが連れてきたマサトと呼ばれている青年は、食用には向いていないと言われていた食材を見事に食べられるように加工できる技術を持っていた。
その技術の名が料理ということ、青年が連れてきた少女が料理人の天職を持ち、青年の手伝いをしていたことでイーリスにもその技術を伝えてほしいと父上が願い出た。
希少な天職に関する技術なので、当然断られるか莫大な謝礼を求められるだろうとビクビクしていたのだが、青年は無欲なのか大した対価も求めず技術を公開してくれた。
その技術のおかげか、それとも同年代の人間と交流できたからなのかイーリスの性格は本来のものに戻り、今では率先して食堂に通うようになった。
父上が言うには食堂で作られているような食事には通常の食事では鍛えられない能力が上がる可能性があるらしく、騎士団では筋力や素早さが上がっている団員もいるらしい。
騎士団の人間は魔獣や獣の討伐に駆り出されることも少なくなく、その任務の際には多くの怪我人と少なくはない死者が出る。
領民を守るためとはいえ団員の死者には心を痛めていたから、それが少なくなるのなら未知の技術だろうと受け入れる価値はある。
我が家が属している派閥は領民に寄り添う貴族の集まりなので、周辺の領地でもこの新技術は歓迎されるだろう。
「というわけで爵位をお前に譲ろうと思うのだ」
「なにが、というわけで、なのか分かりませんが」
「なに、イーリスは料理人の道を進むことが確定したのでこの家に居続けていても問題がなくなっただろう。それにマサト君がなそろそろここを旅立って違う土地で料理を広めたいと言っているのだよ」
なるほど、周辺の領地は我が家の派閥の貴族ばかりだからマサト君に広めてもらうよりも我が家が広めたほうが派閥の強化につながるということか。
「マサト君の要望は理解できますが、それと私に爵位を譲ることの関係性は?」
「爵位の譲渡には王都への報告が必須だ。それにマサト君を連れていけば王都で料理を広めることができるだろう。周辺領地へのお披露目もできるしな」
「ふむ、父上の言いたいことは理解しましたが、実は父上が隠居したいだけですよね?」
「言うな。どうせ料理について知られたらまた王宮から説明に来いだの他派閥へも技術を公開しろだのうるさいのだ。国王とは交流のないお前のほうが断りやすいだろうが」
はあ、父上は今の国王様とは若いころからの付き合いがあるからか是非にと頼まれると断れないらしいからな。
「確かに私ならば接点はないのでそれほど無茶な注文はされないでしょうが、相手は国王様ですよ。そんな簡単に断れる相手ではないでしょうに」
「いや、我が家は十分以上に王国に貢献している。個人の付き合いならばともかく家としては無茶を断っても問題はない。それに王宮に詰めている悪い貴族の見本市みたいなやつらに無償で新技術を公開するほどお人よしではないからな」
確かに、現在王宮に詰めている貴族の大半は平民を虫のように扱い、獣や魔獣の被害に遭っていても騎士団の派遣すらしないと噂に聞くからな。
周辺の貴族でさえいくらかの対価は求めるのに王都にいるというだけで簡単に情報をもらえると考えられるのは業腹だ。
それに料理については料理人の天職持ちが必須の技術だから、今現在有用と言われている天職持ちばかりを優遇し、それ以外の人間をないがしろにしている領地にはこの技術は広まりづらいだろう。
「では、マサト君とともに王都へ向かい爵位の継承についての許可をいただく、王都のタウンハウス近くで食堂を開いてもらう、派閥の貴族家に料理を広める。この工程でよろしいですか?」
「ああ、流石陛下に一言もなしではまずいだろうから、継承の際に軽く言っておけ。その内お前宛に何らかの理由で登城命令が出るだろう」
「まさかとは思いますが、直接マサト君に対して召喚状など出しませんよね」
「陛下はそこまで阿呆ではないだろう。王族が平民を城に呼び出すなど前代未聞だからな。……まあ、馬鹿な貴族にそそのかされればわからんが」
わからんのか。
今の国王様とは直接接したことはないが、王都から出たことがなく傲慢の塊ともいえるような貴族に囲まれていれば何をしても許されると勘違いをしていてもおかしくはない……のか?
「陛下がマサト君に無茶な要求をしてきた場合には……」
「ああ、その場合には代々の教えに従い王族に渇を入れてやれ。馬鹿な貴族に囲まれている陛下にはいい薬だろう。……領主の印章は先に渡しておくから、マサト君がこの国からでなければならない状況になったらシェリルバイト家の紹介状を渡しておけ」
イーリスや父上からマサト君は世界中に料理の技術を広めることを使命としていると聞いている。
この国からマサト君が消えてしまうの大きな痛手だが、家族を助けてくれたマサト君の意向が一番大事だ。
王都のバカな貴族が数年ほどは手出しをしてこないことを祈ろう。
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